Baatarismの溜息通信

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民主党をぶっ潰した野田政権の最期

野田総理は11/14の自民党安倍総裁との党首討論で、特例公債法案成立と次期国会での衆院定数削減成立を条件として衆院解散すると明言し、自民党がその条件を受け入れたため、16日に衆院は解散され、総選挙となりました。

この野田総理の突然の衆院解散について、野田総理を評価する声があります。確かに多くの国民は早期の解散総選挙を望んでいましたので、選挙を恐れる民主党内の反対の声を押し切っての決断は好感を持たれたでしょう。また、協力を巡って政党間で不協和音を生んでいた「第三極」の体制が整わないうちに解散して、少しでも負けを押さえようという思惑や、ダブル選挙で参院まで失うよりは、早期に政権を明け渡して野党として反転攻勢を狙い、参院選での巻き返しを狙うという考えも間違ってはいないと思います。
ただ、その一方で、民主党が相次ぐ離党によって衆院過半数割れ寸前に追い込まれていたことも事実です。解散表明後はさらに離党する議員が増え、現在では過半数割れしてしまいました。このような離党の動きを考えると、やはり野田政権は退陣ぎりぎりまで追い詰められていて、その状態での最善策が今回の解散だったということでしょう。


だから、今回の解散を評価するには、なぜこのような大量離党がな起こったかを考える必要があると思います。
僕はその発端は、3月に行われた消費税増税法案の党内事前審査にあったと思います。この件については9/1の記事でも述べました。

まず野田政権についてですが、もしこの政権が主導権を握っているとすれば、何故民主党が分裂してしまったのかという疑問が出てきます。現在から見れば一見不可避だったように見える分裂ですが、実は回避できる可能性はありました。3月に民主党内で党内事前審査の議論が行われましたが、この時は長い協議の末に、賛成派と反対派が折り合って合意しようという状況になっていました。この時に合意が出来ていれば、成長条項で今より厳しい条件はついていたでしょうが、民主党内は消費委増税で合意し、後の党分裂も避けられたでしょう。しかしこの時は前原政調会長がいきなり議論を打ち切って、勝手に執行部に「一任」してしまいました。この時の合意手続きのまずさが、後に造反議員が続出し、党が分裂する原因だったと思います。
ここで強引に議論が打ち切られたのは、成長条項を厳しくするという譲歩を民主党執行部が飲めなかったからでしょう。成長条項を骨抜きにするというのは、増税を確実にするためにはどうしても必要なことだったのでしょう。このように党を分裂させてでも頑なな姿勢を取ったのは、民主党執行部も別の勢力の意向を無視できなかったからだと考えれば、すっきり理解できます。そのような勢力は、財務省以外にいないでしょう。


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この件はマスコミではあまり報道されなかったので、すでに忘れてしまった人も多いと思いますが、僕はこのことが民主党の運命を決定づけてしまったのだと思います。


そもそも政権を取ろうという政党ならば、衆参合わせて300人以上の議員は必要になります。これだけの数の議員が統一された考えを持っていることはありえないので、そのような大政党は常に意見対立を抱えていることになります。しかし、国会では政党として統一された投票をしなければ(党議拘束)、政党としての力を発揮できません。だから、政党において、党内の意見を集約して政策を決定し、決定された政策については反対派も自分の意見を曲げて支持をすることが必要になります。そのためには党内で認められた一定の手続きを踏んで、正当性を確立する必要があるでしょう。そのような正当性を得た政策だからこそ、党議拘束に議員が従うことが正当化されるのです。
自民党では政務調査会という部門があり、話し合いを行って全会一致で政策を決定するプロセスが確立しています。自民党では政務調査会で徹底的な政策の審議を行い、総務会で全会一致で党議拘束をかけるというプロセスが確立しています。しかし、民主党ではそのようなプロセスが確立していなかったのだと思います。


そのような民主党にとって、もし話し合いで消費税増税について党内合意ができていれば、それは貴重な先例となったでしょう。この方法を踏襲して、TPPなどその他の懸案についても合意を得ることができたかもしれません。しかし野田政権がやったのは、そのような合意を妨害して執行部の政策を党内に押しつけることでした。そして党議拘束をかけ、反対や棄権をする議員は処分すると脅したのです。その結果起こったのが大量の離党でした。
このような野田政権の姿勢は今も続いていて、執行部の政策に反対する議員は公認しない方針を示しています。その結果、鳩山元首相も立候補辞退に追い込まれることになりました。*1「政党の方針に立候補者が従うのは当たり前」と思う人もいるでしょうが、その方針が党内の合意を無視して押しつけられたものですから、反発が大きいのも当然でしょう。

 民主党安住淳幹事長代行は18日のNHK番組で、衆院選への対応について「野田佳彦首相の考えについてこられないと公認できない」と述べた。消費増税や環太平洋経済連携協定(TPP)推進など同党の掲げる主要政策に反対する候補者は公認しない方針を明らかにしたものだ。党の基本方針に従うとの誓約書の提出を公認の条件とする考えも示した。


反消費増税なら公認せず 民主、誓約書提出が条件  :日本経済新聞 反消費増税なら公認せず 民主、誓約書提出が条件  :日本経済新聞 反消費増税なら公認せず 民主、誓約書提出が条件  :日本経済新聞

 民主党鳩山由紀夫元首相(65)=衆院北海道9区=は21日、北海道苫小牧市で記者会見し、総選挙への立候補を断念し、政界を引退することを正式表明した。鳩山氏は、野田政権の方針に従うよう求める誓約書に署名できないことが引退の理由と説明した。

 党執行部は党方針を順守させるため、公認申請する際に「党議を踏まえて活動する」との誓約書に署名することを要求。鳩山氏は「消費増税、環太平洋経済連携協定(TPP)、原発再稼働など、現政権の方針と違う主張を党内で続けたいと思っていたが、その主張を続けると、公認は得られないと18日に知った」と語った。引退は18日に決断したと明かし、「誓約書が私の決断を促したことは間違いない」と説明した。


朝日新聞デジタル:鳩山元首相、引退会見 「政権の方針と私の主張が違う」 - 政治 朝日新聞デジタル:鳩山元首相、引退会見 「政権の方針と私の主張が違う」 - 政治 朝日新聞デジタル:鳩山元首相、引退会見 「政権の方針と私の主張が違う」 - 政治



そもそも、野田総理民主党の代表ですから、その力の源泉は民主党議席数にあるはずです。しかし、野田総理は反対派を弾圧して離党に追いやることによって、自らの力を減らすという愚を犯したのだと思います。そうやって追い詰められた結果が、今回の解散だったのでしょう。


このような野田総理の行動は、皮肉なことにかつての小沢一郎氏を思わせます。小沢氏は細川政権の崩壊後、新進党を結成して政権交代を目指しました。しかし、党内対立が相次いだ結果、小沢氏は新進党を解党して、自分を支持する議員だけを残す「純化路線」をとり、自由党を結成しました。この自由党自民党公明党との連立と解消を経て民主党に合流し、今に至るわけです。
今回の民主党の「純化路線」は、当時の小沢氏の行動によく似ていると思います。
新進党解党で小沢氏を嫌うようになった人は多かったでしょう。今でも小沢氏率いる「国民の生活が第一」は衆院で50人以上を率いる政党ですが、「第三極」の政党からなかなか相手にされない理由の一つが、小沢氏の悪評にあることは間違いないでしょう。その原因の一つが新進党解党であったことは間違いないと思います。
同じように、今回の民主党分裂でも野田氏を内心嫌っている人は多いと思います。長年、民主党を支えてきた議員や地方議員、党員・サポーターからすれば、民主党をメチャクチャにした戦犯であると言えるでしょう。そのような恨みが、今後の野田氏や仙谷氏、前原氏などの執行部メンバーにはつきまとうでしょう。


このように民主党が今日の状況に至った経緯を考えると、僕は到底野田総理を評価するつもりになはれません。今回の解散劇は確かに巧みだったと思いますが、例えて言えば、日米開戦へと追い詰められたかつての日本が真珠湾攻撃を行ったようなものでしょう。かつての日本はその先の展望がなく、ミッドウェー海戦を境に敗戦への道を歩みましたが、野田政権もこの先の展望が見えないという点では似たようなものだと思います。
野田氏は総選挙で民主党が敗退しても、自民党との連立を模索するという話もありますが、これほど大きな裏切りをしてしまった以上、自民党もそう簡単に連立はできないでしょう。連立が実現したとしても、かつての自民党自由党の「自自連立」のように、混乱を生むだけではないでしょうか。

補足

民主党からの離党についてこんな記事がありました。すでに全議員の四分の一近くが離党してしまったんですね。

 衆院解散後も民主党の崩壊に歯止めがかからない。14日の野田佳彦首相の衆院解散表明以降、11人が党を離れ、気がつけば政権交代以降の離党者は102人と、ついに大台を突破した。衆参両院で423人いた国会議員は激減。しかも、離党者の行き先は保守系からリベラル系の政党までばらばらだ。ある意味、「寄せ集め集団」と言われた民主党らしい結末なのかもしれない。


民主離党者 100人超え! - MSN産経ニュース 民主離党者 100人超え! - MSN産経ニュース 民主離党者 100人超え! - MSN産経ニュース

*1:ただし、鳩山総理の政治は、やはり混乱を生んだことが多いので、ここでの議論とは別の意味で評価できないです。