危機意識のない民主党
先週、民主党では小沢一郎代表がとうとう辞任し、その後任を選ぶ総裁選では鳩山由紀夫氏が岡田克也氏を破って新代表となりました。ただ、「ではそれで何が変わるのか?」と考えてみると、民主党の政策が少しでも変わるとは思えないんですよねえ。
例えば、エコノミストの安達誠司氏が、「Voice」6月号で民主党の経済対策について論じていますが、その対策は「100年に一度の経済危機」と言われるほどの深刻な現状に対応したものではなく、せいぜい通常の経済状況における不況にしか対応できないものであるようです。特に「非伝統的な金融政策」に否定的であるのは、現在の世界各国の経済政策とはかけ離れていると言えるでしょう。
小沢一郎代表の政治献金問題に揺れる民主党だが、日本に二大政党制に基づく政権交代を根付かせる原動力としての国民の期待は依然として高い。その政権担当能力を試すという意味で、「100年に一度の経済危機」に対する経済政策構想の評価はきわめて重要だと思われる。
http://news.goo.ne.jp/article/php/politics/php-20090516-01.html
だが、筆者がエコノミストの立場で民主党の経済対策案を見るかぎり、その効果については疑問符が付く。千葉県知事選、秋田県知事選での連敗で、次期衆院選の勝敗の行方は不透明になりつつあるが、仮に、民主党が政権与党の座に就くことができた場合、真に効果のある新たな経済対策の再検討が望まれる。
「生活・環境・未来のための緊急経済対策」と銘打たれた民主党の経済対策案は、「2年間で21兆円」と複数年度にまたがる大規模な景気刺激策となった。
この21兆円の内容は、(1)家計が自由に使えるお金(可処分所得の増加)に14.1兆円(子供手当、国公立高校の授業料の実質無料化、大学生に対する奨学金の拡充、高速道路無料化など)、(2)現在の不安を軽減し、将来の安心感を高めるために4.5兆円(中学生までの医療費無料化、全労働者に雇用保険適用など)、(3)新しいライフスタイル、新しい価値の実現を支援するために1.6兆円(太陽光パネル設置促進、次世代自動車購入支援、省エネ等住宅リフォーム促進)、(4)消費の拡大、新産業の育成、安定雇用の維持・拡大に1兆円(農林水産業に対する戸別所得補償制度創設、職業訓練・職業人材育成教育など)、がそれぞれ充てられることになっている。
それぞれの具体的な項目を見るかぎり、政府与党案にすでに盛り込まれているものがほとんどであるが、支出金額のウェートをみると、そのほとんどが家計に対する扶助になっている。これはまさに、「国民生活第一主義」の民主党らしい内容であり、どうも公共投資が主軸となりそうな自民党案との対立軸を明確にさせているように思えてくる。
筆者は、以上のような経済政策のメニューが通常の経済状況の下、もしくは「循環的な」景気後退局面で策定される経済対策であれば、十分評価に値すると考える。しかし、1930年代の世界大恐慌に匹敵するともいわれている今回の経済危機を克服するための「緊急経済対策」としては、問題が多いと考える。
その理由として筆者が指摘したいのが、(1)緊急経済対策の財源が、「税金の無駄遣い」の見直しによるコスト削減であること、(2)「非伝統的な金融政策」の実施に否定的であること、(3)底流に政府主導の「産業合理化」という発想があると思われること、の3点である。
また、民主党の「次の内閣」財務相である中川正春衆院議員が、「ドル建ての米国債を購入しない」と述べたと報じられています。しかし、アメリカが米国債を大量に発行して財政政策を進めたり、FRBが大量のドルを発行してマネーサプライを維持しているのは、「非伝統的な金融政策」で現在の深刻な経済危機を支えるためです。この発言は、そんなアメリカの努力に水を差すものでしかないでしょう。
ところで、民主党に関していえば、代表選挙云々よりも、次のニュースの意味を考えるべきであろう。
民主党政権は、「米国債」を買わない…。: 雪斎の随想録
□ ドル建て米国債は購入せず 民主・中川氏が発言
【ロンドン13日共同】英BBC放送は12日、民主党の「次の内閣」財務相である中川正春衆院議員が、民主党政権が誕生すれば「ドル建ての米国債を購入しない」と述べた、と伝えた。
中川氏はBBCとのインタビューで、将来のドルの価値に懸念を表明した上で「ドル建てでなく、円建てならば(米国債を)購入してもよい」と語った。
この発言が伝わると、外国為替市場で一時、ドル安が進んだ。
日本は中国に次ぐ米国債の保有国。次期総選挙で政権奪取を狙う民主党幹部の発言についてBBCは、重要な政策変更になるとしながらも、民主党が選挙で勝つことはないだろうとの見方を伝えた。
このニュースは、二つの点で驚きである。
第一に、中川氏が発言したようなことを本当に民主党が「党の政策」として打ち出すのかということである。記事が伝えるように、これは、対米関係の上でも、「重要な政策変更」なのである。もっとも、中川「影の財務相」は、日本円と中国人民元との提携を打ち上げているようであるけれども、「対米関係」よりも「対中関係」を重視するという思考なのであろうか。現在、「ドルの信認」というのは、かなりデリケートな話題なので、余程、考えを練って発言jしてしてもらわないと不味いであろう。
第二に、「BBCは、民主党が政権を取るとは思っていない」という見方に対してである。何故、目下、BBCがそのように観ているのか。雪斎は、その点を知りたい気がする。民主党に親和的な人々には、「政権交代」が繰り返される英国政治を「理念型」として考えている人々が多いであろうけれども、当の英国のメディアが日本における「政権交代」の可能性を懐疑的に観ているのなら、その意味はきちんと検証されるべきであろう。
第二の点は、一外国のメディアの見方に過ぎないであろうけれども、第一の点は、対外関係に絡む話である。それも、民主党政権登場の場合の「財務大臣」の発言である。民主党からの対外関係に絡む発言は、小沢氏の「第七艦隊だけでいい」発言もそうであるけれども、「怖い」ものが多すぎるような気がする。
これらの話から言えることは、民主党は政権を取っても、日本政府として現在の深刻な経済危機を支えるために必要な政策を行うつもりがないばかりか、アメリカが現在行っている必要な政策の妨害すらしかねないということでしょう。
このように考えると、民主党には現在の経済危機が世界的に非常に深刻であるという認識があるのか、それすら疑わしくなってきます。
これなら、まだそのような認識がある分、麻生総理や与謝野大臣や白川日銀総裁のほうがマシでしょう。
安達氏の記事は「景気回復を潰す政権交代」と題されていますが、中川氏の発言を合わせて考えてみると、日本だけではなく世界中の景気回復が潰されてしまうのかもしれませんね。
いくら代表を取り替えたところで、民主党のこのような経済政策が変わらない限り、政権交代など起こらない方が、日本だけではなく世界全体にとっても良いことだと思います。