Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

優柔不断な安倍政権

JSFさんに教えていただいたのですが、「逆神」として知られる森田実氏が参院選について次のようなことを言っているそうです。

 7.22参院選での与野党逆転は困難なのか
 私は、いまの与野党の力関係と戦略戦術と組織力のまま7月22日の投票日を迎えると、逆転は難しいと判断している。ただし、いまから投票日までの7カ月間に情勢変化が起こる可能性はある。また、民主党の努力次第で逆転は起こりうると思う。


森田実の時代を斬る (2007.1.13) 森田実の言わねばならぬ (20)

現実は「逆神」の託宣と逆の結果になるという法則を考えれば、このまま事態が推移すれば与党は参院選で負けるということになります。w
まあ、「逆神」はネットで冗談交じりに語られているネタでしかないですが、自分なりに今の政治の状況を見てみても、民主党のだらしなさにも関わらず、安倍政権には逆風が吹いていると思います。元々僕は安倍政権のアキレス腱は景気と教育ではないかと考えていたのですが、最近はそれに加えてホワイトカラー・エグゼンプション(WE)を加えた3点セットが、参院選の争点になるのではないかと考えるようになりました。

景気

今はいざなぎ越えの景気回復が続いていると言われていますが、その歩みは遅々たるもので、景気回復の実感を感じられない人も多いでしょう。その原因としてまず考えられるのが、昨年日銀が行った量的緩和とゼロ金利の解除、言い換えれば利上げでしょう。日銀はそれでも金利がまだ低いと思っているのか、この1月にも再利上げがあるという観測が流れており、以下の記事にあるように、中川秀直自民党幹事長はそれに対して日銀法改正まで持ち出して牽制しています。ただ、こうなると日銀は独立性を守るポーズを示すだけのために利上げを強行して
しまうでしょうから、景気回復はますます遅れ、悪くすると再び景気が悪化してしまうでしょう。


bewaadinstitute@kasumigaseki(2007-01-15) 17・18日の金融政策決定会合で利上げ?
Economics LoversLive - 戦略化した経済財政諮問会議のある文言
FPeye エフピーアイ 今朝のドラめもん(金融政策ウォッチ) 金利市場からの金融政策ウォッチ(2007年1月15日の記事)


しかし、この問題では与党側の発言だけが目立っており、安倍首相のリーダーシップが見えてきません。もし景気悪化を食い止めたいのであれば、昨年の内に日銀の利上げを押さえる手だて、例えばインフレターゲット導入や政府・日銀間のアコード締結をやっておくべきだったでしょう。

教育

教育改革は安倍首相が最も力を入れている分野ですが、雪斎さんが次の記事のコメント欄で述べているように、安倍首相が具体的に教育をどうしたいのかが見えてきません。


男だったら 一つにかける : 雪斎の随想録


具体的な改革の方向性としては次の2つが考えられますが、どちらも功罪両面を含むため、選ぶには首相のリーダーシップが必要でしょう。

  1. 国が教育のあるべき姿を示し、教育委員会、学校、教師を強力に指導する(悪く言えば押しつける)。この方法では教育の平等を維持できる。しかし、学校の自主性・多様性は抑制され、悪平等の傾向が強くなる。また、国粋主義的な教育内容がはびこる危険性もある。
  2. 国は自らの力の限界を認め、教育内容は教育委員会や学校の自主性にゆだねる。この方法では学校の自主性・多様性を生かし、市場や草の根の力を生かして解決策を探ることができる。しかし、教育の平等は維持できず、経済的な理由や本人・親の性格や態度によって、公教育から排除される子供が出てくる。また、教育内容が親や本人の需要が高い受験教育に偏るようになり、国の指導要領は形骸化する。(履修不足問題ともその現れでしょう)


しかし、安倍首相は両方の主張に気兼ねして、どちらを選択することもできないのでしょう。前者を主張するナショナリストも、後者を主張する自由化主義者も、どちらも安倍政権の支持者ですから。

ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)

労働界のみならず財界や与党内にも慎重論のあるWEですが、政府は次の国会に提出し、その後継続審議とする方針を固めたそうです。
ただ、サービス残業がはびこる現状での導入は、有権者の多数を占める正社員層やその家族にとっては「残業代ゼロ法案」「サービス残業合法化法案」「過労死促進法案」などのマイナスイメージを与えるでしょう。マスコミもそのようなイメージを煽ることは確実です。
それを押しのけて法案を通すのであれば、次のブログでtalleyrandさんがマキャベリの言葉を引用して指摘しているように、一気呵成にやってしまうべきでしょう。つまり参院選まで引っ張るべきではなく、次の通常国会で通過させてしまうべきだということになります。


http://blog.goo.ne.jp/talleyrand_2006/e/540369e71e902ab1972f82872018ac61


参院選までこの法案を引っ張った場合、野党にワンフレーズ・ポリティクスの格好の材料を与えることになります。選挙を熟知している小沢民主党代表は、かつての「おたかさん」に習って「ダメなものはダメ」を連呼して、この問題を参院選の争点に据えるでしょうし、マスコミもそれに倣うでしょう。そうなると与党は参院選で大いに不利となるでしょう。
僕は自民党参院選勝利を最優先にするのであれば、この問題は先送りにして選挙後に一気呵成にやってしまうべきだったと思います。それまではこの話は押さえておくべきだったでしょう。いずれにせよ「次の国会に提出し、その後継続審議」というのは最悪の選択のように思えます。
安倍政権がこういう方針を決めたのは、導入に積極的な財界と、消極的な与党(特に公明党)や労働界の間を取ったということなのでしょうが、どっちつかずが一番悪い選択だったということなのでしょう。


このように3つの問題を見てきて思うのは、問題を悪化させている原因が安倍首相の優柔不断さ、八方美人ぶりにあるということです。おそらく安倍首相は小泉前首相のようなリーダーシップ型の人間ではなく、それ以前の首相に多かった調整型の人間なのでしょう。
何故そのような人間を小泉氏が後継者に選んだのか、実はこれが小泉政権最大の謎だったかもしれませんね。w