Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

貧しさと通り魔

6/9に秋葉原で発生した連続無差別殺人事件については、マスコミでもネットでも様々な情報や意見が語られています。僕もそれらの情報をずっと見ているのですが、その中で「少年犯罪データベースドア」では、昔の通り魔事件の多さについて説明していました。

秋葉原の通り魔事件で7人死亡、25歳の男を逮捕(ロイター)
ということで、過去の事件については少年犯罪データベース 通り魔事件をご覧ください。昔はとにかくこの手の事件が多くて、ここにまとめているのはほんとうにごく一部だけですが。
拙著『戦前の少年犯罪』に「戦前は通り魔がやたらと多いのが特徴で、ほぼ毎日、全国どこかの新聞で記事を読むことができます。」と書きましたら、この表現が大げさではないかと引っかかる方がいたようですので細かいことを記しておきますが、私が目にしたものだけで年に200件は通り魔の記事がありまして、私が読んでいるのは全国の新聞の半分もありませんから「ほぼ毎日」というのはほぼ正確だと思われます。なお、その記事は「これで5件目」とか「7件連続」とかいうのがちょくちょくあるので事件件数は非常に多いです。
戦後も昭和30年代までは似たような状況で、その頃の日本がいかに殺伐とした時代だったかはこんな映像でも窺えます。

通り魔事件の映像 : 少年犯罪データベースドア



昭和30年代までは通り魔事件が非常に多かったと言うことは、昭和40年代の高度経済成長によって日本社会が全体的に豊かになった結果、通り魔事件が激減したということになると思います。


さて、この秋葉原の事件だけではなく、最近は通り魔事件が続発している印象があります。今年だけでも東京・品川区や茨城県土浦市での事件が思い出されますし、昨年末の佐世保の銃乱射事件も記憶に新しいところです。
そして今回の秋葉原の事件を見ていると、犯人が派遣社員で雇用が不安定であり、犯行直前に職を失う可能性があったことが、犯行のきっかけとなったことが、取り上げられています。


秋葉原通り魔殺傷事件(その6)容疑者は日研総業の派遣社員で裾野市にあるトヨタグループの関東自動車工場勤務 6月一杯で辞めるよう通告を受ける: 天漢日乗
【秋葉原無差別殺傷】人間までカンバン方式 - 何かごにょごにょ言ってます


そのため、マスコミやネットでは非正規雇用に対する批判が大きいのですが、考えてみれば、この10年間で非正規雇用が拡大し、「就職氷河期」世代が安定した職に就けなかったのは、「失われた15年」と言われる長期のデフレ不況に企業が雇用コスト削減で対応したためでしょう。だから今度は長期不況によって日本社会が全体的に貧しくなった結果、通り魔事件が増加したと言えると思います。


昭和40年代の高度経済成長は池田勇人政権の「所得倍増計画」に始まるマクロ経済政策の成功によるものです。一方、「失われた15年」は、マクロ経済政策の失敗によって日本が速やかにデフレから抜け出せなかったためでしょう。もしバブル崩壊や1997年以降の経済混乱の時に、政府や日銀が(ITバブル崩壊時のアメリカのような)徹底的にデフレを押さえ込む政策を採用していれば、ここまで長く不況が続くことはなく、あの犯人もささやかながら安定した職を得られていた可能性が高かったと思います。そうだったら、あのような事件も起こさなかったでしょう。


昭和40年代の日本はマクロ経済政策の成功により通り魔事件を激減させ、ここ15年の日本はマクロ経済政策の失敗によって通り魔事件を増加させました。ということは、あの秋葉原の事件のような悲劇を減らすためには、まずマクロ経済政策によって、日本経済をデフレ不況から脱出させ、安定成長に戻すことが必要でしょう。それがなければ、いくらナイフやネットやオタク文化を規制しようが、あるいは派遣労働や非正規雇用を規制しようが、別の形で通り魔事件や大量殺人事件が起こるのではないかと思います。