Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

経済学で考える日本のIT再生計画

A.R.Nさん(id:arnさん)が、「記者の眼 - みんなで考える日本のIT再生計画:ITpro」を経済学的知見で考えてみようということなので、


http://d.hatena.ne.jp/arn/20051130#p1


経済学をかじっているITエンジニアの端くれとして、僕も考えてみました。*1


課題は以下の4つです。

  1. なぜIT業界に集まる学生が減っているのか
  2. 世界に通用するソフトウエアが存在しないのはなぜか
  3. 国内企業の収益が回復しているのにもかかわらず,ユーザー企業のIT投資が増えない理由は何か
  4. IT業界を盛り上げるためどのような国策や教育改革が必要か


昨日のエントリで述べた、技術の補完性と代替性という観点から考えてみます。


まず、IT産業が世界で一番発展している国はもちろんアメリカです。そしてアメリカの中でもシリコンバレーのような特定地域に集積しています。これほどの集中ぶりを見せているということは、IT産業における技術の補完性は非常に強いと推測できます。
そして、アメリカは技能労働者に限れば世界で最も開放された国でしょう。だから、IT産業に就職しようとするインセンティブを阻害する要素が最も少ない国と言えます。そのため、アメリカのIT産業は有能な人材を集めることができ、IT産業の強い補完性はアメリカで効果的に働くでしょう。その結果、アメリカのIT産業は比較優位性を獲得し、ますます人材が集まるという好循環が働きます。
一方、日本は労働者受け入れという点では、閉鎖的な制度や慣行が多い国です。また、1国1文明という世界で他に例を見ない国であることも、労働者受け入れを阻害します。そのため、アメリカと比べれば日本ではIT産業の補完性は効果的に働かず、日本のIT産業は比較劣位となります。
だから、日本には世界に通用するソフトウエアが存在しないと言えます。これで2.は説明できます。


逆に、日本の労働市場の閉鎖性は、日本の技能労働者が代替性の強い産業で働こうとするインセンティブを強めるでしょう。だから、学生はIT産業のような補完性の強い産業よりも、代替性の強い産業を目指すようになります。これが1.を説明するでしょう。


また、日本のIT産業が有能な人材を獲得できないということは、補完性の強さが不利に働き、収益率を下げることになります。従って、IT産業の期待収益率は低く、IT投資が増えない原因となります。これで3.が説明できます。


最後に4.ですが、そもそもの原因は日本の労働市場の閉鎖性にあります。とは言ってもアメリカ以上の開放性を実現することは不可能でしょうから、せめて日本人の技能労働者がIT産業で働くインセンティブを高める必要があります。
具体的には、有能な人材を集めるための待遇改善が必要でしょう。幸いIT産業は補完性が高いですから、有能な人材を集めれば、人件費の増大分以上に収益性を高めることができるでしょう。
しかし、ここ数年のIT業界はデフレ不況に対応するため、人件費を圧縮し労働条件を悪化させて、IT産業で働くインセンティブを下げ続けてきました。まずこれを止めないことには、IT業界を盛り上げることはできないでしょう。
というわけで、まずIT産業の労働条件を改善しるというのが、4.の答えになりました。(笑)


(12/7 訂正)
A.R.Nさんの記事を見てやっと気づいたのですが、比較優位の概念を勘違いしてました。経済学の基本なのに…orz
日本には自動車や家電、精密機械など、IT企業よりも生産性が高い産業が多いので、IT産業において日本は比較劣位となるのでした。
ただ比較劣位になる理由は、やはり労働市場の閉鎖性のために代替性の強い産業が人材を集めやすいからだと思いますが。

*1:A.R.Nさんのコメント欄では適当に応えましたが、こんどはまじめに考えてみます。w