Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

2012年を振り返って

前回の記事から1ヶ月以上が経ち、2012年も終わろうとしています。
総選挙は結局自民党の大勝利となり、自公で325議席となって衆院の3分の2以上を占めることになりました。一方、民主党は大敗し、議席は57に落ち込みました。日本維新の会は54議席を得てそこそこの勢力となりましたが、選挙前に合併した太陽の党と旧来の維新の間で、対立があるようです。民主党を離党した「国民の生活が第一」と嘉田由紀子滋賀県知事の勢力が合併した「日本未来の党」は大敗し、わずか1ヶ月で分裂してしまうようです。
結局、離党しようがしまいが、国民が民主党の議員に「ノー」をつきつけた選挙だったと言えるでしょう。マニフェストのほとんどを反故にして消費税増税を強行し、内政でも外交でも迷走を続けた民主党政権に対して、国民は愛想を尽かしたのでしょう。


さて、改めてこのブログの今年の記事を振り返ってみると、リフレ政策と消費税増税の記事がほとんどだったように思います。
消費税増税については、長年増税を狙ってきた財務省が、菅政権以降、民主党政権の経済音痴につけ込んで首脳部を増税派で固めて、民主党内の反対意見を押しつぶしました。また自民党も谷垣総裁が増税派だったこともあって、民自公三党の「三党合意」をなんとか維持して増税法案を成立させてしまいました。ただ、今度の安倍政権は増税のためにはデフレ脱却と景気回復が必要という立場なので、このまますんなり増税されるかは、まだ不透明でしょう。

リフレ政策については、今年1月にFRBインフレターゲット導入を決めてから、大きく流れが変わったと思います。日銀も2月に「物価安定の目途」を導入して、一時はインフレターゲットを導入したかと思われたのですが、結局それは見せかけだけのインフレターゲットであることが明らかとなり、1%の「目途」達成も出来ませんでした。
しかし、新たに自民党総裁になった安倍晋三氏が、インフレターゲット導入や日銀法改正、金融緩和派の日銀総裁選出などを主張して、総選挙で大勝したことで、リフレ政策が国民の支持を得たことになりました。その結果、再びリフレ政策に注目が集まっています。
ただ、今後は金融緩和を嫌う日銀や、日銀総裁財務省出身者にしようという財務省の動きなども出てきますし、マスコミもリフレ政策に否定的な論調が多いので、インフレ期待(インフレ予想)が安定するような政策を実現できるかは、まだ不透明だと思います。来年は、本当にインフレ期待(インフレ予想)が生まれて、円安や実質金利低下による景気回復が始まるのか、しっかり確認する必要があるでしょう。
また、そのような動きが生まれても、消費税増税社会福祉(例えば生活保護など)の削減が足を引っ張る可能性もありますし、一方で「国土強靱化」政策による公共投資がデフレ脱却を後押しする可能性もあります。そのような財政政策の影響も見ていかなければなりません。


このように振り返ってみると、リベラル左派政権だったはずの民主党政権は、結局リフレ政策に否定的で、消費税増税を進めて、リーマンショック以降の日本経済を衰退させてしまいました。*1一方で、自民党の中でも右派と言われる安倍氏は、リフレ政策を推進し、消費税増税にも慎重です。
しかし考えてみれば、リフレ政策そのものは需要管理政策ですから、本来はリベラルな政策だと言えるでしょう。アメリカでも、この政策を理論づけたポール・クルーグマン教授は、リベラル派の代表的な学者です。
ところが日本では、リベラルな政策のはずであるリフレ政策や公共事業を右派が推進するという、ねじれた構図になっています。*2
なぜこうなってしまったかと言うと、日本ではリベラル・左派の経済学に対する無理解があまりにも酷く、その影響を受けていた民主党の議員達が、財務省や日銀の説明をあっさりと受け入れてしまったのでしょう。id:finalventさんが今日のブログで日本のリベラルや知識人を批判していましたが、僕もそれに同感します。

一つには、今年はいわゆるリベラルの廃頽感が強烈だった。その手の頽廃した意見を見たくもないという感じがすることが多かった。吉本隆明の死がじんわり来ている部分もある。本当に思想的に無の地平に消えていくなんて偉大すぎる。
 リベラル批判をすると、じゃあ、ネット右翼はどうなのとか言われそうだけど、ああいうのはどこの国もいるもなんで、国家があるかぎり、あんなもののまま。中国とか韓国とかもっとひどい。アメリカの銃大好きなんていうのもそれに似たようなもの。
 この手は、普通に政治をして抑制するしかないもので、その意味ではそれほど政治思想としては難しい問題でもない。それにくらべて、リベラルの頽廃は人々の希望を腐らせていくので、ぞっとして耐えられなくなる。が、それを許容するのもリベラルだと思うし、許容を世界観とのバランスで見ていこうという感じはしている。
 あと、これを言うとどうかなと思うのだけど、いわゆる知識人さんの経済学の無知さかげんがどうしようもなく露見した年だなと思った。自民党とか安倍首相というだけでバッシングして済む輩が多すぎて、不勉強極まりないものだ。まあ、それを言うなら、お前だってとか、いわゆる経済通とか経済学者でも、なんだあ?みたないな意見は見かける。私としては、普通に、フィナンシャルタイムズあたりの見識が国際的な経済観だと思うし、WPでもNYTでもそれほどずれない。つまり、普通にグローバルな知識としての経済学というのが、日本はここまで劣化したのだろう。


今年を振り返って - finalventの日記 今年を振り返って - finalventの日記 今年を振り返って - finalventの日記



一方、右派は中国や韓国の台頭に対する危機感もあって、日本経済の立て直しを本気で考えざるを得なくなり、リフレに好意的になってきたのだと思います。安倍総理自身は前回の政権の頃から、高橋洋一氏を起用するなどリフレに近い立場でしたが、最近はそれが右派に広く広がってきたように思います。*3


安倍政権のような右派政権は、生活保護などの社会保障削減や、教育政策にトンデモな考え方が入り込む、マンガやアニメなどの表現規制が強まるのではないかという懸念もあるので、一概に歓迎ばかりもできないのですが、ここまでリベラル・左派の経済音痴が酷いと、他に選択肢がなくなってしまいます。
今年の民主党の迷走と崩壊は、そのことをはっきりさせてしまったのだと思います。


来年は景気が回復して日本経済の復活が始まって欲しいですが、その一方で貧しい人達の生活が脅かされたり、復古的な風潮が強まるのも困ります。安倍政権にはあくまでも経済再建を第一にした政策を望みたいものです。もちろん、東日本大震災からの復興や原発事故への対策も、忘れないようにして欲しいですが、そのためにも経済再建は必須でしょう。
そんなことを望みながら、来年に希望を繋ぎたいと思います。

*1:民主党内にはデフレ脱却議連などの動きもありましたが、結局、政策に影響を与えられなかったと結論せざるを得ないでしょう。

*2:ただし、日本の右派は同時に、生活保護などの社会保障削減という右派的な政策も進めていますが。

*3:田母神俊雄氏ですら、リフレ政策を支持しているくらいですからねえ。w