Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

失敗した「社会保障と税の一体改革」

消費税の10%への増税問題は、安倍総理増税を2019年10月まで2年半延期し、噂されていた解散総選挙・衆参ダブル選は行わないことで決着しました。前回の延期の時に、再度の延期はないと総理が表明していたため、安倍政権への批判が起こっていて、民進党など野党は「アベノミクスの失敗」と批判しています。
しかし、消費税増税の延期は本当に「アベノミクスの失敗」なのでしょうか?


そもそも、今回の消費税増税は、民主党の野田政権時代(2012年8月)に、民主、自民、公明の「三党合意」によって決まった「社会保障と税の一体改革」において、社会保障の財源を消費増税で確保するという方針の下に定められたものです。
その後、自民党では谷垣総裁が党内抗争で辞任に追い込まれ、安倍総裁が誕生しました。また、野田政権も2012年12月の総選挙で大敗し、自公連立の安倍政権が成立することになりました。安倍政権は金融政策、財政政策、成長政策を「三本の矢」とする「アベノミクス」を経済政策として採用しましたが、同時に三党合意を尊重し、野田政権時代に決まった「社会保障と税の一体改革」も引き継いで実施することになりました。つまり安倍政権の経済政策は「アベノミクス」と「社会保障と税の一体改革」の二本立てであり、消費税増税は「社会保障と税の一体改革」に属する政策だと言えるでしょう。
アベノミクス、中でも「第一の矢」である大規模な金融緩和は景気を回復させ、2013年度までは日本経済も良くなりました。これを見て安倍総理は消費税を予定通り増税しても大丈夫だと考え、2014年に消費税は8%に引き上げられました。


しかし、この時から景気は停滞しました。

消費税率を5%に戻せ - Baatarismの溜息通信 消費税率を5%に戻せ - Baatarismの溜息通信 消費税率を5%に戻せ - Baatarismの溜息通信

でも述べたとおり、それ以降家計消費は停滞したままです。

また、GDPも2014年4月以降停滞しています。

次に?現状認識である。第一に、GDPで見ると、安倍政権になってから2014年3月までは目を見張る成長をしていたが、2014年4月以降停滞している(下図)。GDPギャップは10兆円程度だ。


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消費増税延期は断固正しい!  そのメリットをどこよりも分かりやすく解説しよう GDP600兆円も財政再建も達成できる | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 消費増税延期は断固正しい!  そのメリットをどこよりも分かりやすく解説しよう GDP600兆円も財政再建も達成できる | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 消費増税延期は断固正しい!  そのメリットをどこよりも分かりやすく解説しよう GDP600兆円も財政再建も達成できる | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]



このような経済状況を考えれば、景気を悪化させないために再度消費税増税を延期するというのは、当然の決定でしょう。安倍政権を批判している野党ですら、消費税増税を予定通り実施しろとは言っていません。


大規模金融緩和が景気を改善したにも関わらず、8%への消費税増税がこれだけ景気のマイナスの影響を及ぼしたことを考えれば、そもそも「社会保障と税の一体改革」による消費税増税自体が間違った政策だったと言えるでしょう。ただし消費税増税アベノミクスで定められた政策ではないので、これをもって「アベノミクスの失敗」とは言えません。もちろん安倍政権は「社会保障と税の一体改革」を受け継いで消費税を増税したので、現状の景気悪化は安倍政権の責任でもありますが、「社会保障と税の一体改革」を決めた野田政権や民主党も責任を逃れられません。消費税増税延期を「アベノミクスの失敗」だという野党の主張は、野田政権や民主党を免罪しようとする間違った主張だと思います。


ただ、このような消費税増税の延期を永遠に続けるわけにはいかないでしょう。そもそも「社会保障と税の一体改革」の社会保障の財源を消費増税で確保するという方針が間違っていたことが証明されたのですから、安倍政権は「社会保障と税の一体改革」を撤回し、消費税率を5%に戻すべきでしょう。ただ、社会保障の充実は必要ですから、その分は国債発行で賄うべきだと思います。幸い、今は国債金利も非常に低く、国債への需要は大きいですから、国債発行を増やしても日本経済には大きな影響はないでしょう。もしこの国債を日銀が量的緩和拡大で買い入れれば、事実上のヘリコプターマネー政策となって、日本経済を回復させることになるでしょう。
ただ、プライマリーバランスなど、財政再建は遅れることになります。これは「社会保障と税の一体改革」という間違った政策を採用した代償ですので、過ちを認めるしかないと思います。


そしてその後には、「社会保障と経済成長の一体改革」と言うべき、社会保障の財源を経済成長で確保する新たな政策を打ち立てるべきでしょう。この政策は「社会保障の財源を消費増税で確保する」というような単純な政策ではなく、経済成長目標(例えば名目GDP成長目標)、金融政策、財政政策、税制、社会保障が相互に影響を与え合う状況を前提とした、複雑で細かい政策となることでしょう。
このような政策を「社会保障と税の一体改革」を失敗させた財務省や、彼らの言いなりになって「消費税増税でも景気は落ち込まない、むしろ未来の財政への信任が高まり経済は成長する」と言った日本の御用経済学者に任せるわけにはいきませんから、政治家が世界的な経済学者のアドバイスを受けながら、作り上げる必要があると思います。すでに今回の消費税増税見送りで、安倍総理は世界的な経済学者のアドバイスを受けていますから、今後はその知見を新たな経済政策の立案に生かす仕組みを作っていって欲しいと思います。


社会保障と税の一体改革」を受け継いで失敗を招いてしまった安倍政権は、今後はこのような経済政策を推進して、汚名返上を目指して欲しいと思います。