Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

中川(酒)大臣の会見が招いた円安?

Ian Rowley (BusinessWeek誌、東京支局特派員)
米国時間2009年2月25日更新 「Relief in Japan as Gaffes Weaken Yen」


円安が進行


 ところが、中川氏は期せずして、政府の為替相場操作術を解説する書物に新たな1章を加えることになったのかもしれない。中川氏の醜態が世界各国で報道されてから、円は主要通貨に対して下落しているのだ。

 G7会見の前、円は1ドル=91円90銭近辺で推移していた。だが、2月25日の東京市場では、昨年11月半ば以来の1ドル=97円まで下落。1週間余りで実に5.6%も下げる結果となった。

 投資顧問会社タンタロン・リサーチ・ジャパンのイェスパー・コールCEO(最高経営責任者)は、改革派の小泉純一郎元首相を引き合いに出し、中川氏の酩酊会見は「小泉政権以来最も有効な政策だ。日本銀行で3年間審議しても、これ以上に効果的な刺激策は出ないだろう」と語る。

 現在の為替レートでも輸出企業にとっては苦しい円高水準だが、12月に記録した1ドル=87円に比べれば、少なくとも約10%は円安になっている。

 同じく重要なのは、円が他通貨に対してもドルと同じかそれ以上に下落したことだ。例えば、対ユーロでは、中川氏のG7会見を受けて 4.7%下落した。昨年40%上昇した対英ポンドでも、会見以降で6.3%、1月半ばからは16%下落した(米著名投資家ジム・ロジャースが先月出した「英ポンドは終わった」というコメント(BusinessWeek.comの記事を参照:2009年1月28日「Currencies: Playing a Rebound in the Pound」)は大げさすぎたのかもしれない)。

 日本にとってさらに好ましいのは、財務省の直接介入なしに円安が進行していることだ。中川氏の「もうろう会見」は、貿易相手国を刺激しない形で、政府の円売り介入に匹敵する円安誘導効果をもたらしたと言えるかもしれない。


GDPの縮小も


 もちろん、中川氏によって日本経済の窮状や政局不安にスポットライトが当たらずとも、円安になっていた可能性はある。何と言っても、先日発表された日本の経済統計は、最近の世界水準に照らしても惨憺たるものだからだ。

 中川氏辞任前日の2月16日に内閣府が発表した2008年10〜12月期のGDP国内総生産)は、年率換算で12.7%のマイナス成長(BusinessWeekチャンネルの記事を参照:2009年2月19日「中川財務相が象徴する、日本政府の統治能力欠如」)と、米国や欧州を上回る速さで縮小。財務省が2月25日に発表した1月の貿易統計速報では、輸出大国日本の貿易収支は9526億円の赤字となり、過去最大の赤字幅を記録した。

 こうした厳しい数字を見るだけでも投資家の認識は変わっただろう、と米JPモルガン証券(JPM)東京支社チーフエコノミスト菅野雅明氏は話す。日本の政治家の評判は「もともと悪かった」ため、投機筋の動向を要因とする方が円安の説明がつきやすいという。「短期筋が円買いポジションの解消を余儀なくされているようだ」。

 円安要因が何であるにせよ、不振にあえぐ日本の輸出企業にとってはこの上なく喜ばしい展開だ。世界的な需要減少と円高のあおりを受け、多くの日本を代表する企業が赤字に転落する見通しだからだ。

 トヨタ自動車(TM)は2009年3月期の最終損益が3500億円の赤字と、1950年3月期以来初の純損失となる見通しだ。日産自動車(NSANY)も9年ぶりの赤字を予想しており、全世界で従業員を2万人削減して21万5000人にする予定だ。日産のカルロス・ゴーンCEOは2月9日、「最悪のシナリオが現実のものとなっている」と述べた(BusinessWeek.comの記事を参照:2009年2月9日「After Huge Loss, Nissan Plans More Layoffs」)。

 エレクトロニクス業界でも、パナソニック(PC)やソニー(SNE)、NEC(6701.T)をはじめとする多くの企業が人員削減を行い、減益を予想している。

 収益が悪化している企業にとって、円相場は重大な要素だ。退任が内定しているホンダ(HMC)の福井威夫社長は、1ドル=100円より円高が進むと利益を出すのは難しいと述べている。それでも、1ドル=97円は1ドル=87円に比べればはるかに良い。ホンダの場合、為替が1円円安に振れると営業利益が約200億円増加する。

 トヨタが受ける為替の影響はさらに大きい。トヨタは2009年3月期、為替変動の影響で8900億円の減益を予想。円高の影響さえなければ、販売不振とはいえ黒字を確保できた計算になる。

中川前財務相の失態、幸運にも円安を招く:日経ビジネスオンライン(米BusinessWeek誌より)



2/18の記事で日本のGDPの大幅な落ち込みと中川財務大臣辞任について取り上げましたが、これらのニュースの影響なのか、その直後から大幅に円安が進み、輸出減と円高に苦しんでいた日本企業や日本経済にとっては干天の慈雨となっているようです。
まあ、中川大臣辞任以前から日本の政治が混乱しているのは明らかでしたので、今回の円安の主な原因は日本経済の落ち込みだと思うのですが、中川大臣の「ろれつの回らない」会見映像が日本の弱体化を世界中に印象づけて、円安の引き金を引いた可能性はあるでしょう。


ただ、日本の経済が悪化しているという認識が円安を招き、その結果日本経済の悪化が止まるとなると、これは円高と日本経済の悪化を食い止めるフィードバック機構になっているような気がします。逆に円安が進みすぎると日本経済が評価されて円高に転じるわけですから、輸出企業の存在が、円相場を円高にも円安にも振れすぎさせない安定化装置として働いているのでしょうね。英国や韓国みたいに止めどもない通貨安が続く国とは、そこが違うのかもしれません。


通貨というのはあまり強く評価されても、逆にあまり弱く評価されても、国の経済としては困りものだと思います。世の中には円が強ければ強いほど良いと主張するエコノミストもいるようですが、そういう主張は同意できないんですよね。そういう意味で、このような安定化装置があることは、日本にとって良いことだと思います。