福知山線のダイヤは過密?複雑?
JR西日本福知山線の事故の痛ましさや、マスコミ報道の異常さ(報道ヘリ騒音による救助妨害、被害者、遺族、関係者へのストーカー行為、ボウリングなど重要でない問題の過剰報道、記者会見での記者の滅茶苦茶な態度など)、JR西日本の安全軽視ぶりや緊急対応のまずさ(スピード優先ダイヤ、日勤教育が従業員イジメへと逸脱したこと、事故時の対応の問題、ATSなど安全投資の削減、被害者、遺族、関係者への対応のまずさなど)は、すでにあちこちのサイトで取り上げられています。
その中で最近、個人的に気になってるのは、福知山線のダイヤが過密であるというマスコミ報道です。
「たなか@さくらインターネット」で取り上げているとおり、現場のダイヤは大都市圏としては過密というほどのものではなく、首都圏の多くの鉄道や大阪の地下鉄御堂筋線の方が列車密度は高いです。
ただ、福知山線特有の事情として上げられるのは、尼崎駅付近の運転形態がよそでは見られない特異なものになっている点です。尼崎駅は東海道・山陽線と福知山・東西・片町線の連絡駅です。尼崎駅がこのような位置づけになったのは、1997年の東西線開通後であり、このときホーム4面8線を有する乗り換えターミナルとなりました。事故で問題になっている福知山線下り線の300mカーブもこのときにできたものです。
東西線開通前は、尼崎駅付近は以下のような単純な運転形態でした。
しかし東西線開通後は、次のような複雑な運転形態となりました。
- 東海道・山陽線 神戸方面−尼崎駅−東海道・山陽線 大阪・京都方面
- 福知山線 福知山方面−尼崎駅−東海道・山陽線 大阪・京都方面
- 東海道・山陽線 神戸方面−尼崎駅−東西・片町線 京橋・木津方面
- 福知山線 福知山方面−尼崎駅−東西・片町線 京橋・木津方面
さらに尼崎駅では乗り換え時間を短くするために、1.と4.、2.と3.の列車が同じホームの両側の同時に到着し、同時に発車するというアクロバットな運転をしています。すべての列車がそうするわけではありませんが、各駅停車の多くはこのような運転です。
このような運転形態では東海道・山陽線と福知山・東西・片町線のどちらかに遅れが生じると、すぐにもう一方の線に影響が出てしまいます。特に同時発着ができなくなるとこのダイヤの売りである乗り換えの短さが損なわれます。そのため、運転手への「遅れを出してはならない」というプレッシャーは大きなものがあったでしょう。
このような運転形態と、余裕時間のないダイヤのせいで、事故現場では遅れの回復のための高速運転が当たり前のように行われるようになり、事故につながったと考えられます。
このように、福知山線は過密なダイヤではありませんでしたが、運転手に高速運転を強いるダイヤであったと言えるでしょう。
今、事故現場付近の区間は運休していますが、ATS-Pが設置されて復旧作業が終われば運転は再開されるでしょう。その時、従来のダイヤで運転を再開するのではなく、運転手が余裕を持って走れるダイヤに改正してもらいたいものです。
具体的には以下のような変更が必要でしょう。
- 列車のスピードを落として、運転時間に余裕を持たせること。福知山線だけでなく、東海道・山陽線でも新快速の遅れが目立ち、無理な回復運転をしてると思われるので、そちらのスピードを落とすことも必要である。
- 運転形態を単純にする。東海道・山陽線と福知山・東西・片町線の相互乗り入れは、長距離電車(特急と丹波路快速)を除いて中止し、次のような運転形態に整理する。
- 尼崎駅の同時発着は止め、東海道・山陽線と福知山・東西・片町線の列車は交互に発着させる。
また福知山線は過密なダイヤではないので、一部マスコミ報道で出ている運行本数の削減は必要ありません。このような対策は列車の混雑を増し乗降時間を増加させるため、列車の遅れが増えて事態を悪化させるでしょう。
JR西日本や国交省が事故の原因を正確に認識して、ダイヤにおいても正しい対策を打つことができるか、注目していきたいと思います