Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

「物価安定の目途」の失敗

1日のニューヨーク外国為替市場で円相場は4日続伸し、前日比30銭円高・ドル安の1ドル=77円95銭〜78円05銭で取引を終えた。米雇用統計を受けて、米雇用の回復が鈍化しているとの見方から円買い・ドル売りが優勢となった。一時77円66銭まで上昇し、2月14日以来、ほぼ3カ月半ぶりの高値を付けた。

 5月の米雇用統計で非農業部門の雇用者数は6万9000人増と、1年ぶりの低水準となった。3、4月分も下方修正された。米雇用回復のペースが非常に鈍いとの見方が強まり、円が対ドルで上昇。発表直後に円はこの日の高値を付けた。

 もっとも、円買い一巡後は、円は対ドルで上げ幅を縮めた。77円台の円高・ドル安水準では日本政府・日銀による円売り・ドル買い介入への警戒感が強いという。

 円の安値は78円72銭だった。

 円は対ユーロで8営業日ぶりに反落し、前日比20銭円安・ユーロ高の1ユーロ=96円95銭〜97円05銭で取引を終えた。円が対ユーロで上昇を続けた後の週末とあって、目先の利益を確定したり、持ち高を調整したりする目的の円売り・ユーロ買いがやや優勢となった。

 米雇用統計の発表直後は、円は対ユーロで95円59銭まで買われ、2000年11月以来、11年半ぶりの円高・ユーロ安水準を付ける場面があった。米景気の不透明感が強まり、低金利通貨で相場変動リスクが比較的低いとされる円に運用リスクを避ける目的の資金が流入した。


NY円、続伸 1ドル=77円95銭〜78円05銭、3カ月半ぶり高値 :為替概況 :為替・金融 :マーケット :日本経済新聞 NY円、続伸 1ドル=77円95銭〜78円05銭、3カ月半ぶり高値 :為替概況 :為替・金融 :マーケット :日本経済新聞 NY円、続伸 1ドル=77円95銭〜78円05銭、3カ月半ぶり高値 :為替概況 :為替・金融 :マーケット :日本経済新聞



上の記事にあるように、6/1のニューヨーク市場では1ドル=77円台まで急騰し、2/14以来の高値となりました。この2/14というのは、日銀が「中長期的な物価安定の目途」を公表した日であり、これ以来円安になっていたのですが、その効果もついに消滅したことになります。


今回の円高のきっかけとなったのはアメリカの雇用統計の発表ですが、下のドル円、ユーロ円のチャートを見ると、4月からドルでもユーロでも円高基調であることが分かります。今、アメリカは景気が回復傾向で、ユーロ圏はギリシャ危機で経済が混乱し続けているわけですから、両者の経済状況は全く違います。従って、この円高はアメリカやユーロ圏よりも、日本側の要因の方が強いと考えられます。






従って、4月以降に日本で何が起こったかが問題となりますが、この時期、政府や民間には日本経済全体を揺るがすような大きな動きはありませんでした。政治は相変わらず消費税増税を巡って停滞しているだけでしたし、民間も家電大手の巨額赤字が明らかになったとは言え、それが日本経済全体を混乱させる事態にはなっていません。


そうなると、やはり日銀の動きが大きな要因でしょう。このブログの前2回の記事で書いたように、4/10の金融政策決定会合では金融緩和が見送られ、その次の4/27の決定会合では追加緩和措置が採られたものの、事前に何度もリークが流されたことで緩和の効果が削がれてしまいました。
さらにその間、白川総裁は金融緩和を疑問視する発言を繰り返しています。このような発言を繰り返せば、市場は日銀の緩和姿勢に疑問を持ち、インフレ期待は削がれるでしょう。


この傾向は5月になっても続きました。5/23日の決定会合では金融緩和が見送られただけではなく、声明から「強力に金融緩和を推進する」との文言が削られ、「引き続き適切な政策運営に努めていく」との表現に変更されました。この点については後で白川総裁が釈明してますが、変更がないなら声明を変える必要は無いはずですから、日銀が金融緩和に消極的になったという印象を市場に与えたことは間違いないでしょう。

[東京 23日 ロイター] 日銀は22─23日に開いた金融政策決定会合政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0─0.1%程度に据え置くことを全員一致で決定し、現行の金融政策を維持した。

国債やリスク性資産を買い入れる資産買入基金の規模や内容にも変更はなかった。声明では、ギリシャの政治不安などで再燃懸念が強まっている欧州債務問題を受けて国際金融資本市場で神経質な動きがみられており、「当面注意してみていく必要がある」とした。

これまで声明に盛り込まれていた「強力に金融緩和を推進する」との文言が削られ、「引き続き適切な政策運営に努めていく」との表現に代った。


日銀は政策維持、「強力な金融緩和」を「適切な政策運営」に変更 | 日銀特集 | Reuters 日銀は政策維持、「強力な金融緩和」を「適切な政策運営」に変更 | 日銀特集 | Reuters 日銀は政策維持、「強力な金融緩和」を「適切な政策運営」に変更 | 日銀特集 | Reuters

[東京 23日 ロイター] 白川方明日銀総裁金融政策決定会合後の会見で、日銀は強力な金融緩和を推進しているとし、この姿勢はまったく変わっていないと強調。声明文言の変更などで市場に浮上した緩和姿勢の後退懸念を払しょくした。欧州債務問題の再燃を受け、昨年末よりもテール・リスクは低下しているものの「もっとも強く意識すべきリスク要因」と警戒した。


強力な金融緩和推進する姿勢、まったく変わらない=日銀総裁 | 日銀特集 | Reuters 強力な金融緩和推進する姿勢、まったく変わらない=日銀総裁 | 日銀特集 | Reuters 強力な金融緩和推進する姿勢、まったく変わらない=日銀総裁 | 日銀特集 | Reuters



また、この後も白川総裁は、量的緩和の効果を疑問視するような発言をしたり、デフレの原因をマネーの量ではなく人口減少に求めるような発言をするなど、金融緩和の疑問視に繋がる発言を繰り返してます。

[東京 24日 ロイター] 日銀の白川方明総裁が金融緩和の効果を測るのは「量でなく金利」だと発信し始めた。

日銀は基金による国債などの資産買入を導入した2010年当初から、基金の「量」が目的ではなく、資産の買い入れで結果的に金利や各種プレミアムを引き下げるのが主眼と説明しており、日銀の姿勢に変化はない。しかし市場や政府・与野党関係者の間では量の拡大による緩和効果を期待する声が多く、総裁の発信意図が注目されている。

白川総裁は24日午後の衆院社会保障・税一体改革特別委員会で「実質ゼロ金利政策と金融資産の買い入れなどで強力に金融緩和を推進していく」との方針を改めて強調。その上で、ゼロ金利下では日銀が大量に資金を供給しても、資金はそのまま当座預金に預けられる「のれんに腕押し」の状況になっているため、「量では金融緩和の度合いは測れない」と指摘した。総裁は23日の金融政策決定会合後の会見でも、同じ内容の発言を行っている。

また総裁は24日の衆院特別委員会で、2001年3月から06年3月まで実施した量的緩和政策の経験を踏まえ、「マネタリーベースが増えている時に円高になり、量的緩和解除後にむしろ円安になっている」と指摘、量と為替に明確な相関を見出せないとの認識も示している。


緩和効果は「量」で測れないと日銀総裁が強調、「金利」が大事 | Reuters 緩和効果は「量」で測れないと日銀総裁が強調、「金利」が大事 | Reuters 緩和効果は「量」で測れないと日銀総裁が強調、「金利」が大事 | Reuters

[東京 30日 ロイター] 白川方明日銀総裁は30日、日銀金融研究所主催の国際コンファランスであいさつし、先進国では物価上昇率と人口の増加率の相関関係が2000年代に観察されるようになったと指摘した。一方、マネーの増加率と物価上昇率の相関は近年弱まっている、との見方を示した。


先進国の物価上昇率、マネーより人口増加率と関連強い=日銀総裁 | Reuters 先進国の物価上昇率、マネーより人口増加率と関連強い=日銀総裁 | Reuters 先進国の物価上昇率、マネーより人口増加率と関連強い=日銀総裁 | Reuters



さすがにこれだけ金融緩和を疑わせる材料が出てくれば、市場も日銀が本気で「物価安定の目途」を達成するとは信じられなくなるでしょう。だから「物価安定の目途」達成は日銀自らの行動のせいで失敗したと考えて良いと思います。
前回のエントリーで、僕は日銀が自作自演で金融緩和の効果を否定しようとしていると言いました。もし僕の考えが正しければ、そろそろ「やはり金融緩和は効果がなかった」という発言が白川総裁から出てくるかもしれませんね。


しかし、すでに自民党が日銀法改正を公約案に盛り込み、民主党内部でも改正案が出ている状況です。維新の会に近いみんなの党は以前から日銀法改正案を国会に提出しています。この状況で白川総裁がそんなことを言っても、日銀法改正論議をさらに煽るだけでしょう。
今は野田政権が日銀法改正に反対していますが、内閣総辞職や総選挙で内閣が替われば、それが民主党自民党、第三極のいずれであっても、日銀法改正は大きなテーマになるのは間違いないでしょう。

自民党は31日、次期衆院選政権公約第2次案を発表した。外交・安全保障政策に「尖閣諸島の国有化」を明記。「大胆な金融緩和」も掲げ、金融政策への政府の関与を強めるため日銀法を改正。デフレ対策として政府・日銀が物価目標を2%とする協定を結ぶことも盛り込んだ。


朝日新聞デジタル:自民「尖閣の国有化」「日銀法改正」 衆院選公約第2弾 - 政治 朝日新聞デジタル:自民「尖閣の国有化」「日銀法改正」 衆院選公約第2弾 - 政治 朝日新聞デジタル:自民「尖閣の国有化」「日銀法改正」 衆院選公約第2弾 - 政治

  5月31日(ブルームバーグ):民主党の有志議員で構成する「円高・欧州危機等対応研究会」 (会長・小沢鋭仁環境相)は31日の会合で、政府の日本銀行に対する影響力を強めるため独自に作成した日銀法改正案について議論した。物価上昇率の目標達成度が著しく低かった場合に内閣が国会の同意を得て正副総裁や審議委員を解任できるようにすることなどが柱。今後、自民党内の法改正の動きもにらみながら、党の政策調査会にも実現を働きかける。
会合で公表された改正案は、政府が「達成すべき物価上昇率に係る目標を定め、日本銀行に対して指示する」と明記。日銀がこれを達成できなかった場合は、政府に対してその理由を説明することを義務付けている。「物価の安定」については「物価が緩やかな上昇を基調として推移している状態を維持すること」と定義した。


民主有志:日銀法改正案公表、政府に総裁解任権−物価目標めぐり - Bloomberg 民主有志:日銀法改正案公表、政府に総裁解任権−物価目標めぐり - Bloomberg 民主有志:日銀法改正案公表、政府に総裁解任権−物価目標めぐり - Bloomberg