Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

長野聖火リレー雑感

昨日、長野で行われた北京五輪聖火リレーは、大きな混乱なく終了しましたが、聖火リレーの妨害やチベット支持派と中国人の小競り合いなど、小さな混乱は多発したようです。
ただ、この程度の混乱で済んだのは、警察が混乱阻止を目的とした警備を徹底させたためだと思います。

 北京五輪聖火リレーが26日、長野市内であった。ギリシャで採火された聖火を80人のランナーが4時間余でつないだ。チベット問題で世界中の注目を集めたため、中国人学生やチベットの支援者らが詰めかけて市内は騒然となった。リレーへの妨害行為も相次ぎ、6人が逮捕された。


(中略)


 妨害行為もあった。タレント萩本欽一さんに対してチラシなどが投げ込まれ、神奈川県の男(30)が道路に飛び出した。卓球選手福原愛さんの時は、チベットの旗を持った台湾人の男(42)が列に飛び込んできた。ほかにも東京都の男(25)が飛び出して卵のパックを投げ込んだ。愛知県の男(63)がトマトを投げ込み、東京都の男(38)が走者の列に飛び込もうとした。

 県警はトマトを投げた男を暴行容疑で、4人を威力業務妨害容疑で、それぞれ現行犯逮捕。沿道から火のついていない発煙筒と抗議ビラを投げ込んだ神奈川県の会社員の男(33)を暴行と道交法違反の容疑で逮捕した。いずれも容疑を認めており、神奈川県の30歳の男は「チベット問題の解決を訴えたかった」、台湾人の男は「中国人がたくさんいたので興奮した」などと話している。また、県警は観客同士の暴行、傷害事件2件を調べている。

 沿道や会場にはチベット問題で中国に抗議する人や、逆に応援する人などで計8万5600人(主催者発表)に。断続的に小競り合いが起き、中国人男性計4人が病院に運ばれた。いずれも軽傷。

http://www.asahi.com/national/update/0426/TKY200804260001.html

 ハプニングは突然起きた。JR長野駅善光寺周辺と比べて、比較的観客の数が少ないコース中ごろの沿道。「フリーチベット!」。チベットの旗を握りしめた男がロープをまたいで車道へ飛び出し、聖火ランナーの列に飛び込んだ。警官隊に取り押さえられ、地面に顔を押さえつけられながらも、「フリーチベット」の泣き叫ぶような声は消えない。

 男は、台湾に住む亡命チベット人2世の古物商、タシィ・ツゥリンさん(42)。「私はオリンピックに反対しているわけではない。ただ、チベットの惨状を全世界に訴える絶好の機会だと思っている」。この日朝、沿道の別の場所でチベットの旗を広げていたタシィさんは記者にそう話していた。

 タシィさんは、中国のチベット侵攻後の1959年、チベットからインドに亡命し、その地で生まれた。紛争は直接経験していないが、父親の壮絶な体験がタシィさんの心に刻み込まれている。

 父親は紛争の最中、政治的理由で中国公安当局に拘束され、死刑を宣告された。しかし執行の前日、一か八か、小さな窓から絶壁に向かって飛び降りて脱走、一命を取り留めた。その後、夫婦で当時7歳だった兄を連れて2週間かけて、命からがらヒマラヤ山脈を越えたという。

 「チベット独立は両親の悲願でもある。それを実現するためには、残りすべての人生を犠牲にする覚悟がある」

 チベット難民として暮らしたインドでは、常に「どこにも所属しないホームレスのような感じだった」。しかし、ダライ・ラマ14世の言葉に接し、考え方が変わった。「チベットチベット人のもの。暴力を使わず、平和的に訴えることで、私たちの『自由』を取り戻したい」。

 タシィさんは25日夜に長野入り。タイの聖火リレーでも抗議活動に参加したが、そのときと比べると、日本のほうがチベット支援者が多いことに驚いたといい、「応援してくれる日本のみなさんに感謝している」と述べていた。

http://sankei.jp.msn.com/sports/other/080426/oth0804261339026-n1.htm



今回の聖火リレーによる逮捕者は6人で、うち日本人が5人、チベット人二世の「台湾人」が1人で、中国人の逮捕者はいませんでした。また、負傷者は中国人4人で、いずれも軽傷のようです。
また、逮捕者は全て聖火リレーの妨害者で、チベット支持派と中国人の小競り合いによる逮捕者は出なかったようですね。


ただ、中国側に法に触れる行為がなかったと言うと、そういうわけでもないようです。「天漢日乗」では、五星紅旗を振って箱乗りしている車の話が紹介されています。

この動画の解説によると、五星紅旗を振って箱乗りしている車は止められていなかったらしい。長野県警
 日中友好
に腐心していたようだ。
 為了加強中日両国人民的友誼
ってやつね。
(追記 14:10)
もっとも、警備側が、
 中国人の動員数を見誤った
という側面もあり、
 中国人に暴動を起こさせないような「警備」
をしていた、という話も出ている。

ラサ燃える(その47)長野@4/26→追記あり: 天漢日乗



下手に中国人を逮捕すると、暴動が発生して大混乱となる恐れがあったので、その防止を第一に考えないといけなかったのでしょうね。
さらに、中国人を逮捕せざるを得ないような状況をできるだけ発生させないために、チベット支持派と中国人の隔離を徹底させたのでしょう。ネットには開会式や閉会式の会場に、中国人集団は入れたのにチベット支持派は入れないという批判がありましたが、それもそのような隔離の一環だったのでしょう。*1


このように警察が混乱防止に目的を絞った理由としては、一つには一般市民に被害が及ぶことを避けるためですが、もう一つは聖火リレーの混乱が中国国内の反日運動を誘発して、胡錦涛総書記の来日に影響が及ぶことを避けたかったためなのでしょう。どちらも長野県警としては大失態になってしまいますから。


さて、この聖火リレーに対する中国側の反応ですが、全体的にはチベット支持派の抗議運動やリレーへの妨害、チベット支持派と中国人集団の小競り合いなどには触れず、「友好的な歓迎」と報じたところが多いようです。ただ、一部には中国人の負傷を「日本民族主義者」による暴行だとする報道もあるようです。今後は当日長野に行った留学生達がネットやケータイで似たような情報を伝えるでしょうから、今後の波乱要因になるかもしれませんね。

 【北京26日佐々木学】二十六日の長野の北京五輪聖火リレーについて、中国の主要メディアは、妨害行為やチベット独立支持者の動きを伝えず、地元の歓迎ぶりの報道に終始した。胡錦濤国家主席の訪日を五月六日に控え、反日機運を抑え込みたい中国政府の意向が反映された。

 中国中央テレビはニュース番組で、リレーの沿道で中国人留学生が中国国旗を振って「北京、頑張れ」と声援を送る様子を放映。トーチを持って笑顔で走る北京五輪卓球日本代表の福原愛選手を「幼いころから中国で練習してきた」と好意的に紹介した。

 しかし、映像からチベット旗はカットされ、リレーへの男の乱入や中国人留学生とチベット独立支持者との小競り合いなど騒然とした雰囲気は伝えなかった。

 国営新華社通信も「集まった観衆は熱烈な拍手と声援を送った」と報じたが、妨害行為には触れていない。

 四月七日にパリで起きた激しい聖火リレー妨害が中国で報道されると、各地で反仏デモが発生した。中国政府は、長野の聖火リレー成功を強調することで、胡主席訪日を前に、中国の若者に高まる愛国主義の矛先が日本へ向かうのを避けたとみられる。

日本の歓迎ぶり強調 長野の聖火リレー終了で中国 メディア、混乱は報じず - 北海道新聞

 【北京=川越一】長野市で行われた北京五輪聖火リレーで日本人と中国人の間で小競り合いが起き、中国人が負傷したことについて中国共産党機関紙、人民日報傘下の「環球時報」(電子版)は26日、「日本の民族主義者が中国人留学生を殴打した」などと報じ、中国人が“被害者”であることをアピールした。

 同紙は、数千人の中国人留学生らが中国国旗を振って聖火を歓迎したが、100人余りの「日本民族主義者」が聖火リレーのムードを台無しにしたと主張。第二次世界大戦時の旭日旗を掲げ、「中国人は帰れ!」などと罵声(ばせい)を飛ばしたと報じた。また「フランス通信(AFP)が『中国と日本の関係は不穏で、中国は日本の民族主義者に目の敵にされている』と伝えた」とも報じている。

 同紙は目撃者の話として、右翼団体のメンバーが突然車道に飛び出し、中国人留学生から中国国旗を奪い取ろうとし、殴るけるの暴行を加えたとしている。負傷者の1人は頭から出血し、周囲の中国人らが中国国旗で止血するなどの応急処置を施したと伝えた。

 一方、聖火リレーの開始と終了を速報した中国国営新華社通信は26日午後5時(日本時間同6時)になって、数回にわたってリレーに乱入者があったと伝えた。また、リレーの最中、異例の早さで映像を流した中国中央テレビも、卓球の福原愛がトーチを手に走る姿は報じたが、その後、チベットの旗を手にした男が乱入した場面はカット。歓迎ムードの中でリレーは終了したとの報道に終始した。

http://sankei.jp.msn.com/world/china/080426/chn0804261818006-n1.htm