Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

消費税増税後の日本

すでに報じられているように、6/26に民主、自民、公明三党などの賛成多数で、消費税増税法案が衆議院で可決されました。その際、民主党からは多くの反対・棄権票が出て、その中でも小沢一郎氏を中心としたグループは民主党を離党し、新たな政党「国民の生活が第一」を結成しました。
これから参議院での審議が始まりますが、採決前に内閣不信任案が可決されるような事態がない限り、法案の成立は避けられないと思われます。

消費税関連のニュースでは政局絡みの話ばかり報道されますが、本当に重要なのはこの増税で私たちの生活や日本経済がどうなるかでしょう。今回はまずそのことを考えてみたいと思います。

ニッセイ基礎研究所で、消費税が実質GDPに与える影響が試算されています。
それによると、2013年度は駆け込み需要で成長率が0.7%押し上げられるものの、2014年度は実質GDPが1.4%押し下げられ、成長率への影響はマイナス2.1%となるそうです。その後も2015年度は1.5%、2016年度は1.9%押し下げられますので、かなり大きなマイナスの影響を日本経済に与えることは間違いないでしょう。

消費税率が2014年4月に8%へ、2015年10月に10%へ引き上げられる可能性が高くなったことを受けて、消費税率引き上げによる実質GDPへの影響を2013年度から2016年度まで試算した。
2013年度は増税前に個人消費、住宅投資の駆け込み需要が発生し、実質GDPは0.7%押し上げられる。駆け込み需要は年度末にかけて拡大し、税率引き上げ直前の2014年1-3月期には成長率を前期比1.5%(年率6.1%)押し上げると試算される。
2014年度は駆け込み需要の反動減(▲0.7%)と物価上昇に伴う実質所得の低下による影響(▲0.7%)が重なるため、実質GDPは▲1.4%押し下げられる。実質GDP成長率への影響は▲2.1%と非常に大きなものとなるため、2014年度はマイナス成長となる可能性が高い。2015年10月からの税率の再引き上げが困難となる事態も考えられる。
消費税率引き上げに伴う実質GDPのベースラインからの乖離は、2013年度が+0.7%、2014年度が▲1.4%、2015年度が▲1.5%、2016年度が▲1.9%、実質GDP成長率への影響は2013年度が+0.7%、2014年度が▲2.1%、2015年度が▲0.1%、2016年度が▲0.4%と試算される。


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消費税率引き上げによる経済への影響試算(2013〜2016年度)│Weeklyエコノミスト・レター│ニッセイ基礎研究所 消費税率引き上げによる経済への影響試算(2013〜2016年度)│Weeklyエコノミスト・レター│ニッセイ基礎研究所 消費税率引き上げによる経済への影響試算(2013〜2016年度)│Weeklyエコノミスト・レター│ニッセイ基礎研究所



下に1980年以降の経済成長率(実質GDP成長率)のグラフを示しますが、2003〜2007年の経済が安定していた頃でも成長率は2%前後ですから、今回の消費税が経済に与える影響が非常に大きいことが分かります。少なくとも2014年度はマイナス成長になり、その後もそこからなかなか回復できないと思います。何年もマイナス成長が続く可能性もあるでしょう。


実質経済成長率の推移(1980〜2012年) - 世界経済のネタ帳


しかも、増税や負担増は消費税だけではありません。現代ビジネスにこれからのスケジュールが載ってましたが、増税や負担増が目白押しという感じです。このうち、住民税と所得税だけでも、消費税増税分の半分程度はあるので、実質的には消費税が7.5%程度増税されたのに相当する負担となるでしょう。さらに復興増税や年金保険料の増額もありますから、もっと負担は増えることになります。

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全角度取材「家計崩壊に備えよ」 次は復興増税!あなたの預金が狙われている  | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社] 全角度取材「家計崩壊に備えよ」 次は復興増税!あなたの預金が狙われている  | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社] 全角度取材「家計崩壊に備えよ」 次は復興増税!あなたの預金が狙われている  | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]



1997年に消費税が増税されたときは、特別減税の廃止、医療保険の患者本人負担増も合わせて「9兆円の負担増」と言われ、経済が大きく落ち込む一因となりましたが、今回の負担増はそれを上回る規模になることは間違いありません。現在の消費税5%で約10兆円の税収なので、消費税増税分だけで「10兆円の負担増」と言えるでしょう。それに住民税と所得税、復興増税や年金保険料の増額も加えれば、1997年の倍程度の負担増になると思います。


また、1997年以降の大不況はアジア通貨危機も一因でしたが、今回の増税時期には欧州危機が起こるでしょう。すでにギリシャ財政破綻は避けられないと言われてますし、それがスペインなどに飛び火する可能性も大きいでしょう。


さらに3/20の記事でも述べましたが、1997年以降の大不況を長期化させた原因に、日本のデフレがあります。この教訓から消費税増税案には「名目成長率3%、実質成長率2%」のストップ条項がありましたが、三党合意ではこれが努力目標に格下げされてしまいました。これでは消費税増税までにデフレを脱却することは見込めないでしょう。

消費税増税実施に成長率の条件を入れることは財政再建にマイナスか - Baatarismの溜息通信 消費税増税実施に成長率の条件を入れることは財政再建にマイナスか - Baatarismの溜息通信 消費税増税実施に成長率の条件を入れることは財政再建にマイナスか - Baatarismの溜息通信


 ▽付則第18条について
 ・以下の事項を確認する。
 (1)第1項の数値は、政策努力の目標を示すものであること。
 (2)消費税率(国・地方)の引き上げの実施は、その時の政権が判断すること。
 消費税率の引き上げに当たっては、社会保障と税の一体改革を行うため、社会保障制度改革国民会議の議を経た社会保障制度改革を総合的かつ集中的に推進することを確認する。
 「税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、わが国経済の需要と供給の状況、消費税率の引き上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略や事前防災および減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、わが国経済の成長等に向けた施策を検討する」旨の規定を第2項として設ける。
 原案の第2項は第3項とし、「前項の措置を踏まえつつ」を「前2項の措置を踏まえつつ」に修正する。


時事ドットコム:3党合意全文=一体改革 時事ドットコム:3党合意全文=一体改革 時事ドットコム:3党合意全文=一体改革



これらのことから考えると、2014年には1997年を上回る大不況がやってきて、それはその後何年も続くことは間違いないと思います。
1997年以降、それまで3%台だった失業率は4%台に跳ね上がり、その後も概ね4%台から5%台で推移しています。2014年以降はこれが6%以上になるのではないでしょうか?


失業率の推移(1980〜2012年) - 世界経済のネタ帳


また、1998年度には自殺者数も急増しています。こちらについては2008年のリーマンショックの時は景気の悪化にもかかわらず自殺者が増えていないので、景気の悪化だけが原因であるとは言えない面もありますが、2014年以降自殺者数が増えるかどうかは注意しなければいけないでしょう。


http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/images/2741.gif


そして、かつてこのブログでも書きましたが、1997年に消費税増税を実施したにも関わらず、景気の悪化やデフレのため、その後の税収は1997年(平成9年)を上回ることはありませんでした。そして税収減や増税後の景気対策のために公債発行額は増大し、財政再建からは遠ざかってしまいました。

消費税増税は本当に税収を増やすのか? - Baatarismの溜息通信 消費税増税は本当に税収を増やすのか? - Baatarismの溜息通信 消費税増税は本当に税収を増やすのか? - Baatarismの溜息通信



http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/010.gif
一般会計税収の推移:財務省 一般会計税収の推移:財務省 一般会計税収の推移:財務省 このエントリーをはてなブックマークに追加


http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/011.gif
主要税目の税収(一般会計分)の推移 主要税目の税収(一般会計分)の推移 主要税目の税収(一般会計分)の推移


http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/003.gif
一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移 一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移 一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移


今回の消費税増税でも、同じ事になる可能性は大きいでしょう。
景気悪化による所得税法人税の税収減はもちろん起こるでしょう。


さらに公債発行についても、上に述べた附則18条の成長目標を悪用する形で、公共事業による景気対策が行われようとしています。元々、成長目標はデフレ脱却のために積極的な金融政策を行うことを目的に入れられた物でしたが、今回の三党合意では「税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、わが国経済の需要と供給の状況、消費税率の引き上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略や事前防災および減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、わが国経済の成長等に向けた施策を検討する」という規定が追加された結果、財政政策主導の条文にすり替えられてしまいました。
凍結されていた整備新幹線は消費税増税法案衆院通過直後に着工が認可されましたし、自民党は「国土強靱化」という名目で、10年間に200兆円規模の公共事業を主張しています。10年間に200兆円となると、消費税10%分が丸々公共事業に投じられることになり、消費税は財政再建社会保障の財源ではなくなってしまいます。

そもそも財政再建社会保障のために消費税を増税するとずっと説明されてきて、それを信じて増税やむなしと考えた国民や経済学者も多かったはずなのですが、それは真っ赤な嘘だったのでしょうか?

羽田国土交通相は29日の閣議後の記者会見で、北海道、北陸、九州の整備新幹線の未着工3区間について着工を認可したと発表した。

 北海道新幹線の新函館―札幌(211キロ)、北陸新幹線の金沢―敦賀(113キロ)、九州新幹線・長崎(西九州)ルートの諫早―長崎(21キロ)の3区間で、長崎ルートは、建設中の武雄温泉―諫早と一括で整備する。開業は北海道が2035年度、北陸が25年度、九州が22年度の予定で、3区間の総工事費は約3兆400億円を見込んでいる。


整備新幹線、3区間の着工を認可…国交相発表 : 経済ニュース : マネー・経済 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 整備新幹線、3区間の着工を認可…国交相発表 : 経済ニュース : マネー・経済 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 整備新幹線、3区間の着工を認可…国交相発表 : 経済ニュース : マネー・経済 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)


 自民党は5日午前、災害に強い国土や社会を目指す「国土強(きょう)靭(じん)化」に向けた提言をまとめた書籍「国土強靱化 日本を強くしなやかに」の出版記念会を党本部で開いた。谷垣禎一総裁は「3月11日(の東日本大震災)が起き、大きな不安心理があるのは間違いない。多極分散化、均衡ある発展という考え方を生かしていく必要がある。不安を取り除き、デフレ脱却の糸口にしていきたい」と強調し、次期衆院選で国土強靱化を政権公約の柱とする考えを示した。

 また、党の国土強靱化総合調査会の二階俊博会長は「自民党が『人からコンクリートへ』という道をまた歩くのかとの指摘は勉強が足りない。災害をうけて困っている人のために再び安心した生活をつくっていくのが政治ではないか」と語った。

 自民党東日本大震災を踏まえ、大規模災害を想定した基本計画を策定することを盛り込んだ「国土強靱化基本法」を制定し、10年間に200兆円規模のインフラ整備への集中投資を目指している。


自民党が国土強靱化の提言書 谷垣総裁「デフレ脱却の糸口に」 - MSN産経ニュース 自民党が国土強靱化の提言書 谷垣総裁「デフレ脱却の糸口に」 - MSN産経ニュース 自民党が国土強靱化の提言書 谷垣総裁「デフレ脱却の糸口に」 - MSN産経ニュース



また、このような大規模な財政政策が行われた場合、金融緩和がなければ、マンデル・フレミングの法則という現象により、円高となって輸出企業の採算が悪化するため、財政政策による経済効果は小さくなることが分かっています。だからこのような財政政策でデフレを脱却して成長を実現しようとしても、うまく行かないでしょう。


このように、今回の消費税増税は国民の生活を苦しくし、経済を悪化させて大不況を招き、失業者を増大させるものです。そのような代償にも関わらず、税収は上がらず、財政は悪化し、社会保障の不安も消えないでしょう。


もちろん、このようなことが事前にきちんと議論されていれば、このような法案はそのままの形では通らなかったでしょう。
しかし、今回の法案では可決に至る経緯も酷いものでした。3月に民主党内で党内事前審査の議論が行われましたが、永井協議の末に合意しようという状況になったとき、前原政調会長がいきなり議論を打ち切って、勝手に執行部に「一任」してしまいました。その後は国会内で議論が行われましたが、それは審議時間を積み上げて体裁だけ整えるための儀式でしかありませんでした。実際の議論は民主、自民、公明の三党で裏で行われ、そこは財務省が仕切っていました。

 消費税がいよいよ上がりそうだ。2014年4月に8%、15年10月には10%への増税。アタマでは分かっている負担増も、多くの人は肌感覚で拒絶する。決断が必要な歴史の瞬間はあっけなかった。

 6月15日深夜。国会内で民主、自民、公明3党の首脳が消費増税関連法案の修正案への合意文書に署名した。3党の3人は目の前にある紙に、ただペンを滑らせた。

 6月11日から始まった税法の修正協議。「社会保障制度の協議がまとまらない限り、税の話は前に進まない」。民主党藤井裕久税制調査会長や自民党町村信孝税制調査会顧問らは表向き、協議は全く前に進んでいないと口をそろえた。

 こんな「社保待ち」とも言われた状況が続いたが、その協議も15日夜に終わった。その後、1時間ほどで税制の修正案にも合意。ずっと落としどころを探していたのは、やはり財務省だった。

 3党による初回の協議に、財務省は税制を担当する主税局の古谷一之局長が入った。事務方は最小限に抑え、それぞれの政党を背負った政治家が主張を戦わせる。非公開の会議はそんな雰囲気かと思われた。

 内情は少し違った。協議の回数を重ねると、財務省主税局で税制調査会とのやり取りを担う井上裕之税制第一課長のほか、課長補佐クラスも席を並べるようになる。消費税を担当する住沢整税制第二課長も姿を見せた。

 水面下では事務方を巻き込んだ修正作業が着々と進んでいた。「民主党自民党の間では内々に、法案を直すならこの部分にしましょうかという話をしているのです」。6月14日には財務省幹部から、こんな声が漏れた。「このままだと、公明党の得るところが少ないなあ」。別の幹部も、常に3党の落としどころを探っていた。

 法案に盛り込んでいた所得税相続税の課税強化は削除されたものの、もともと「いざとなれば所得、相続にはこだわらない」(財務省幹部)。消費税を5%も引き上げるという目的を想定通りのシナリオで仕上げた手応えはあった。


消費増税、財務省「完勝」の先に  :日本経済新聞 消費増税、財務省「完勝」の先に  :日本経済新聞 消費増税、財務省「完勝」の先に  :日本経済新聞



そして、このようにして決まった「三党合意」が各党の議員に押しつけられました。特に民主党内では反対する「造反」議員は処分すると脅されて、多くの議員が不本意ながら賛成せざるを得ませんでした。それでも反対や棄権をした議員は処分され、小沢グループの反対議員は除名されて新党を作るしかなかったわけです。
党内の議論も国会の議論も無視されて合意もなかったのに、党議拘束だけは押しつけられて財務省製の法案を通すしかなかったというのが、今回の消費税増税法案の実情でしょう。僕は今回の国会を見ていて、「ゴム印会議」と揶揄される中国の全人代を連想しました。日本の場合、共産党の代わりに財務省がいたわけです。
さらにマスコミも増税賛成の報道ばかりで、衆院で可決されてから思い出したかのように国民生活への影響の記事が出てくるという状況でした。その中でも増税反対の論陣を張っていた東京新聞中日新聞グループが、国税局の税務調査を受けたという話も聞きました。
今回の可決に至る経緯が、日本の民主主義を踏みにじるものであったことは間違いないでしょう。これからもこのようなことが繰り返されるのであれば、国会や選挙は形骸化して、官僚が決める政策がそのまま政府の政策となっていくでしょう。今回の国会は「増税翼賛会」と言われましたが、このままでは本当に平成の大政翼賛会となりかねません。


さらに今回の消費税増税では、野田政権が「社会保障と税の一体改革」を謳っていたにもかかわらず、社会保障の改革は「社会保障制度改革国民会議」にゆだねるとされ、先送りされてしまいました。
しかし、昨年、鳴り物入りで行われた「東日本大震災復興構想会議」が、結局復興増税の方向を打ち出すだけで終わり、それ以外の提言がどうなったのか未だにはっきりしないことを考えれば、今回の「国民会議」も同じ道を辿ると思います。「復興構想会議」も事務局を財務官僚によって押さえられた財務省主導の会議でした。おそらく「国民会議」も同じ道を辿り、増税以外はうやむやにされるでしょう。


このように、考えれば考えるほど、国民生活や日本経済、国家財政、さらには民主主義にとっても害ばかりで、財務省やその取り巻きばかりが得をする消費税増税だとしか思えません。
こんなことはどこかでやめさせないと、日本は権力者の取り巻きばかりが得をするクローニー・キャピタリズム(縁故資本主義)になってしまうと思います。
今回の消費税増税で唯一良かったことがあるとしたら、この件について財務省が露骨に介入していることがはっきりしたことでしょう。もし僕の予想が当たって2014年に日本が大不況になったら、その最大の責任者が財務省であることは間違いありません。このことは忘れないようにしないといけませんね。