Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

財務省の財務省による財務省のための消費税増税

8/10に、ついに消費税増税法案が参議院で可決されてしまいました。これで消費税は2014年4月から8%、2015年10月からは10%に引き上げられることになります。一応、「名目成長率3%、実質成長率2%」の努力目標があり、最終的な増税の判断は半年前の来年10月に行われますが、今回法案に賛成した民主、自民、公明の3党のいずれか、あるいはその大連立が政権についていれば、適当に理屈を付けて増税が強行されると思います。
この可決の直前の8/8には、自民党が解散の確約がないと増税に賛成する三党合意を破棄し、少数野党が連合して出していた内閣不信任案に対抗して自民も不信任案を出すという主張する事態になり、一時は法案が成立しなくなる可能性も出たのですが、その後党首会談が行われ、民主党が解散の時期を『近い将来』としていたのを『近いうちに』改めるというよく分からない修正を自民党が受け入れて、法案は成立してしまいました。
この時の党首会談で解散の密約があったのではないかという推測もされていますが、今でもはっきりとした話は出てきていません。なぜ、自民党がこのような人をなめた話を受け入れたのかは、謎のままです。


実はこの時も財務省が裏で動き、自民、民主両党の「火消し」を行ったのではないかという記事があります。これまでも財務省主導で進んできた話でしたから、財務省の意向は民主、自民両党に大きな影響を与えたでしょう。

 国会では急転直下、消費税増税法案が成立した。野田首相民主党の事情より消費税増税を選んだ。衆目監視の密室会談は「解散時期」にとどまらず、解散後の協力関係まで話し合われたのではないか。政権交代から3年、天下を取ったのは「とりあえず増税党」だった。これで民主党の崩壊が加速しそうだ。


 自民党が3党合意破棄の強硬姿勢に転じたことに、最も危機感を抱いたのは財務省だった。政治を消費税増税へと導き、採決の直前まで漕ぎ着けたというのに、土壇場でひっくり返ったら血の滲むような努力が帳消しになる。勝栄二郎次官を中心に官房に「対策本部」を置き、培ってきた財務省人脈を駆使して自民党強硬派を抑え込んだ。

 財務省をヒヤッとさせた自民党内の動きは小泉純一郎元首相が本尊で、切り込み隊長は息子の進次郎衆議院議員。原動力は党内にくすぶる世代交代論、と読んだ財務省は、若手の動きを警戒する重鎮議員に働きかけた。「増税をつぶしたら国際的信用を失います」「格付けが下がり長期金利が跳ね上がる」。小泉親子の策動は火遊びだ、と古参議員に決起を促した。世代交代の標的・森喜郎元首相ばかりか、懐かしい名前の額賀福志郎財務相まで声を上げ「谷垣支持」の党内世論を広げ、火消しは成功した。

 民主党対策は、「党と官邸の切り離し 」だった。輿石東幹事長周辺に財務省人脈は手薄だ。「早期解散反対」でまとまっている幹事長周辺から、妥協策を引き出すのは難しいと見て、自民党の交渉相手を首相官邸に絞った。官邸は「財務省支配」の牙城である。

 民主党執行部を蚊帳の外に置けば、財務省シナリオは進めやすい。交渉役の野田首相・谷垣自民党総裁は「とりあえず増税党」の二枚看板だ。予算のやりくりは財務省の大事な仕事で、財政が深刻な状況になっているのは確かである。だが財政は、政治が目指すビジョンや幸福感を創造するための「道具」である。

 財政を使ってどのような社会を実現するか、大きなデザインを示さず帳尻合わせに躍起となっていては、政治家は経理屋の僕(しもべ)になってしまう。現状に危機感を募らせ、増税を自己目的にする財務省の意向を、政治の場で実践するのが「とりあえず増税党」である。社会保障と税の一体改革といいながら、社会保障のあり方を議論ぜず、不足財源の穴埋めだけを論ずる政府の姿勢はその典型である。


「とりあえず増税党」の勝利 民主党を見切った野田首相|山田厚史の「世界かわら版」|ダイヤモンド・オンライン 「とりあえず増税党」の勝利 民主党を見切った野田首相|山田厚史の「世界かわら版」|ダイヤモンド・オンライン 「とりあえず増税党」の勝利 民主党を見切った野田首相|山田厚史の「世界かわら版」|ダイヤモンド・オンライン



このように、今回の消費税増税財務省が民主、自民、公明の三党の対立を押さえ込んで成立させたものです。マスコミは「決められる政治」などと言ってもてはやしていますが、この言葉が嘘であるのは明らかでしょう。今回の国会で消費税増税以外、ほとんど何も決められず、「税と社会保障の一体改革」と言っておきながら、社会保障改革すら先送りされてしまったのですから。決めたのは財務省であって、民主、自民、公明の三党首脳はその言いなりで動き、党内の財務省に反する動きは全て潰されてしまったのが、今回の国会の姿でした。
まだ国会では解散を巡ってあれこれやっているようですが、消費税増税法案が通ってしまった今となっては、政権交代があっても財務省寄りの党首がいる限り、大した違いはないでしょう。


そして前回の記事でも言ったように、今回の増税財政再建のためでも社会保障のためでもないことがはっきりしました。
東京新聞の長谷川幸博氏は、財務省増税を行う目的を自らの利権のためだと言っています。

 3党合意は確認書で「財政による機動的対応が可能となる中で、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する」という文言を増税法案の附則18条に追加することを盛り込んだ。

 増税の本音はここにある。財務省民主党政権ができる前から社会保障財源の安定化を増税大義名分に掲げてきたが、本当の狙いは初めから消費増税実現のただ1点だった。

 当たり前の話だが、カネに色はついていない。国の予算では社会保障関係費が3割弱を占め、伸び率も毎年1兆円と大きいから「増税で得た財源は社会保障に充てる」と説明してきたにすぎない。しかも、年金や介護の財源なら「これは国民に還元するおカネです」という耳障りのいい話にもなる。

 財務省はなぜ増税を実現したいか。究極的に言えば、自分たち官僚が使える財布が膨らむからだ。懐に余裕がなければ、地方にも議員たちにもゼネコンにもばらまけない。それでは自分たちの既得権益が維持できない。官僚機構は自己実現的に肥大化する。政府の役割、仕事が大きくなって初めて、自分たちの権限も存在意義も高まる。増税は官僚がますます偉くなるために不可欠の仕掛けなのだ。


■官僚利権を確実にするための増税


 消費税を引き上げるためには社会保障を持ち出せばいい、と決まったのはいつか。いまから13年前だ。1999年の予算総則で初めて「基礎年金、老人医療、介護に係る国庫負担は国の消費税収(地方交付税の法廷率分29.5%を除く)を充てる」と記された。

 それ以降「消費税引き上げは社会保障のため」という路線が着々と進められ、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が2007年11月にまとめた08年度予算編成への建議では「社会保障給付費のための安定的な財源の確保が必要である」としたうえで「国民共通の課題として今後、早急に本格的な議論を進め、消費税を含む抜本的な税制改革を実現させるべく取り組んでいく必要がある」と書き込んだ。

 ちなみに、私自身もこの建議をとりまとめた張本人の1人だ。私は05年から08年まで財政審の臨時委員を務めていた。先の07年建議にも委員名簿に私の名前がある。いまでこそ増税に反対しているが、かつてはばりばりの増税派だったからこそ委員に収まったのだが、振り返ってみると、05年時点ですでに「社会保障財源は消費増税で」という路線は完全に固まっていた。

 社会保障財源をいうなら保険料引き上げもあるし、税で賄うとしても消費税以外に所得税とか法人税とかいろいろある。だが、そんな「そもそも論」はとっくに議論の外にあったのだ。

 それからすれば、公共事業のために消費増税などというのは論外もいいところであるはずだ。それが、いよいよ増税が実現しそうな土壇場にきて本当の話になりそうな雲行きだ。実際に国土交通省増税法案が衆院を通過した途端、北海道と北陸、九州・長崎の整備新幹線3ルートの着工を決めてしまった。これで3兆400億円である。

 自民党は3党合意を錦の御旗に「10年間で200兆円」、公明党も「10年間で100兆円」と大手を振ってばらまき大盤振る舞いを言い始めた。なぜかといえば、一番の抵抗勢力だったはずの財務省が容認する姿勢を示しているからだ。

 財務省財政支出拡大に反対してきたのは、あくまで増税実現の先行きがみえない限りにおいての話にすぎない。自公両党の賛成さえ確実にすれば増税法案が通るとなれば、公共事業をお土産にするくらい、なんでもない。ばらまきで自分たちの官僚利権を確実にする、そのための増税だったのだから、ばらまきOKである。


「増税実現ならばらまきOK」が財務省の本音。増税賛成の旗を振ったマスコミがいまさら批判しても所詮は"ポチの遠吠え"だ!  | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 「増税実現ならばらまきOK」が財務省の本音。増税賛成の旗を振ったマスコミがいまさら批判しても所詮は"ポチの遠吠え"だ!  | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 「増税実現ならばらまきOK」が財務省の本音。増税賛成の旗を振ったマスコミがいまさら批判しても所詮は"ポチの遠吠え"だ!  | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]



このように財務省増税を行う目的が自らの利権のためだと考えれば、財務省増税にこだわる理由が分かるように思えます。
財務省の最大の権力は予算を決定し、財政を左右する力です。従って、増税を行って自分たちが使える財布を膨らめば、それだけ権力が増すことになります。
しかし、ここで一つの疑問が出てきます。財布が膨らめば良いのであれば、増税をしなくても景気を回復させて税収を増やしても良いのではないかという疑問です。
しかし、景気が回復すると、民間企業は財政支出や税制優遇措置に頼らなくても、利益を出せるようになります。そうなると財布が膨らんでも、財政が日本経済に及ぼす影響力が減ってしまうので、財務省の影響力も減り、財務省にとっては好ましい事態ではありません。
これに対して増税では、税収が増えればそれで良し、景気が悪化して税収が減っても、日本経済がさらに財政に依存するようになるので、財務省の影響力が増してそれでも良しということになります。消費税の増税が選ばれたのも、これが景気の動向に影響を受けにくい税で、財務省の影響力増大に適しているからだと思います。
一見、この仮説は財務省財政再建を唱えていることと矛盾しているように見えます。しかし、財務省も他の省庁や政治家、圧力団体に言われるままに予算を出していては権力を維持できないので、何か予算を出し渋るための口実が必要です。その口実として財政再建はぴったりです。もちろん、増税を行うための口実にもぴったりなのは、今回の消費税増税で多くの国民、マスコミ、経済学者が財政再建が理由だと信じ込んだことを見ても明らかでしょう。
また、社会保障も同様の口実に使えるでしょう。社会保障増税の口実として使われたのは、今回の増税の経緯や、上の長谷川氏の記事を見ても明らかでしょう。
だから、財務省財政再建社会保障を唱え続けているのでしょう。


ここまでの話を読んで、これが陰謀論だと思った人も多いでしょう。実は、僕自身もそうではないかと疑ったことはありました。
ただし、よく考えてみれば財務省が目指しているのは自らの権力を増大させることであり、これは古今東西どのような組織にも見られる性質でしょう。本来、組織というのは何らかの目的のために作られるものですが、しばしばその目的よりも自らの権力増大を目指しがちになります。
そして、組織内で権力増大に貢献した者を評価して昇進させる仕組みがあれば、それがインセンティブとなって、構成員が自分で考えて権力を増大させるようになります。そのためには組織に与えられた権限を最大限に利用するでしょう。
これを防ぐためには、組織本来の目的、財務省の場合なら日本経済の成長・安定と財政の安定を目指すためのインセンティブが必要になりますが、財務省内部にはそのようなインセンティブはありません。また、上位組織である内閣も首相が毎年交代する状況で安定しないので、財務省に目的に応じた鞭や飴を与えることは出来ず、逆に財政に関する知識や情報、そして政治家やマスコミを操るノウハウを握った財務省にコントロールされることになります。そのようなノウハウの一つとして、国税庁が握る財務情報を利用する手法もあります。
このように財務省に関わるインセンティブ構造を考えれば、陰謀の存在を仮定しなくても、財務省の目的が自らの利権追求であると考えられるでしょう。


このような財務省の利権追求の動きは、昔からずっとあったことだと思います。ただ、昔は日本経済が成長していたので、財政に依存しない民間部門の経済も成長していました。だからその一部を財務省が利権としてかすめ取っても、国民生活に大きな影響はなく、見過ごしても良い話だったと思います。
しかし、現在は長期のデフレのせいで民間部門が成長せず、日本経済は財政に依存するようになっています。今回の消費税増税で、新聞業界が軽減税率を求め続けたのもその一例でしょう。エコカー減税や地デジ移行が自動車業界や電機業界の業績を左右したのも、一つの例だと思います。
このような状況は財務省にとっては好都合なのでしょうが、日本自体や国民の生活にとっては大きな災厄です。このような状態が続けば、日本は財務省の取り巻きばかりが得をするクローニー・キャピタリズム(縁故資本主義)になってしまい、国民はどんどん貧しくなり、日本の国際的な影響力も弱まっていくでしょう。最近騒ぎになっている竹島尖閣諸島を巡る韓国や中国との対立も、日本が長年経済停滞を続けていたのに対し、韓国や中国は通貨危機や国内の混乱にも関わらず経済成長を続け、その結果中韓の軍事力が相対的に強まったことが根本的な原因でしょう。


どこかでこのような財務省の暴走を止めて、日本経済と財政の安定を考える組織に戻さないと、日本はどんどん弱体化していくと思います。*1
今回の消費税増税の件では残念ながらそれはできませんでしたが、それは政権が安定せず、しかも与党と野党第一党双方の党首を財務省に押さえられていたため、与野党対立による政治の混乱の中で消費税増税が廃案になることを期待するしかなかったからでしょう。だから財務省が対立を押さえ込んで、増税が通ってしまいました。
本来ならば、安定した政権を作り、そのトップが日本経済の成長と安定のために政治を行う必要があります。今、話題の「維新の会」がその任に堪えるかどうかは分かりませんが、それが可能ならそれでよし、それがダメなら別の人物や政党にそれを託するかないのでしょう。日本経済の状況を考えると、そのような試行錯誤をいつまで続けられるのかという不安は拭えないのですが。

*1:今回の記事では述べませんでしたが、このことは日本経済を悪化させているもう一つの暴走組織である日本銀行にも言えることです。