Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

柳沢厚労相の本当の過ち

柳沢厚生労働相が女性を子どもを産む機械や装置に例えた発言をした件で、政界も世論も大騒ぎになっています。特に女性の反発が強く、世間には感情的な意見や報道が満ちあふれています。これに対応して共産党以外の野党は柳沢氏の辞任を要求して審議拒否を始め、世論の支持を得ようとしています。
ただ、政治家として非常識な発言だったとはいえ、1回の失言で辞職を迫られるというのも異例な話です。ここまで世論の怒りが大きくなった理由として、何らかの潜在的な状況があったと考えてもおかしくはないでしょう。


例えばかんべえ(吉沢達彦)氏は「溜池通信」の「かんべえの不規則発言」コーナーの2/1の記事で、次のようなことを述べています。

〇政治家の失言にもいろいろありますが、今回の柳沢さんのヤツは、自分でその場で気がついて「今のはいけませんね、訂正します」と言って取り消したのに、なおかつ辞めろと言われてしまうという点が新しいと思います。これがアウトになるかセーフになるかは、今後の政界失言録の中で重要な前例になるような気がします。

〇この人のお父さんことミッチーさんは、失言のデパートといわれたものですが、今の感覚で判断したら果たしてどうでしょうか。「黒人は破産してもあっけらかんのカー」という人種差別発言は、今でもやっぱり非難を浴びるでしょうが、「野党の公約は毛ばりみたいなもの。引っかかる人は知能程度が高くない」という毛ばり発言は、恐らく今だったら「この人、うまいこと言うじゃないの」で終わりなんじゃないかと思います。世の中は全体として、「ホンネの発言」を許容するようになっている。それでも、許されないラインと言うものはおのずとあるもので、柳沢発言はその意味では際どいところです。

〇その一方で、ホワイトカラー・エグゼンプションをめぐる一連の騒動がなかったならば、この発言はスルーされていただろうな、とも思う。年明けの頃から、厚生労働省はWCE問題に強い意欲を見せていたが、与党内には慎重論があった。選挙にマイナスだと判断するのなら、早めに葬り去っておけばよかった。しかしこの問題について、官邸は調整機能を発揮することができず、外遊中の安倍総理が帰国するのをひたすら待っていた。そして安倍総理の帰国後、1日たってから(おそらく、この間に安倍さんが勉強したのでしょう)通常国会に上程しないという決断を下した。このことで与党が失った機会は大きなものがある。

〇ホントに悪いのは、調整機能を果たさなかった塩崎官房長官であると思います。おそらく塩崎さんが言ったのでは、柳沢厚生労働大臣は聞く耳を持たなかったのでしょう。例えばこれが福田官房長官であれば、「WCEは時期尚早」と早めに葬り去ることができたかもしれない。が、何週間も店ざらしとなり、週末の政治番組ではWCEが何度も叩かれることとなった。結果として悪者になったのが、柳沢大臣です。

〇そこへお誂えむきに登場したのが「女は産む機械」発言。森元総理の「神の国」発言がそうだったように、「こいつを辞めさせろ」という思いが小さな失言を拡大してしまっている。要は柳沢さんはお気の毒ということであって、悪いのは官邸の調整機能の不十分であるとワシは思うのですけどね。もっとも、実質副総理の官房長官に、あんな軽量級を据えたのが失敗だったと言えばそれまでなのですが。


かんべえの不規則発言


かんべえ氏はホワイトカラー・エグゼンプションをめぐる一連の騒動が今回の件の背景にあったのではないかという意見ですが、今回の怒りの中心が女性であることを考えると、これだけが背景だったのかという疑問が出てきます。


そこで厚労省関係で女性の反発を受けそうな事件を考えたところ、昨年世間を騒がせた「産科崩壊」問題を思い出しました。
昨年、奈良県では妊婦が出産時に死亡した件に関して大淀病院の医師が逮捕され、大淀病院は産科の停止に追い込まれ、奈良県南部から出産が可能な病院はなくなりました。また、神奈川県では多くのお産を取り扱っていた堀病院が、看護士に内診を行わせていたとして摘発されましたが、こちらは昨日起訴猶予処分となりました。これらの事件の報道の影響で、産科を廃業する医師が増加していることもあって、多くの地域で「産科崩壊」が問題となっています。
しかしこれらの問題について、厚労省が積極的な対策を打ち出すことはありませんでした。日本産科婦人科学会が看護士の内診行為を認めるよう強く要求している件についても、厚労省は従来の方針を変えようとはしません。


もし、柳沢厚労相が昨年の段階でこのような「産科崩壊」問題への対策に乗り出していれば、女性の味方というイメージが生まれますから、今回のような失言があっても擁護する女性も多くなり、これほどまでに強い反発を受けることはなかったと思います。しかし柳沢氏はホワイトカラー・エグゼンプションの導入には熱心でしたが、「産科崩壊」問題に対しては冷淡でした。政府が問題視している少子化への対策となるのは、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入ではなく、「産科崩壊」問題の解決だと思うのですが。
今回の辞任騒動は、そのツケが回ってきたというのは言い過ぎでしょうか?w