Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

日銀総裁・副総裁候補の評価と、民主党内リフレ派への期待

先週の3/5と3/6に、日銀総裁、副総裁候補となっている黒田東彦氏、岩田規久男氏、中曽宏氏の所信表明が衆議院で行われました。
これについて様々な報道が行われましたが、「株の学校」というブログで、日本経済新聞に掲載されていた三人の発言が分かりやすくまとめられていたので、それを紹介します。

日銀総裁候補:黒田東彦氏(アジア開発銀行総裁)の所信表明


<達成時期>

「2%のインフレ率目標をできるだけ早期に達成する。グローバルスタンダードは2年。個人としてもそれらくいのタイムスパンを念頭においているが、15年続いたデフレを打破するのは大変だ。」


<達成手段>

「あらゆる手法を講じて何としても、目標を達成する必要がある。」

「1−3年に限らず、より長期の国債を購入する検討をしてもよい。」

国債以外の資産の買い入れもしているが、責任を果たすには規模や対象が不十分。市場への影響を見極めつつ、何が最も効果的か探っていく必要がある。」

「2014年から実施予定の毎月13兆円の無期限緩和(残高111兆円維持)の前倒しは当然検討する。」

「外債の購入はしない。為替の安定の責任は政府にある。」

「日銀の国債直接引き受けは、財政法で原則的に禁止されている。まったく考えていない。」


<達成責任>

「デフレ脱却の責任は中央銀行にある。責任の取り方はいろいろあるが、ほとんどの国では政府・議会への説明を持って責任を取っている。」

「金融政策の具体的な手法は日銀に任せるべきだが、金融政策は政府の経済政策と整合性を持って運営することでより高い効果が発揮できる。」

「日銀法改正は政府・国会が決めること。」


黒田・岩田・中曽、3氏の所信表明まとめ(日銀総裁、副総裁候補) 黒田・岩田・中曽、3氏の所信表明まとめ(日銀総裁、副総裁候補) 黒田・岩田・中曽、3氏の所信表明まとめ(日銀総裁、副総裁候補)

■日銀副総裁候補:岩田規久男氏(学習院大教授)の所信表明


<達成時期>

「2%のインフレ率目標は遅くとも2年で達成できる。」


<達成手段>

「既に政策金利はゼロなので、マネタリーベースを拡大する量的緩和を進めないといけない。」

「5年以上の長期国債を買っていく。」

「円安誘導と取られかねない外債を今買う必要はない。手段として取っておくべきだ。」

「出口戦略は、日銀当座預金の付利を引き上げていくのが常道。」

「インフレヘッジのため、物価連動債の再発行を希望。」


<達成責任>

中央銀行が物価安定に全面的な責任を負う体制転換が何より重要(日銀法改正の肯定)。」

「最高の責任の取り方は辞職だ。」


黒田・岩田・中曽、3氏の所信表明まとめ(日銀総裁、副総裁候補) 黒田・岩田・中曽、3氏の所信表明まとめ(日銀総裁、副総裁候補) 黒田・岩田・中曽、3氏の所信表明まとめ(日銀総裁、副総裁候補)

■日銀副総裁候補:中曽宏氏(日銀理事)の所信表明

<達成時期>

「世界経済など様々な要因に左右される以上、インフレ率目標を必ず2年で達成するとは言いがたい。」


<達成手段>

「前例にとらわれず常に新しい発想で施策を生み出し実行したい。」


<達成責任>

「デフレを脱却できなかったのは、90年代以降の需要不足だ。」

「物価目標は大変重い約束だ。金融政策が果たすべき役割を責任を持って遂行したい。」


黒田・岩田・中曽、3氏の所信表明まとめ(日銀総裁、副総裁候補) 黒田・岩田・中曽、3氏の所信表明まとめ(日銀総裁、副総裁候補) 黒田・岩田・中曽、3氏の所信表明まとめ(日銀総裁、副総裁候補)



三人の発言を比べてみると、達成時期では黒田、岩田の両氏が2年での達成を明言しているのに対し、中曽氏は「必ず2年で達成するとは言いがたい」と口を濁しています。
達成手段でも、黒田、岩田の両氏に比べて、中曽氏は具体性に欠けていると思います。
達成責任では、岩田氏は達成できないときは辞任すると明言しています。黒田氏はそこまで踏み込んでいませんが、説明責任には言及しています。一方、中曽氏は責任をどうやって果たすのかについては語っていません。


僕は以前の記事で、白川日銀総裁が自ら決めた物価の「目途」や目標の達成に責任を持とうとしていないと、何度か批判しました。

2月14日、日銀は金融政策決定会合で、消費者物価(CPI)の前年比上昇率1%を「中長期的な物価安定の目途」として公表しました。
これを受けて、この数字を「事実上のインフレ目標」とする報道が相次いでいますが、これは本当にインフレターゲットインフレ目標)なのでしょうか?

残念ながら、僕はこれはまだインフレターゲットではないと思います。
なぜなら、インフレターゲットというのは単にインフレ率の目標を定めるだけでは不十分で、中央銀行がその達成に責任を持つことが必要だからです。
ただし、その責任の取り方については、達成できなかった場合に総裁が辞任や解任されるというようなハードなものは少なく、議会などで達成について説明するといった説明責任を負う制度が多いです。ただ、それでも納得できる理由もなくいつまでも達成できなければ、議会で追求されて中央銀行は苦しい立場に追い込まれ、いずれは辞任や解任も余儀なくされるでしょう。


日銀は本当にインフレターゲットを導入したのか? - Baatarismの溜息通信 日銀は本当にインフレターゲットを導入したのか? - Baatarismの溜息通信 日銀は本当にインフレターゲットを導入したのか? - Baatarismの溜息通信

今回の決定でも、その点は変わっていないと思います。1%の「目途」が2%の「目標」になったとは言え、日銀は相変わらずその達成に責任を持とうとはしていません。インフレターゲットというのは単にインフレ率の目標を定めるだけでは不十分で、中央銀行がその達成に責任を持つことが必要ですから、これはまだインフレターゲットとは言えないと思います。
白川日銀総裁は、何が何でもその責任だけは逃れようとして、面従腹背を続けているのでしょう。


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このような「責任」という視点から見ると、2年間という期限を切ってインフレターゲット2%達成を明言し、辞任や説明責任という形で責任を取る姿勢を見せた黒田、岩田両氏は合格点を与えられるでしょう。特に「2年で達成できなければ辞任する」と言い切った岩田氏は、高く評価されるべきだと思います。
これに対して中曽氏は、2年という期限もあいまいにしようとしていますし、責任の取り方もあいまいです。これではインフレターゲット達成を目指す日銀執行部にふさわしい人材とは言えないでしょう。
この三人を比べれば、次のように表現できるでしょう。


岩田>黒田>(越えられない壁)>中曽

さて、与党が自分の人事案に賛成するのは当たり前の話ですが、野党はその考え方によって誰に賛成し誰に反対するのか、決めなければ成りません。
主な野党の中で、みんなの党は岩田氏だけに賛成し、黒田氏と中曽氏に反対するようです。僕は黒田氏でも良いとは思うのですが、ただこれはみんなの党の基準が厳しいのと、財務省出身という点に疑念を拭えないためだと思います。
維新の対応は、まだちょっとよく分かりません。


民主党は、黒田、中曽両氏に賛成し、岩田氏に反対する方向のようです。その理由が「目標の独立性」と「手段の独立性」を一緒くたにした「金融行政の独立性を堅持する能力」ですから、これは白川時代の日銀理論そのままと言えるでしょう。

 民主党は5日、次期日銀副総裁として岩田規久男学習院大教授を充てる国会同意人事案に同意しない方針を固めた。日銀正副総裁人事を巡り、民主党は総裁候補の黒田東彦アジア開発銀行総裁と、もう一人の副総裁候補の中曽宏日銀理事には同意する方針。3人のうち最も大胆な金融緩和を主張する岩田氏に同意せず、安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」に距離を置く姿勢を示すのが狙いだ。

 民主党津村啓介衆院議員は5日、衆院議院運営委員会で岩田氏からの所信聴取と質疑の後、「日銀法改正を公言する岩田氏(の起用)に賛成できない」と記者団に語った。民主党は6項目の日銀人事の基準に「金融行政の独立性を堅持する能力」を盛り込んでいる。


民主党:日銀人事で岩田氏は同意せず 独自性で苦しい対応− 毎日jp(毎日新聞) 民主党:日銀人事で岩田氏は同意せず 独自性で苦しい対応− 毎日jp(毎日新聞) 民主党:日銀人事で岩田氏は同意せず 独自性で苦しい対応− 毎日jp(毎日新聞)



思い起こせば、民主党は前回(2008年)の日銀執行部人事でも、財務省出身の武藤敏郎氏だけではなく、インフレターゲット論者の伊藤隆敏氏にも反対し、日銀出身の白川方明氏だけに同意しました、その後の政治的混乱の結果、白川氏は総裁となり、その後5年間、デフレと円高による経済混乱を引き起こした主役となってしまいました。
民主党の日銀出身者や日銀理論を支持する体質は、政権交代と政権崩壊を経た今も変わってないようです。その間、「デフレ脱却議連」による活動があり、馬淵さんや金子さんなど、リフレ政策を支持する議員が民主党が日銀理論ではなくリフレ政策を採用するように働きかけました。民主党政権時代は、仙谷由人氏や藤井裕久氏、与謝野馨氏といった反リフレ派が政権で強い力を持っていたので、リフレ政策が無視されていたのだと、僕は考えていました。しかし野党となった今でも、民主党の日銀寄りで反リフレの姿勢が変わってないとなると、そのような姿勢は民主党が採用している日本の左派・リベラル派の思想に根ざすものであり、「デフレ脱却議連」はそれを変えることができなかったと言うしかないでしょう。


エコノミスト山崎元さんが、そのような「良識派」の議員に対して、日銀人事案で党の方針を批判して離党すべきだと言っていますが、もはや今となっては僕もそうするのが良いと思います。
リフレ政策を一つの柱とするアベノミクスで景気回復が実現すれば、民主党政権の3年間は日本がどん底だった時代として記憶されることになるでしょう。そんな政党が政権を奪回できるとは、到底思えません。
だったら民主党の看板は捨てて、民主党の政策で自民党よりも優れている再分配政策だけを受け継ぎ、それ以外の成長政策や安定化政策はリフレ政策を取り入れた、新たなリベラル政党を作るべきでしょう。
民主党内リフレ派の再起は、そこから始めるしかないと思います。

 もっとも、日銀正副総裁人事で勝負しなくても、民主党が「ジリ貧」傾向を辿ることは、与党側によほどの失点がなければ避けられそうにない。

 前回総選挙時のマニフェストの重要事項の大半を破るか未達に終え、政府の経営能力があまりに貧弱だった民主党全体を評価するなら、そうなったとしても何ら惜しいと筆者は思わない。

 他方、民主党は良くも悪くも思想的にはバラバラで、政権に就くまで「政権交代」だけを共通目標にまとまっていた「選挙互助会」がその本質だった。しかし、中には、日本にあって真面目なリベラリストを代表する政治家たり得る資質を持った人材もいる。彼らが、民主党という括りの仲間に拘(こだわ)ることでネガティブなブランド価値を帯びて埋没していくことは些(いささ)か残念だ。

 そして、民主党内にも、目下のデフレ脱却のための経済政策の重要性に対して理解のある政治家が少なからずいる。

民主党が野党としての存在感に拘ることで日銀の正副総裁人事案に反対することは、経済政策にとっても、民主党の党勢にとっても、好ましい事ではないと思うのだが、仮にそういった動きがあれば、これは、党内の「良識派」にとっては、得がたいチャンスではないだろうか。

 ズバリ言うなら、民主党の党論が政府の日銀人事案に反対しようと傾いた段階で、デフレ脱却のための金融政策に賛成する議員は党論を批判して、党を割って出て行くといい。

 これを機に、民主党を捨てるなら、多くの有権者は、その議員を見直して評価するだろう。もちろん、一人で出るよりも何人かのグループでまとまって民主党に反旗を翻す方が効果的だ。この場合、グループが少人数であることを恐れる必要はない。有権者の支持こそが政治家の一番の資産なのだ。

 当面の民主党は資金が潤沢であるかも知れないが、議員が目先のお金に釣られてはいけない。

 しばしの間、自・公の与党に歯が立たずに苦しい時期を過ごすとしても、日本人の少なからぬ人々は、政治に「力」よりも「バランスと公平性」を求めている。主張は異なるとしても、みんなの党のように、主張にブレがない集団としてまとまって行動するなら、近い将来に一定の存在感を持つことは十分可能だろう。その先は、政策主張自体の当否と、本人の力量の問題だ。

 どのみち、国民から「嘘つき集団」だと思われている現在の民主党にとどまっても政治家として明るい展望は持てないし、実現したい政策があっても実現できまい。

「良識派」の民主党議員は、現職の議員である間に、次の政策と人的なまとまりを作り、「悪しき民主党」と分かれて、有権者に提示することが得策だ。民主党執行部が日銀人事への反対方針を決めることがあるとするなら、それは、国民にとって分かりやすいきっかけだ。

 現状では、民主党が反対しても人事案が参院を通る可能性があるが、そういった情勢の場合は、素早く執行部を批判して、さっさと集団離党会見を行うといい。

 日銀人事は、政治的持ち時間が少なくなりつつある彼らにとって千載一遇のチャンスになる可能性がある。


民主党内「良識派」は日銀正副総裁人事をチャンスにして「分党」を狙え!  | 山崎元「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 民主党内「良識派」は日銀正副総裁人事をチャンスにして「分党」を狙え!  | 山崎元「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 民主党内「良識派」は日銀正副総裁人事をチャンスにして「分党」を狙え!  | 山崎元「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]