自作自演で金融緩和の効果を打ち消す日銀
[東京 27日 ロイター] 日銀は27日に開いた金融政策決定会合で、資産買入基金による長期国債の買い入れ額を10兆円拡大するとともに、上場投資信託(ETF)を2000億円、不動産投資信託(J─REIT)を100億円それぞれ増額する追加金融緩和を決定した。一方、札割れが頻発している6カ月もの固定金利オペを5兆円減額。これによって基金の規模は、これまでの65兆円から70兆円に拡大する。また、購入する長期国債と社債の残存期間を「1年以上3年以下」に1年長期化、買い取り期間を2013年6月末に半年延長した。
日銀が追加緩和決定、長期国債10兆円増額・固定金利オペ5兆円減額 | 日銀特集 | Reuters
注目されていた4/27の日銀の金融政策決定会合は、結局、長期国債10兆円増額・固定金利オペ(短期国債の購入)5兆円減額で、差し引き5兆円の緩和と言うことになりました。
しかし、緩和の規模が期待したほどではなかったこともあって、2月のように円安が進むことはなく、円相場は今も1ドル=80円あたりで上下しています。
前回のエントリーでは、前回の金融政策決定会合直後の11日にリークと思われる報道があったことを紹介しましたが、今回の会合の前にも再びリークと思われる報道がありました。決定会合を伝える上の記事と比べると、この記事は実際の決定内容とほぼ一致していることが分かります。
[東京 25日 ロイター] 日銀は27日に開く金融政策決定会合で、デフレ脱却に向けた動きを加速させるため、追加の金融緩和を実施する。長期国債を中心に資産買入基金を5─10兆円増額し、基金の残高目標を70─75兆円に拡大する公算が大きい。
焦点:日銀は国債買い入れ5─10兆円増額、基金買い入れ期限延長へ | Reuters
このようなリークが続けば、せっかくの金融緩和も決定前に市場が織り込んでしまい、大した効果は見込めなくなってしまいます。
さらに、日銀の白川総裁は、「際限ない国債買い入れ」などという誰も言ってない状況を持ち出して*1、金融緩和に消極的な姿勢を見せたり、財政への不安が不況やデフレの原因であると主張するなど、相変わらずデフレ脱却の責任を負う姿勢を見せようとはしませんでした。
[ワシントン/東京 21日 ロイター] 日銀の白川方明総裁は21日、訪問中のワシントンでフランス銀行主催のパネルディスカッションの参加し、国債への信認が低下することによる金融システム不安を抑えるため中央銀行が際限のない国債買い入れなどを行えば「制御不能なインフレを招く」と警告、中銀の流動性供給で時間を買える間に財政改革を進める重要性を強調した。
(中略)
日本については、「人々が将来の財政状況への不安から支出を抑制し、そのことが低成長と緩やかなデフレの一因になっていると考えられる」と指摘した。
際限ない国債買い入れ、制御不能なインフレ招く=日銀総裁 | Reuters
この状況について、民主党デフレ脱却議連事務局長の金子洋一参院議員は、自分のTwitterアカウントで、日銀がわざと金融緩和の効力を小さくして、金融緩和がデフレ脱却に効果が無いように見せるために、リーク報道や消極的な発言を繰り返しているのではないかと指摘しています。
@Y_Kaneko: 【追加緩和1】追加緩和には効果がないことを喧伝する報道が増えている。市場の動きは確かに今回の追加緩和後は芳しくない。しかし、前回会合直後から次回は緩和するとマスコミにリークし続け、既に市場に織り込ませていることが大きな原因。
@Y_Kaneko: 【追加緩和2】さらに、既に2月のインフレ目途導入直後の総裁会見、私などに対する国会答弁をはじめとしてこれまでと何も政策は変わっていないと連呼したことも、自らの追加緩和への市場の信頼をわざと削ぐ手段であった。
@Y_Kaneko: 【追加緩和3】2月以降、1月と比較してベースマネーを6兆円も削っていることで日銀の意図は明らか。今後、景気対策としての追加緩和を求める声を小さくするように、わざと自らの追加緩和の効力を削っていることが原因。このまま放置すれば、銀行がつぶれるようなことがない限り緩和しないだろう。
確かにこのように考えれば、2月に日銀が「中長期的な物価安定の目途」を公表した後、総裁の消極的な発言が繰り返されたり、会合の内容が不自然にリークされたり、マネタリーベース(ベースマネー)を絞ったりしていることの説明がつきます。日銀は2月の「目途」の導入で、金融緩和やインフレ目標がデフレ・円高の解消に効果があることが実証されてしまったことを嫌がり、自作自演でそれを否定しようとしているわけです。そのようにして金融緩和への期待が薄れてしまえば、日銀法改正への動きもしぼむと期待しているのでしょう。
とは言え、日銀の主張する金融緩和無効論が世界の非常識であることは間違いありません。
最近、アメリカでは、ポール・クルーグマン教授が、バーナンキFRB議長は、かつて日銀を批判していたときの見解と、現在FRB議長として実施している政策が違うのではないかと批判しています。それに対してバーナンキ議長は両者は整合的であると反論しました。
バーナンキは昔も今もすばらしい経済学者だ。それ以上のこととして、彼はFRBに入る前に大恐慌と現代日本の学問的な研究の中で、彼が2008年後期に直面していた正にその問題にかかわることを広範囲に書いていた。彼は力強い対策をとるよう論じ、こちらでのFRBにあたる日本銀行の消極性を酷評した。おそらく、彼のもとでのFRBは違っているはずだった。
だが、FRBは全力で金融政策を救いに行く一方、労働者を救うための努力ははるかに少なかった。アメリカ経済はひどく落ち込んだままで、バーナンキ自身が最近強調している点だが、特に長期失業率は今でも悲惨なほど高い。にもかかわらず、FRBは状況を改善するための強い行動を採ろうとしていない。
バーナンキの謎――バーナンキ教授が提唱していたものとバーナンキ議長が実際にやっていることとの乖離を一致させる方法が数通りある。もしや、バーナンキ教授が間違ってたんであって、この状況で政策立案者ができることなどもはや存在しないのか。もしや、政治が障害であって、バーナンキ議長は内なる教授を隠すよう強いられているのか。あるいは、かつての学究の人はthe Fed Borg(FRB生命体)に吸収されて、陳腐な中央銀行家になってしまったのか。でも、あなたがどの説明を好もうが、問題はFRBが経済学者の期待するような仕事をしておらず、結果として、アメリカの労働者が多大な苦しみを負っていることだ。
「ここ地球からバーナンキへ:バーナンキ議長はバーナンキ教授の声に耳を傾けよ」by Paul Krugman – 道草
バーナンキFRB議長:まずは後半の質問に対して答えさせていただきます。15年前に私が日本銀行に関して表明した見解とFedが現在採用している政策との間には幾分か食い違いがある、との意見を目にすることがありますが、そういった意見はまったく不正確(absolutely incorrect)です。私個人の現在の見解ならびにFedが現在採用している政策は15年前の私の見解と完全に整合的です。当時私は日本銀行に対して2つのポイントを指摘しました。まず1番目のポイントは、私の考えによれば、断固たる決意をもった中央銀行(a determined central bank)はデフレーション―物価の下落―からの脱却を目指して行動することが可能であるし、またそのように行動すべきだ、というものです。2番目のポイントは、短期金利がゼロ%に達した状況においても、中央銀行の手元にある政策ツールは使い果たされたわけではなく、さらなる金融緩和を推し進める上で中央銀行にできることはまだ残されている、ということです。
バーナンキvs.クルーグマン? – 道草
しかし、この議論の前提にあるのは、いつまで経ってもデフレから脱却できないのは日銀の責任であり、金融緩和やインフレ目標に消極的な日銀の政策は間違っているということです。その点については、クルーグマンもバーナンキも同意するでしょう。*2
いくら日銀が自作自演で金融緩和やインフレ目標の効果を否定しようとしても、世界から見ればそんなものは物笑いのタネでしかないでしょうね。