Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

iPhoneが携帯キャリアに要求するもの

昨日のエントリーでは日本がGSMを採用しなかったことを問題として取り上げましたが、それでは3G対応のiPhoneが発表されれば、すんなり日本でも発売されるのでしょうか?
そんな疑問を持ちながらネットの関連記事をみていたところ、Life is beautifulさんに興味深い記事がありました。

 今回のMacWorldでiPhoneがアナウンスされることはとあるルートからの情報ですでに100%確実と確信していたのだが、何と言っても驚かされたのが、進化がすっかり止まっていた「電話をかける」という携帯電話ならではの機能のユーザー・エクスペリエンスを向上させたこと。

 私も日本では最新の「3Gケイタイ」を使っているのだが、せっかくの高機能端末も、留守番電話のチェックをするときには、20世紀からほとんど進歩していないプッシュボタン式のサービス(「このメッセージを消去したいときは9を、保存したいときは8を…」というやつ)を使わなければならないことに以前から疑問を持っていた。そんな誰もが持っているような疑問をストレートにCingular Wirelessに投げかけて、留守番電話、割り込み電話、電話会議、などの携帯電話本来の機能の使い勝手を格段に向上させた点がiPhoneのすごさである。日本で携帯電話を作っている人たちは、「そんなの技術的には簡単だよ。でも通信事業者がやらせてくれなかったんだ」と悔しがっているに違いないが、そんな「技術的には簡単だが、色々な事情で一筋縄では出来ない」ことを出来るように持ってしまうのがスティーブ・ジョブズの力なのだ。


Life is beautiful: スティーブ・ジョブズだからこそ可能になったiPhoneのユーザー・エクスペリエンス


iPhoneがこのようなサービスを実現しているのであれば、携帯キャリアのサーバーや通信システムの方にも従来とは異なる機能が必要になると思われます。Appleがそのような「iPhone仕様」のシステムを他の端末メーカーに使わせるとは思えませんから、キャリアはApple専用のサービスシステムを運営しなければなりません。そのようなApple専用のシステム構築をキャリアに飲ませることができたのが、スティーブ・ジョブズの力なのでしょう。
さて、このような端末メーカー主導のサービスシステム構築という方法は、キャリアが主導権をとってサービスを設計してきた日本のキャリアのやり方とは正反対です。日本の場合、i-mode、お財布ケータイ、LismoなどのサービスはドコモやAUが主導したもので、端末メーカーはその仕様に沿った端末を開発するだけでした。そのようなサービスを支えるシステムも、当然キャリア主導で開発されたでしょう。
だから、iPhoneを日本で発売しようとすると、Appleが求める端末メーカー主導のサービスシステム構築と、日本のキャリアがこれまで行ってきたキャリア主導のサービスシステム構築が、真っ向から衝突してしまいます。ドコモやAUにはキャリア主導のサービスによる成功体験がありますから、それを否定してくるAppleのやり方は受け入れられないでしょう。
そうなると残るはソフトバンクということになります。ソフトバンクにはそのような成功体験はあまりないですし、MacWorldのジョブズ基調講演にも姿を見せていた孫社長が強力なリーダーシップを持ちますから、トップダウンAppleのやり方を受け入れさせることはできるでしょう。どうせドコモやAUと同じ事をやっていても勝てない会社ですから、このようなキャリア主導のサービスで独自性を持たせて対抗することは、ソフトバンクにとってもメリットがあると考えられます。


今回のiPhone発売は単なる一端末の発売ではなく、キャリアと端末メーカーの力関係を逆転させるきっかけになるのかもしれません。ただ日本の場合、ドコモとAUの2大キャリアがそのような動きに対する抵抗勢力になりそうなのが残念ですが。