Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

慰安婦問題の裏側に見えるもの

 米議会における慰安婦問題審議の成り行きはまだ不明だが、今回の安倍総理訪米の結果、それが日米関係に及ぼす悪影響はほぼ回避できた。
 ここに至るまでの経緯をもう一度振り返ってみたい。まず当初、日米の政策通が一致していたのは、なるべく問題を小さく扱うことであった。決議案はもともと可決されても法的効果はない。議員の選挙区向けのパフォーマンスに過ぎない。騒いでは問題を大きくさせるだけである。
 この戦略は忽(たちま)ちに挫折した。国会で野党が総理に質問すれば総理は答えざるを得ず、ただちに外電がこれを全米に報道したからである。
 アメリカではすべての主要メディアがこれを取り上げた。その間、安倍総理は2つの点を言明し続けた。それは河野談話の謝罪を継承することと狭義の強制連行には証拠がないことである。知的な正直さ(インテグリティー)を曲げない限りこれ以外の発言はあり得なかった。


 ところが、それに対するアメリカの論調は予想を超えた激しさであった。通常、公正客観的であり、日本に好意的なメディアまでが、日本が20万のアジア女性を強制して性奴隷としたというような荒唐無稽(むけい)な話を引用したり、安倍総理の言っていることは、被害を訴える女性たちを売春婦か嘘(うそ)つきだと言うに等しいとか言って、もはや議論を受け付けない状況となった。


 この状況は当初、日本では理解できなかった。中国の強力な反日プロパガンダの手が回っているのではないか、という憶測も流れた。しかし、次第に事情が分かってきた。これは全米の有権者の3分の1に近いといわれるエバンジェリカル(福音伝道派)が絶対的に主張する人権問題なのである。強制の有無などは問題ではない。慰安婦制度そのものが悪なのである。そして米国内では新聞を含めて何人もこれに抵抗できない。

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/51721/


慰安婦問題における日本バッシングは、安倍首相訪米を境にようやく収まってきましたが、岡崎久彦氏がここまで日本批判が激しくなった背景を解説しています。
ホンダ議員に中国系アメリカ人団体から多額の献金が行われていたこともあり、当初は中国によるプロパガンダではないかと疑われていましたが、よく考えてみれば、温家宝首相の訪日を控えたタイミングで、中国が反日を煽っても苦しくなるだけでしょう。もし中国政府がホンダ議員に影響力を持っているのであれば、この局面では逆にホンダ議員を押さえようとしていたでしょう。


岡崎氏によると、アメリカのエバンジェリカル(福音伝道派)が人権を絶対的な正義としているため、アメリカでは慰安婦制度は絶対的な悪であり、誰もそれに抵抗できないそうです。
この説明を読んで意外だったのは、ここで取り上げられたのがこれまで人権重視だと言われていたリベラル派ではなく、保守的であるはずのエバンジェリカルだったことです。もし保守派が宗教的な理由で人権を絶対視しているのであれば、リベラル派はイデオロギー、保守派は宗教という違いはあれど、どちらも理屈抜きで人権を絶対視していることになり、人権に反する問題に対しては感情的な批判を行い、反対意見には耳を貸さないでしょう。
普段は理性的で信頼の置けるメディアまで、慰安婦問題では感情的な日本バッシングを行ったのは、そのようなアメリカの人権意識を反映しているのでしょうね。


さて、今回は日本がバッシングを受けましたが、このアメリカの人権意識は人権侵害と見るや理屈や真実を無視して誰にでも批判を加えるでしょう。例えば、スーダンダルフール地方で人権侵害を行っている問題について、中国がスーダン政府を支援しているとして批判されてますが、アメリカ議会では中国がこの問題を改善しない場合は北京オリンピックをボイコットすべきとの意見も出ているそうです。また、中国では農村暴動が多発していて武装警察がこれを鎮圧していますが、このような問題も将来は人権侵害として批判されるでしょう。今後、アメリカの人権意識の最大の標的となるのは中国ではないでしょうか?
中国が慰安婦問題であまり騒がなかったのは、このようなアメリカの人権意識を恐れたのも一因だったのかもしれませんね。