Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

デフレ主義からリフレ主義へ

あけましておめでとうございます。新しい年、2015年が始まりました。実はこのブログは2005年1月29日に始めたので、今年でちょうど10周年となります。リフレ政策を中心に細く長く続けてきたこのブログですが、今年もマイペースで更新していきたいと思いますので、よろしくお願いします。

前回の記事はまだ総選挙前でしたが、その後の総選挙で自民党はほぼ現状維持、公明党も含む与党全体で3分の2の議席を確保し、争点となったアベノミクスが国民から信任された結果になりました。前回の記事で、この解散総選挙財務省や与党内増税派の動きを押さえて消費税増税を延期するのが目的だと書きましたが、安倍政権はその目的を達成したと考えて良いでしょう。
ただ、その一方で野党側は、民主党がやや議席増、みんなの党の一部が合流した維新は現状維持、共産党が躍進した一方、維新から元「たちあがれ日本」の議員が分離してできた次世代の党は激減しました。安倍政権よりも右派で、なおかつリフレ政策を否定する次世代の党が壊滅的打撃を受けたことは、国民が望んでいるのはナショナリズムの強化や民族的な偏見に基づいた政策ではなく、金融緩和や増税の停止による景気回復であることを示していると思います。安倍総理がこの選挙で国民が示したこのような民意を理解してくれることを期待します。


話は変わりますが、去年の12月、Wall Street Journalのサイトに興味深い記事がありました。国内のマスコミではなかなか見られない視点ですので、今回はその記事を紹介したいと思います。

 2009年の終わりに私が日本に越してくる以前、日本が「景気後退」、「停滞」、「不振」といった不吉な言葉で表現されるのをよく目にしていた。ところが、引っ越しを終えて落ち着くと、私にとってより適切だと思われたのは英語の「comfort」に意味が近く、便利、信頼性、安全性、魅力など幅広い美徳が表せる「快適」という言葉だった。私は世界の日本に対する認識と国内で感じる雰囲気、並外れた豊かさの格差に衝撃を受けた。その繁栄ぶりは、前回私がここに住んだ20年前に知ったバブル時代の日本だけではなく、その後に私が米国で経験したいくつかの好況と比較しても引けを取らなかった。

 景気後退期の東京には、同じような状況下の欧米で見られるような経済的困窮の象徴、たとえば板が打ち付けられた店舗、割れた窓ガラス、積み上がったゴミ、物乞い、舗装道路のくぼみ、荒廃した地下鉄の駅、深刻な路上犯罪の気配などが全くなかった。図書館や公園といった公共サービスの閉鎖もなかった。それどころか、私がいなかった「失われた20年」に東京はかなりおしゃれになっていた。大手町にある私のオフィスの界隈では、古ぼけたコーヒーショップが入った軽量コンクリートブロック造りのみすぼらしい事務所ビルが、客で賑わうグルメ向けレストランや高級デザイナーのブティックなどが入っているきらびやかなオフィスタワーに取って代わられていた。下町にある自宅の周辺では、古い店舗が頻繁に閉店したが、週末のあいだに大急ぎで改装工事が行われ、月曜日の朝には新しい看板を掲げた店が開店していた。

 データはうそをつかない。多くの指標によると、日本経済は歴史的な衰退をたどり、特に増加傾向にある不完全雇用者という底辺層や人口減少地域に弊害をもたらした。それでも日本は、全般的に見て、比較的苦痛が少ない、穏やかな衰退でどうにかしのいできた。これは、アベノミクスという形の積極的な行動を伴う反応が現れるまでにあまりにも長い年月がかかったこと――そしてあまりに早く日本国民がそれを考え直すことになった原因の一つでもあるだろう。


 こうしたことから、過去5年にわたって日本の混乱した政治、金融、経済をウォール・ストリート・ジャーナルで記事にしてきた私はある結論にたどり着いた。日本の現代の政治経済には、デフレ主義対リフレ主義という特徴的な緊張関係があり、それぞれが思い描く日本の将来像も全く異なっているというものだ。

 デフレ主義者たちは安定を優先させ、人口動態を運命と見なし、日本の人口の高齢化と減少は必然的に経済停滞を招くと考えている。彼らの反応はリスク、混乱、分裂を最低限にとどめ、その移行にできるだけ苦痛が伴わないようにするというもので、国が引退生活の計画を立てるかのようである。一方のリフレ主義者たちは、そうした見通しを無用な敗北主義と捉え、より発展性があり、活力に満ちた未来を求めているので、あらゆるリスクを冒すこと、さまざまな混乱を受け入れることにも前向きである。


 日本の衰退期のイメージとして心に残っているのが、2011年3月11日の衝撃的な地震津波原発事故の三重災害である。そこには自然の脅威と無能なリーダーシップになすすべがない日本があった。より明るい未来の象徴としては、2020年の夏季オリンピックの東京開催決定があった。

 過去20年間の大半で幅をきかせてきたのはデフレ主義者たちだが、安倍政権が発足してからの2年間ではリフレ主義者たちが優勢となっている。しかし、首相になって1年間は高い支持率を享受した安倍氏も今では高まりつつある疑念に直面しており、自分の名前を冠した経済再生プログラムの是非を問う国民投票として、12月14日に総選挙を実施することにした。その投票結果は、2つの統治哲学の勢力バランスを再調整し、向こう数年間に日本が――経済や市場だけではなく、外交や防衛の分野でも――進む方向を決める一因となるだろう。

 日本の安倍政権以前の体制を「デフレ主義者」と呼ぶ一方で、私は物価、賃金、消費、投資の低下という経済を弱体化させる悪循環に陥ることが彼らの意図だったと示唆しているわけではない。それは主に、失策と麻痺状態の結果として起きたことだった。とはいえ、1990年代の終わりにこのような状況に陥った時、日本の指導者たちは、これはそれほど悪いことではなく、一般的に処方される対策は利益以上に害をもたらすリスクがあるという判断を暗黙のうちに下していたのだ。

 考えてみてほしい。日本の国民1人当たりの国内総生産GDP)成長率は、他の先進国と同等、あるいはそれ以上だった。平均寿命は伸び続け、世界最高水準であり続けた。その一方で犯罪発生率は世界最低水準を維持した。失業率は「失われた20年」のあいだにピークの5.5%に達したが、欧米の景気後退期の水準である2ケタを大きく下回っており、景気回復期に入って久しい米国の現在の失業率よりも依然として低い。

 日銀の白川前総裁は退任半年後の2013年9月のスピーチで、穏やかなデフレは、ある程度において、雇用の最大化を確保するために日本社会が支払った代償だ、と述べた。慎重な白川前総裁はデフレ主義者たちの看板的存在となり、リフレ主義者たちの主な攻撃対象となった。白川前総裁によると、デフレは衰退を均一に分散させるための日本の「社会契約」の一環だという。大量一時解雇という欧米の慣習とは対照的に、日本企業は景気低迷期に賃金削減を通じて人件費を節約することができた。

 おそらく米国のエコノミストたちにとっては苛立たしいそうした態度は、無秩序な市場への不信感が根深い日本ではむしろ主流なようだ。米シンクタンクのピュー・リサーチ・センターは今年、43カ国で経済に対する考え方を調査した。「富める人もいれば貧しい人もいるが、ほとんどの人は自由主義経済の方が幸せになれる」という意見に賛成か反対かを聞いたところ、日本では51%が反対だった。半数以上が資本主義の純便益を疑った国は日本を含めて4カ国しかなかった。


アベノミクスのジレンマ―破壊的再生か安楽な衰退か - WSJ アベノミクスのジレンマ―破壊的再生か安楽な衰退か - WSJ アベノミクスのジレンマ―破壊的再生か安楽な衰退か - WSJ



このように、現在の日本を「リフレ主義」と「デフレ主義」の対立として分析した記事は、リフレ派の論者によるものを除けばこれが初めてだと思います。
もちろんデフレ(デフレーション)というのは、継続的な物価の低下(=継続的な通貨価値の上昇)を示す言葉であり、リフレ(リフレーション)というのは、そのようなデフレからの脱却を示す言葉です。それを実現するための政策、具体的には期待インフレ率の上昇を目指すためのインフレ目標の導入や大規模な金融緩和、レジーム転換などの金融政策や、財政出動増税の停止、減税といった財政政策から成る政策パッケージがリフレ政策と呼ばれます。
ただ、最近リフレ政策の実現を目指すリフレ派は、インフレ目標や金融緩和に反対したり、消費税増税を目指す勢力をデフレ派と呼ぶことがあります。このような言葉もあるのでこの対立は党派的にも見られがちですが、このWSJ記事で使われている「リフレ主義」と「デフレ主義」はもっと深い意味を持たせているようです。

この記事によれば「デフレ主義」は安定を優先させてリスクを避け、経済停滞を受け入れる考え方であり、「リフレ主義」はリスクを冒してでも、より発展性があり、活力に満ちた未来を求めている考え方だと定義されています。

 約5年前に人口が減少に転じ、「高齢化社会」という自国像、そうした未来に合った政策や優先事項の新たな方向付けが定着すると、日本の危険回避傾向が強まった。デフレ主義者たちの最後の大きな行動は、3年後に消費税率を倍にするという2012年に可決した消費増税法案だった。目的は、欧州を襲ったソブリン債務危機のようなものが起きる可能性に対して追加的な防御策と、ベビーブーマー世代の引退に備えて老齢年金を補強することにあった。増税で成長が妨げられるということに疑問の余地はなかった。支持した人々は景気の減速を、老年期に入る人口の社会保障、そして国を維持するのに必要な代償だと感じていた。

 当然だが、デフレにはマイナスの側面もあり、害悪と考える人々もいる。今や日本人の6人に1人が貧困線以下の生活を送っている。企業が従業員を一時解雇することをタブーにした「社会契約」は、給与と手当が保証された正社員の採用もより難しくした。日本の低い失業率は、低賃金の非正規雇用者の急増で維持されており、今やその割合はすべての労働者の3分の1以上に達している。デフレの時代に成年になった20代、30代の日本人の多くには、待遇が良く安定した職を見つけるチャンスがなかった。高齢者を保護するために将来の野心を縮小した日本は、若者の夢を台無しにしてしまったのだ。

 リフレ主義者の関心は経済的苦難を通り越して、国際社会における日本の存在感の低下にある。地域のライバルである中国の台頭がそれに影響していれば、なおさらだ。中国の経済規模は日本の2倍になった。両国の経済成長率には大きな差があるため、日本に追いついてからわずか4年で達成された。領有権をめぐる2国間の緊張が高まり、最近、中国政府が高圧的にその経済力を誇示した――2010年には日本が必要としていた素材、レアアースの供給を絞り、2012年には巨大な国内市場で日本製品をボイコットした――ことは、リフレ主義者たちが景気停滞による経済上の危険と安全保障上の危険を結び付けるのに役立った。

 そうしたチャイナショックの後に、休眠しているかのようだったリフレ主義の理念が一気に高まったのは偶然ではないだろう。そうした運動の政治的リーダーが、短命に終わった最初の首相在任期間に日本の失われたプライドを取り戻そうとしたことでよく知られている安倍首相になったのもやはり偶然ではあるまい。日本の平和主義は、いろいろな意味でデフレ主義――国家的影響力の低下と相伴うリスク回避の外交政策――と二つで一組になってしまった。再び首相に就任した安倍氏は、国家主義とリフレ主義の理念を融合させ、より活発な経済と同時に、より力強い外交と安全保障上の役割を目指してきた。

 アベノミクスには、概念的に「新しいもの」はほとんどない。そのアイデアの大半は外国のエコノミストたちが長いあいだ日本に採用を促してきたことか、以前のデフレ主義政権が実施されなかった無数の「成長戦略」の一環としておざなりに支持したものだ。

 新しかったのは、安倍首相が成長を加速させ、デフレを終わらせることが日本の最優先課題だと宣言したこと、そして、そのために必要とみられている措置の少なくともいくつかについてはやり遂げると決断したことである。両陣営の人々をよく知っている私の印象だが、デフレ主義者たちとリフレ主義者たちは実際には、アベノミクスの3本の矢(短期的な成長を促すための金融と財政面の刺激策、長期的な成長を後押しする構造改革など)がもたらし得る恩恵と波紋に関して共通の理解を持っていると思う。


 両者を分かつのは、リスクに対する許容度の違いである。


 安倍首相の下、成長を追い求める日本は刺激策を新たな極限まで押し進めた――これは日本に限った話ではなく、世界的に見ても極限と言える。

 今や日銀はそのポートフォリオに、日本のGDPの約6割――他の先進国の中央銀行が達した水準の2倍――に相当する資産を保有している。安倍氏が首相に就任する以前でさえ、日本政府の債務残高はそのGDPの2倍以上という世界最高水準に達していた(これに近いのはジンバブエぐらいである)。それでも、来年に予定されていた消費増税――デフレ主義の前任者たちが成立させた法案――を先送りにすることで成長をさらに促進させようという安倍首相の最近の決断には、日本の記録破りの借り入れに対する市場の許容度を試すことへの猛烈な意欲が示されている。

 日本のリスク回避からリスク負担への急転換は、約130兆円の資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)にも拡大した。あまり慎重ではない国でさえ、保守的に扱う傾向がある老後の支えだが、GPIFは今や安全だが低利回りの国債の比率を減らし、より利益性は高いが値動きが激しい株式の比率を増やしている。

 安倍政権以前の日本はどうしてそうした賭けに出なかったのか。世界の投資家が日本の経済政策は不安定になったという結論を下し、その結果の資金逃避で経済を衰弱させるような何らかの相場崩壊――金利の急騰、底なしの円安、株価の暴落など――が引き起こされるのをデフレ主義者たちは恐れていたのだ。そうした大惨事が起きる確率は測定できるものではないが、その可能性が、より大胆な刺激策への意欲をそぐものとして長く機能してきた。

 安倍首相の大博打にもかかわらず、少なくとも今のところは、デフレ主義者たちが長く恐れてきた市場の大混乱は引き起こされていない。一方で、夏場に景気後退に陥るなど、リフレ主義者たちが約束した停滞からの決別も実現していない。今やリフレ主義者たちの運動は、政治と政策において岐路に立たされている。



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このように、この記事は「リフレ主義」と「デフレ主義」の違いを「リスクに対する許容度の違い」と言っています。「デフレ主義」は「金利の急騰、底なしの円安、株価の暴落」といった市場の混乱を恐れる考え方だと述べています。

また、この記事はデフレが高齢者を保護するために若者の夢を台無しにしたことも書いていますし、中国の台頭が「リフレ主義」と日本の影響力低下を危惧する安倍総理のような国家主義勢力を結びつけたことや、逆に日本の平和主義(日本で言う「リベラル左派」と同じと言って良いでしょう)が「デフレ主義――国家的影響力の低下と相伴うリスク回避の外交政策――と二つで一組になってしまった」ことも指摘しています。日本の平和主義がいつの間にか外交的にも経済的にもリスク回避ばかりするようになってしまったことを指摘した部分でしょう。日本でリベラル左派が国民の信頼を失ってしまった本質的な理由は、このようなリスク回避の姿勢にあるのかもしれません。


このようにこの記事はいろんな論点を含んでいて、様々なことを考えさせてくれる記事です。一流のジャーナリストというのはこのような記事を書くのかと、改めて感心させられました。


僕は「デフレ主義」をリスクを避けて、安定の中の衰退を受け入れ、日本の未来を閉ざす考え方、「リフレ主義」をリスクを取って、社会の不安定化を受け入れてでも、日本の成長を目指し未来を開く考え方だと受け取りました。今回の総選挙で、有権者は安倍政権の国家主義的な姿勢に釘を刺しつつも、「リフレ主義」のリスクを取る考え方を選んだのだと思います。

リベラル左派はこの結果に反発するのでしょうが、これに対抗するには平和主義と「デフレ主義」の組み合わせを解いて、国家主義的ではないがリスクを受け入れる「リフレ主義」と平和主義の組み合わせを作るしかないと思います。

「リフレ主義」と「デフレ主義」、国家主義と平和主義、この2軸で日本の諸勢力を分析してみると、これまでの右派、左派の枠組みだけではない新たな見方が得られるのではないでしょうか。

なぜ消費税増税延期と解散総選挙が連動したのか

11月18日、安倍総理は消費税の10%への引き上げを来年10月から1年半延期し、17年4月からの増税とすることを表明しました。また、同時に衆院を解散することを表明し、21日に衆院は解散され、12月14日に衆院選を行うことになりました。*1

その前日の17日に発表された7〜9月期の国内総生産GDP)速報値は、事前の民間予測を大きく下回る年率換算1.6%減となっていて、消費税増税による景気後退の凄まじさを示したばかりでした。
この状況で消費税を再増税することは無謀としか言いようがなく、延期を判断したのは当たり前のことでしょう。ただし、これまでの政権ではしばしば当たり前のことが行われなかった事を考えれば、安倍政権の決定は賞賛されるべきだと思います。

 17日に発表された7〜9月期の国内総生産GDP)速報値が、事前の民間予測を大きく下回る年率換算1.6%減となり、国内のみならず海外にも衝撃が走っている。米国の著名な経済記者デイビッド・ウェッセルはツイッターで「リセッション(景気後退)!」と書いた。経済統計的にも2四半期続いての成長率の落ち込みはリセッションとなり、ショックを受けた東京株式市場でも日経平均株価終値が前週末比517円03銭安の1万6973円80銭にまで落ち込んだ。

 かねてから財務省や同省と近しい政治家、エコノミストたちは、「4月の5%から8%への消費増税による成長率反動減はせいぜい夏前までに終わり、その後日本経済は回復経路に乗る」と楽観的な見通しを示し、来年10月に予定される10%への再増税を正当化していた。しかし今回の実質GDP大幅減は、そのような楽観的な見通しがいかに間違ったものかを明らかにした。


景気後退局面か GDP速報値大幅減が示唆 消費増税で深刻な経済悪化を招いた財務省の罪 | ビジネスジャーナル 景気後退局面か GDP速報値大幅減が示唆 消費増税で深刻な経済悪化を招いた財務省の罪 | ビジネスジャーナル 景気後退局面か GDP速報値大幅減が示唆 消費増税で深刻な経済悪化を招いた財務省の罪 | ビジネスジャーナル



しかし、消費税増税延期は分かるとしても、なぜ同時に解散を行う必要があるのか、疑問に思っている方も多いと思います。

実はこのブログでは、昨年9月の消費税を8%に上げるかを判断する前の時期に、増税を延期するには解散総総選挙が必要だと書いたことがありました。

このように、自民党内部が消費税増税賛成一色では、安倍総理もその声を無視するのは難しいでしょう。
かつて、小泉総理は、自民党内部が郵政民営化反対一色の状況で、あえて郵政民営化を公約にして解散総選挙を行い、反対派を離党させて「刺客」候補を立てて追い詰め、その結果大勝しました。安倍総理が消費税増税反対を貫くのであれば、同じ事をやる覚悟が必要になるでしょう。
ただ、今は野党がボロボロの状況ですし、世論調査では消費税を8%に上げることについては反対の方が多いですから、そこまでやっても安倍総理は勝てるでしょう。ただ、その覚悟が安倍総理にはないのでしょう。
だから総理は増税実施に傾いているのだと思います。


安倍総理は財務省の「歳出権」の前に屈するのか? - Baatarismの溜息通信 安倍総理は財務省の「歳出権」の前に屈するのか? - Baatarismの溜息通信 安倍総理は財務省の「歳出権」の前に屈するのか? - Baatarismの溜息通信



この記事にも書いたように、自民党内部は元々財務省の影響下にある増税派が多数派で、増税に反対する勢力は少数派です。連立を組んでいる公明党も似たような状況でしょう。僕はこのような状況を打開して増税を止めるためには、郵政解散のような手法で強引に総理の言うことを聞かせるしかないと考えていました。
今回、11月に入ってから急に解散があるという観測が広がり、これまで予定通りの増税を主張していた議員達が一人残らず増税延期に賛成してしまったのは、まさにこの見方が正しかったことを裏付けていると思います。
今回の解散については様々な内幕記事が出ていますが、いずれも総理官邸と財務省増税派の議員達の間で対立や政争があったことが書かれています。このような反対を押さえつけるための解散だったと言って良いでしょう。

焦点:増税と閣僚辞任絡んだ解散の決断、追加緩和も後押しに | Reuters 焦点:増税と閣僚辞任絡んだ解散の決断、追加緩和も後押しに | Reuters 焦点:増税と閣僚辞任絡んだ解散の決断、追加緩和も後押しに | Reuters

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ただ、今回の増税延期で一つだけ残念なのは、今回の増税延期の根拠となった景気条項の削除が決定されてしまい、今後は経済状況によって増税を延期することができなくなりそうなことです。大きな金融危機や大災害が起こったときは新規立法で延期すると安倍総理は言ってますが、今回の消費税増税による景気後退の大きさを考えると、2年半後に一度に2%も上げて大丈夫なのか、不安が残ります。

 安倍晋三首相は18日夜、首相官邸で記者会見し、2015年10月に予定される消費税率10%への引き上げを1年半延期し、17年4月に変更するとともに、21日に衆議院解散・総選挙に踏み切る意向を正式に表明した。17日に公表した7〜9月期の実質国内総生産(GDP)が2四半期連続でマイナス成長となったことや、有識者による政府の点検会合での意見などを踏まえて最終判断した。ただ「再び延期することはない」と断言した。

 17年4月の再増税に関しては「(経済情勢を踏まえて増税の可否を見極める)景気判断条項を付すことなく確実に実施する」と表明。2020年度の財政健全化目標は「しっかり堅持していく。来年の夏までにその達成に向けた具体的な計画を策定する」と述べた。


首相、消費再増税「景気条項付すことなく確実に実施」1年半延期で :税金HOTニュース :年金・保険・税 :マネー :日本経済新聞 首相、消費再増税「景気条項付すことなく確実に実施」1年半延期で :税金HOTニュース :年金・保険・税 :マネー :日本経済新聞 首相、消費再増税「景気条項付すことなく確実に実施」1年半延期で :税金HOTニュース :年金・保険・税 :マネー :日本経済新聞

 安倍晋三首相は18日夜、TBSの報道番組に出演し、将来リーマン・ショック級の金融危機や巨大な天変地異が発生して消費税率10%引き上げを再延期する場合、「国会で議論して法律を新たに出す。めったに起きないが、そうなったらやるのは当たり前だ」と述べた。
 首相は、消費税再増税の1年半延期と同時に、経済情勢が悪い時に消費税率引き上げを先送りできる消費税増税法の景気条項の削除を表明した。同番組では「今回のような景気判断をして先送りはしない」と語った。


時事ドットコム:金融危機なら増税再延期=法改正で対応−安倍首相 時事ドットコム:金融危機なら増税再延期=法改正で対応−安倍首相 時事ドットコム:金融危機なら増税再延期=法改正で対応−安倍首相



また、今回の選挙で与党が大きく議席を減らした場合、増税派の議員達もすでに賛同してしまった増税延期を覆すことはできないでしょうが、その代わりに倒閣運動が広がる可能性もあります。前回の記事にも書いたように、今後、日銀にリフレ政策に賛同する審議委員を送り込むためには、安倍政権が存続する必要がありますから、今後も安倍総理が与党内部を掌握できるかが焦点となるでしょう。


今回は解散総選挙について論じてきましたが、ここまでの話で出てきたのは与党内部や財務省との対立の話ばかりで、野党の話が全く出ていません。今回の選挙は与党が議席をどれだけ減らすのかは注目されても、野党がどれだけ議席を増やすかはほとんど注目されていません。

2012年の年末、民主党政権が崩壊して安倍政権が誕生した頃に、僕はこんな記事を書いたことがあります。

このように振り返ってみると、リベラル左派政権だったはずの民主党政権は、結局リフレ政策に否定的で、消費税増税を進めて、リーマンショック以降の日本経済を衰退させてしまいました。一方で、自民党の中でも右派と言われる安倍氏は、リフレ政策を推進し、消費税増税にも慎重です。
しかし考えてみれば、リフレ政策そのものは需要管理政策ですから、本来はリベラルな政策だと言えるでしょう。アメリカでも、この政策を理論づけたポール・クルーグマン教授は、リベラル派の代表的な学者です。
ところが日本では、リベラルな政策のはずであるリフレ政策や公共事業を右派が推進するという、ねじれた構図になっています。
なぜこうなってしまったかと言うと、日本ではリベラル・左派の経済学に対する無理解があまりにも酷く、その影響を受けていた民主党の議員達が、財務省や日銀の説明をあっさりと受け入れてしまったのでしょう。id:finalventさんが今日のブログで日本のリベラルや知識人を批判していましたが、僕もそれに同感します。


(中略)


一方、右派は中国や韓国の台頭に対する危機感もあって、日本経済の立て直しを本気で考えざるを得なくなり、リフレに好意的になってきたのだと思います。安倍総理自身は前回の政権の頃から、高橋洋一氏を起用するなどリフレに近い立場でしたが、最近はそれが右派に広く広がってきたように思います。
安倍政権のような右派政権は、生活保護などの社会保障削減や、教育政策にトンデモな考え方が入り込む、マンガやアニメなどの表現規制が強まるのではないかという懸念もあるので、一概に歓迎ばかりもできないのですが、ここまでリベラル・左派の経済音痴が酷いと、他に選択肢がなくなってしまいます。
今年の民主党の迷走と崩壊は、そのことをはっきりさせてしまったのだと思います。


2012年を振り返って - Baatarismの溜息通信 2012年を振り返って - Baatarismの溜息通信 2012年を振り返って - Baatarismの溜息通信



ここに書いたように、あのとき日本はリベラル・左派という政治的選択肢を失ってしまったのだと思います。その理由は、リベラル・左派が本来自らのものであるはずのリフレ政策を否定し、安倍政権がリフレ政策を取り入れて、(少なくとも消費税増税までは)景気を回復させてきたことにあると思います。
リベラル・左派の人達がその過ちに気づかない限り、日本がリベラル・左派という政治的選択肢を取り戻すことはないでしょう。
そこに気づかずに安倍批判を繰り返している勢力は、いずれ消費税増税に邪魔な安倍総理を排除しようとする財務省に利用されるだけでしょう。財務省は消費税増税を10%で終わらせるつもりは全くないのですから。

11/24 補足その1

この記事の最後でポール・クルーグマン氏の話を出しましたが、今回の消費税増税延期の判断でも、クルーグマン氏は安倍総理増税延期を助言してます。
本来ならばリベラル派であるクルーグマン氏が、米国のリベラル派からは歴史修正主義者という批判をされている安倍総理に助言するというのは奇妙な話なのですが、日本のリベラル派や左派がクルーグマン氏の声に耳を貸そうとしないために、このようなことになっているのでしょう。
日本の「リベラル」というものが、いかにアメリカのリベラルと異なっているかを示す、良いエピソードだと思います。

11月6日(ブルームバーグ):米国の経済学者でノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏が6日、安倍晋三首相と会談し、2015年10月からの消費税率10%への引き上げを先送りするよう促した。本田悦朗内閣官房参与ブルームバーグ・ニュースの取材に明らかにした。
本田氏によると、クルーグマン氏は予定通りに増税した場合にアベノミクスが失敗する可能性を指摘。これに対し、安倍首相は自分の考えは明言しなかった。会談には本田氏のほか、浜田宏一内閣官房参与も同席した。
首相は7−9月期の国内総生産(GDP)などを見た上で、年内に最終判断する意向。本田氏や自民党山本幸三衆院議員は1年半延期するよう求めている。本田氏によると、クルーグマン氏は安倍首相との会談で、いつまで延期すべきかについては言及しなかった。


クルーグマン氏が安倍首相に消費増税延期を促す−本田内閣官房参与 - Bloomberg クルーグマン氏が安倍首相に消費増税延期を促す−本田内閣官房参与 - Bloomberg クルーグマン氏が安倍首相に消費増税延期を促す−本田内閣官房参与 - Bloomberg

11月21日(ブルームバーグ):ノーベル経済学賞受賞者、ポール・クルーグマン氏の訪日予定を耳にした際、本田悦朗内閣官房参与は、再増税をめぐる議論を慎重派に有利な方向に導く好機が到来したと思った。
安倍晋三首相にとって、消費税率を2015年10月に10%に引き上げることの是非を決断する期限が近づきつつあった。今年4月の8%への引き上げの影響で、日本の景気は四半期ベースとして世界的な金融危機以降で最も深刻 な落ち込みに見舞われ、その後の回復の足取りもおぼつかない状況だった。
安倍首相と30年来の知己である本田氏(59)は、4月の増税反対に続き、15年の増税延期を首相に助言。そこに登場することになったのが、自身のコラムで日本の増税延期が必要な理由を説いていたクルーグマン氏だった。
本田氏は20日、オフィスを構える首相官邸でインタビューに応じ、「あれが安倍総理の決断を決定づけたと思う。クルーグマンクルーグマンでした。すごくパワフルだった。歴史的なミーティングと呼べるものだった」と、首相とクルーグマン氏の会談を振り返った。


クルーグマン氏が決定的役割−安倍首相の増税延期の決断で - Bloomberg クルーグマン氏が決定的役割−安倍首相の増税延期の決断で - Bloomberg クルーグマン氏が決定的役割−安倍首相の増税延期の決断で - Bloomberg


11/24 補足その2

今回の記事で僕が言いたかったことを、より詳しく言っている記事を紹介しておきます。
長谷川幸洋氏は、今回の消費税増税延期と解散総選挙の可能性を最も早く主張したジャーナリストであり、高橋洋一氏は財務省が政治家、エコノミスト、マスコミ、経済学者などに利益供与を行うことで、自らの代弁者としていることを長年主張している学者です。高橋氏は元財務官僚であり、その内側を熟知していることでも知られています。

増税派たちは「解散」で総崩れ 安倍首相が削除表明した「景気条項」とは何か  | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 増税派たちは「解散」で総崩れ 安倍首相が削除表明した「景気条項」とは何か  | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 増税派たちは「解散」で総崩れ 安倍首相が削除表明した「景気条項」とは何か  | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]

衆院解散「大義なし」批判は財務省からのアメを失った増税派の遠吠えにすぎない!   | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 衆院解散「大義なし」批判は財務省からのアメを失った増税派の遠吠えにすぎない!   | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 衆院解散「大義なし」批判は財務省からのアメを失った増税派の遠吠えにすぎない!   | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]


11/30 補足その3

安倍総理自身が「解散の背景に財務省増税多数派工作があった」と発言したそうです。

財務省が善意ではあるが、すごい勢いで対処しているから党内全体がその雰囲気になっていた」。安倍晋三首相は30日のフジテレビ番組で、衆院解散・総選挙を決めた背景に財務省による消費増税の多数派工作があったことを明らかにした。


解散の背景に財務省の増税多数派工作 首相明かす  :日本経済新聞 解散の背景に財務省の増税多数派工作 首相明かす  :日本経済新聞 解散の背景に財務省の増税多数派工作 首相明かす  :日本経済新聞

*1:この時の総理声明の全文が公開されています。「【全文】「総選挙で過半数を得られなければ退陣します」安倍総理が会見 (1/2)

*2:余談ですが、この記事の財務官僚の発言はひどいですね。いかに財務省が甘やかされて増長してきたかがよく分かります。このような財務省には国民が鉄槌を下す必要がありますね。→「社会保障費が膨れ上がる中、消費税率がこんなに低いのは、国民を甘やかすことになる。経済が厳しくても10%に上げるべきだ」

薄氷の上のリフレ政策

10月31日(ブルームバーグ):日本銀行は31日の金融政策決定会合で、追加緩和に踏み切ることを5対4で決めた。長期国債の買い入れを「保有残高が年間約80兆円に相当するペース」に増やすほか、指数連動型上場投資信託ETF)と不動産投資信託J−REIT)の買い入れも「それぞれ年間約3兆円、年間約900億円に相当するペース」に拡大する。
マネタリーベース目標額は「年間約80兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う」として、従来の「年間約60兆−70兆円」から引き上げた。今会合まで長期国債は「保有残高が年間約50兆円に相当するペース」で、ETFJ−REITはそれぞれ年間約1兆円、同約300億円に相当するペースで買い入れを行っていた。
この決定に対し、木内登英審議委員、佐藤健裕審議委員、森本宜久審議委員、石田浩二審議委員が反対票を投じた。エコノミスト32人に対するブルームバーグ・ニュースの事前調査では、3人が追加緩和を予想、29人が現状維持を見込んでいた。
日銀はまた、長期国債買い入れの平均残存年限を7−10年程度とし、最大3年程度延長する。さらにETFの買い入れ対象に新たにJPX日経400連動型ETFを加える。
黒田東彦総裁は28日の参院財政金融委員会で、日本経済は2%の物価目標の達成に向け順調に道筋をたどっていると言明。展望リポートも同様の内容になるとみられていたが、世界経済の減速懸念を背景とした原油価格急落から、2%の早期実現に黄信号が灯っており、日銀の強気な姿勢に対する不信感が高まりつつあった。


日銀会合:追加緩和決定、国債買い入れ年間30兆円追加 - Bloomberg 日銀会合:追加緩和決定、国債買い入れ年間30兆円追加 - Bloomberg 日銀会合:追加緩和決定、国債買い入れ年間30兆円追加 - Bloomberg

31日の東京株式市場は、日銀が追加の金融緩和に踏み切ることを決めたことで買い注文が一気に膨らみ、日経平均株価終値は700円以上値上がりし、およそ7年ぶりの高値となりました。

31日の東京株式市場は、朝の取り引き開始直後からアメリカ経済が着実に回復しているという見方から、買い注文が先行しました。さらに、午後に入って日銀による追加の金融緩和の決定が発表されると同時に、買い注文が一気に膨らむ展開となりました。
日経平均株価は一時、前日と比べて800円以上上昇し、終値は前日と比べて755円56銭高い1万6413円76銭で、平成19年11月以来、およそ7年ぶりの高値となりました。


株価700円超上昇 約7年ぶり高値に NHKニュース 株価700円超上昇 約7年ぶり高値に NHKニュース 株価700円超上昇 約7年ぶり高値に NHKニュース

【ニューヨーク=越前谷知子】31日の米金融市場は、日本銀行が追加の金融緩和に踏み切ったことを受けて、大幅に円安・株高が進んだ。

 ニューヨーク外国為替市場の円相場は一時、1ドル=112円47銭まで下落し、約6年10か月ぶりに1ドル=112円台に値下がりした。

 米連邦準備制度理事会FRB)が量的緩和の終了を29日に決めたばかりで、日米の金融政策の違いが鮮明になっている。米長期金利が上昇し、日米の金利差が拡大することを見込んで、円を売ってドルを買う動きが広がった。

 午後5時(日本時間11月1日午前6時)現在、前日(午後5時)比3円09銭円安・ドル高の1ドル=112円26〜36銭で大方の取引を終えた。

 為替市場について、「年末にかけて1ドル=115円まで下げる場面もある」(米為替ストラテジストのウィン・ティン氏)との見方が出ている。

 一方、ニューヨーク株式市場では、ダウ平均株価(30種)が前日終値比195・10ドル高の1万7390・52ドルと、9月19日以来、約1か月半ぶりにこれまでの最高値を更新して取引を終えた。

 日銀の追加緩和で、余剰資金が供給されることへの期待が米国市場でも高まり、ダウの上げ幅は一時、200ドルを超えた。日本の公的年金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)が、国内外の株式の比率を増やす方針を示したことも、上げ相場を支えた。

 ナスダック店頭市場の総合指数は、64・60ポイント高の4630・74と14年7か月ぶりの高値で取引を終えた。日銀の追加緩和については、「時期、規模ともに想定外。これをきっかけに年末に向けて買い基調が続く」(米アナリストのマット・キング氏)と好感する声が出ている。


日銀緩和受け米で大幅円安、NY株は最高値更新 : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 日銀緩和受け米で大幅円安、NY株は最高値更新 : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 日銀緩和受け米で大幅円安、NY株は最高値更新 : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

31日のヨーロッパの主な株式市場は、日銀が追加の金融緩和を決めたことを受け、株価指数が大きく上昇しているほか、ロンドン外国為替市場では円を売る動きが強まり、およそ6年10か月ぶりの円安ドル高水準で取り引きされています。

31日のヨーロッパの主な株式市場は、日銀が追加の金融緩和を決め、東京市場をはじめアジアの市場で株価が上昇したことを受けて、幅広い銘柄で買い注文が増えています。この結果、各市場の株価指数は、日本時間の午後7時時点で、前の日の終値と比べ、パリ市場でおよそ2%上昇しているほか、フランクフルト市場でおよそ1.6%、ロンドン市場でおよそ1.2%、それぞれ上昇しています。また、31日のロンドン外国為替市場では、日銀の追加緩和を受けて円を売る動きが強まり、円相場はおよそ6年10か月ぶりの円安ドル高水準となる1ドル=111円台半ばまで値下がりしています。


欧州株 日銀追加金融緩和で上昇 NHKニュース 欧州株 日銀追加金融緩和で上昇 NHKニュース 欧州株 日銀追加金融緩和で上昇 NHKニュース



昨日10月31日、日銀は新たな金融緩和を決定しました。この金融緩和により日本のみならず欧米でも株価が上昇し、円ドル相場でも1ドル111〜112円台の円安になっています。
今回の追加緩和は誰もが予想していなかったサプライズであり、株式市場の動きを見ると、世界中が驚きとともに歓迎していると言って良いでしょう。
しかし、金融政策決定会合で採決する政策委員の賛否は5対4であり、中央銀行の採決としてはまれに見る僅差の採決でした。日銀執行部は辛うじてこの追加緩和を成立させたことになります。


今年4月の8%への消費税増税以降、景気は一向に回復せず、もはや景気が落ち込んだ原因が消費税増税にあることは明らかと言って良いでしょう。その結果、来年の2%のインフレ目標達成を疑問視する見方も広まっています。
このような状況を回復させるためにも、追加の金融緩和は必要でした。しかしこれまで日銀は動かず、僕も黒田総裁は前任の白川総裁のように「白く」なって*1インフレ目標2%の達成をあきらめてしまったのではないかと疑っていました。黒田総裁が消費税の10%への増税を容認していることも、この疑いに拍車をかけていました。
ただ、今回の採決を見て考えを変えました。黒田総裁は追加緩和の必要性は分かっていたが、決定会合で過半数を取る見込みがなかったため、追加緩和を打ち出せず、現状維持を続けていたのではないでしょうか。

 日銀は31日に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、物価見通しを下方修正した。消費者物価指数(CPI)の上昇率は2014年度1.2%、15年度1.7%と、7月時点の見通しより0.1〜0.2ポイント引き下げた。原油価格の下落が主因だ。14年度の実質成長率見通しも従来の1.0%から0.5%に下げた。

 日銀が半年ごとにまとめる展望リポートでは、正副総裁を含む9人の政策委員見通しの中央値が注目される。消費増税の影響を除く物価見通しが、日銀が目標とする2%にいつ届くかが焦点だ。


物価見通し1.7%に下げ 15年度 日銀展望リポート  :日本経済新聞 物価見通し1.7%に下げ 15年度 日銀展望リポート  :日本経済新聞 物価見通し1.7%に下げ 15年度 日銀展望リポート  :日本経済新聞



今回、決定会合と同時に日銀は「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を出しています。*2それによると、15年度のCPI上昇率の見通しは1.7%と、インフレ目標の2%を下回っています。
このことが明らかになったことで、これを材料にして黒田総裁は他の審議委員を説得し、何とか過半数を取り付けることができたのでしょう。これまで追加緩和が行われなかったのは、そのような材料がなかったのが理由だと思います。
マスコミでは10%の消費税増税決定が行われた後に追加緩和が行われるという観測も流れていましたが、この状況では黒田総裁にそんな取引をしている余裕はないと思います。


おそらく、僕自身も含めたリフレ支持者も、逆にリフレ政策に懐疑的・否定的な人たちも、これほどまでに黒田日銀のリフレ政策が脆弱だとは思っていなかったのではないでしょうか。だから黒田総裁のデフレ脱却への意志を疑ったり、黒田総裁が追加緩和を消費税増税の取引材料にするという見方が出ていたりするのでしょう。*3
ただ、決定会合ではではまだ白川総裁時代に任命された審議委員が多数派で、リフレ政策は彼ら多数派を切り崩しながら行わざるを得ません。言わばリフレ政策は薄氷を踏みながら行われているような状況であり、いつ頓挫してもおかしくない状況です。
この状況を変えるためには、審議委員の交代の際にリフレ政策を支持する人を任命しないといけませんが、審議委員を任命するのは総理大臣であり、国会の同意を得る必要もあります。そのため、(他の面では問題があるにせよ)リフレ政策を推進している安倍政権が続いていかなければ、いずれ黒田日銀のリフレ政策は頓挫し、インフレ目標の達成や維持も困難になっていくでしょう。
今のリフレ政策がこのような脆弱な基盤の上に成り立っているということを改めて認識させたのが、今回の追加緩和だったと思います。

11/30 補足

日銀が25日発表した10月31日の金融政策決定会合の議事要旨では、個人や企業の物価上昇への「期待」を追加緩和で強められるかが争点だったことが明らかになった。追加緩和で物価上昇への期待の再浮揚が可能と見る緩和派に対し、反対派は「期待」が高まる効果より副作用が大きいと主張した。平行線のまま5対4の採決で追加緩和実施が決まったが、黒田東彦総裁ら執行部が押し切った構図だ。


日銀追加緩和、「期待」巡り賛否真っ二つ 決定会合議事要旨  :日本経済新聞 日銀追加緩和、「期待」巡り賛否真っ二つ 決定会合議事要旨  :日本経済新聞 日銀追加緩和、「期待」巡り賛否真っ二つ 決定会合議事要旨  :日本経済新聞



10月31日の金融政策決定会合の議事要旨が公表されました*4が、この時の賛否は「期待」を巡る判断であったようです。インフレ期待(インフレ予想)に金融政策で働きかけることがリフレ政策の基本にある考え方ですから、この時の賛否はリフレ政策の考え方を受け入れた委員と、受け入れない委員の対立であったことになります。現在の日銀における対立軸は、正にリフレか反リフレかであるわけです。

*1:反リフレ政策の「白川」総裁からリフレ政策の「黒田」総裁に代わったため、「白」を反リフレ政策・デフレ容認、「黒」をリフレ政策・デフレ脱却の象徴とする、ジョーク的な表現です。

*2:展望レポートはこちらで公開されています。経済・物価情勢の展望(展望レポート) : 日本銀行 Bank of Japan

*3:例えばこのような意見があります。http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NEB1GW6K50XW01.html

*4:全文(PDFファイル)はこのURLで公開されています。 https://www.boj.or.jp/mopo/mpmsche_minu/minu_2014/g141031.pdf

財務省と安倍政権は消費税を国民に返せ

消費税増税が8%に増税されてから、もう6ヶ月が過ぎました。景気は低迷を続けていて、もはや消費税増税によるものは明らかと言って良いでしょう。
政府や財務省、そしてそれに近いマスコミやエコノミストは、この不景気が天候によるものだとか、駆け込み消費の反動だとか言ってますが、どちらも影響が6ヶ月も続くはずはありません。消費税増税のために景気が落ち込んだことを誤魔化して、今年末に行われる予定の消費税の10%への増税を実現させようとする小賢しい小細工なのは間違いありません。


この消費税増税の影響について、エコノミストの片岡剛士氏が雑誌『Voice』11月号に「“アベノミクス・マーク?”のすすめ」というタイトルで記事を書いています。まだネットでは公開されていない記事ですが、経済学者の田中秀臣氏が簡潔にまとめていたので、紹介します。

 片岡剛士さんの消費増税の影響の検証と今後の日本経済の見通し、そして対策を提起したすぐれた論説。すでに僕とのトークイベントでも本論説の内容と同じものを話されていましたが、活字媒体で読めるのは便利です。ぜひお手にとって一読してください。消費税増税の影響が深刻であり、それが日本経済を再び悪循環に陥らせる可能性が高いことがわかるでしょう。要点を列挙。


1 実質GDP成長率の落込みが厳しい。マイナス7.1%(前期比年率)。特に内需の落込みは、前回の消費税増税リーマンショック直後、東日本大震災のときを大きく上回るマイナス11.4%の惨状である。その主因は民間消費の落込み。もろに消費税の悪影響である。民間在庫が増えているが、それは意図せざる在庫の増加、つまりはケインズ的な図式でおなじみの総需要の急低下を表現している。外需の内容もよくない(詳細は片岡論説参照)。


2 耐久消費財の落込みの深刻さの指摘。実質所得の低下に伴い、消費低迷が長期化することを意味している。低所得者層・子育て世帯に悪影響が深刻。詳細は論説本体と同時に、こちらの動画も参照ください。


3 実質GDP成長率は0%という片岡試算。


4 予想インフレ率が低下基調。インフレ目標の達成のために政府と日本銀行が政策協定(アコード)を結び、よりデフレ脱却にコミット(追加緩和など)。また日本銀行法改正も重要(物価安定と雇用の安定明記)。


5 財政政策は消費税増税延期、各種減税が必要。いまのままだとプライマリーバランスの政府目標は確実にみたされない。トークイベントでは2015年度予算での税収の減少が示唆されていた(増税でむしろ減収! まさに97年の消費税増税以降の経験の繰り返しになる可能性大きい)。


6 「併せて安倍政権としては、社会保障制度改革に本腰を入れることが求められる。拡大する社会保障費の財源を確保するために消費増税を充てることは、消費税増税→景気悪化→景気悪化を抑制するための財政支出の拡大→社会保障費の拡大→消費税増税→景気悪化→財政支出の拡大→… という無限の悪循環を続けながら、消費税や社会保障にかかわる制度上の矛盾を深刻化させることにつながる。こうした流れを断ち切ることが必要だ」。


片岡剛士「“アベノミクス・マーク?”のすすめ」in『Voice』11月号 片岡剛士「“アベノミクス・マーク?”のすすめ」in『Voice』11月号 片岡剛士「“アベノミクス・マーク?”のすすめ」in『Voice』11月号



片岡氏が言うように、消費税増税によって民間消費が落ち込んだことが、景気が大きく落ち込んだことであることは間違いないでしょう。

また、経済学者の高橋洋一氏は、消費や景気が明らかに落ち込んでいることをデータで説明しています。

前年同期比GDPが示す増税の影響

 最後に「1〜6月期のGDPを平均してみるとプラス」。これは慰みにならない。しばしば、マスコミはGDP統計を前期比で見ている。前期比で見た各四半期GDPの伸び率は図1の通りだ。


[http://diamond.jp/mwimgs/f/6/566/img_f6a2ef2612bf1c1c51cdc0a15cb7799115681.jpg:image]


 しかし、これは近視眼的になってしまう。そこで対前年同期比も見たほうがいい(図2)。


[http://diamond.jp/mwimgs/4/e/564/img_4ee5f970c45ade92fbf558b04040823b17030.jpg:image]


 これを見ると、2013年10〜12月期、2014年1〜3月期で2%より上の部分が駆け込み需要増(大体1%程度)、2014年4〜6月期は前年同期比の伸び率が微減となり2%減ったが、そのうち、1%が反動減(これは駆け込み需要増程度と相殺される)、残りの少なくとも1%程度以上が可処分所得減による消費減となる。


 麻生財務相が、1〜6月期を平均してみればたしかにプラスであるが、それでも、それ以前の巡航速度の2%よりは下回っている。それが可処分所得減による消費減となるわけだ。この部分は、消費増税がなければ避けられていた部分だ。

 以上のことは、8月の家計調査、住宅着工、鉱工業指数(これらはいずれも9月30日公表)、7月の機械受注(9月10日公表)を見ればいえる。この後に、参考のために、各種統計をアップデートした図3を掲げておく。図は少ない(新聞記者が苦手!)日本の新聞ではなかなか見られず、ウェブの本コラムの利点だろう。


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在庫は景気循環の終わりを示唆

 最後に在庫循環分析をしよう。内閣府では従来から景気分析に使われてきたものだ。
 在庫循環の典型的なパターンとしては、景気回復の初期には、まず出荷の増加に伴ってそれまで積み上がっていた製品在庫が減少に転じる。次に、在庫調整が進展して在庫が適正水準に近づくと生産の増加テンポが速まって在庫の減少が止まる。さらに、景気が成熟化して出荷の増勢が鈍化すると在庫が増加に転じる。最後は、景気後退局面で、出荷が減少する中で、在庫が積み上がっていく。
 これの様子を、横軸−在庫、縦軸−出荷とする図の中で描くと、時計回りのような動きになる。実際のデータを当てはめたものが図4のグラフだ。


[http://diamond.jp/mwimgs/6/4/568/img_64c33d18ffcc01307a63607e3dae990e23092.jpg:image]


 ぐるっと一周すると危険領域なのだが、8月のデータでついにほぼ一周になってしまった。これは景気循環の終わりを示唆している。本来であれば、今国会は景気対策が必要だ。しかし、今のところ、政府は補正予算を頭にないという。これでいいのだろうか。


やはり景気はよくない ツッコミどころ満載の麻生財務大臣発言|高橋洋一の俗論を撃つ!|ダイヤモンド・オンライン やはり景気はよくない ツッコミどころ満載の麻生財務大臣発言|高橋洋一の俗論を撃つ!|ダイヤモンド・オンライン やはり景気はよくない ツッコミどころ満載の麻生財務大臣発言|高橋洋一の俗論を撃つ!|ダイヤモンド・オンライン



この中でも、最後の在庫分析のデータが僕には衝撃でした。安倍政権発足と黒田日銀誕生によるインフレ期待で改善した景気が、消費税増税によって引きずり下ろされて、元に戻ってしまったことを示しているデータです。


このような景気の現状を肌で感じているのか、世論調査でも消費税増税反対が7割を超えています。

 本社加盟の日本世論調査会が九月二十七、二十八日に実施した全国面接世論調査で、来年十月に予定されている消費税率10%への再増税に反対する人が72%に上り、賛成の25%を大きく上回ったことが分かった。安倍晋三首相は予定通り再増税するかどうかをことし十二月に決めるが、景気に配慮して判断時期を先送りするよう求める声も出ている。
 四月に税率が8%に上がった後、家計のやりくりが厳しくなったと感じている人は「ある程度感じている」を含めて82%に達した。財政再建の必要性に一定の理解を示す意見もあるが、再増税でさらに負担が増すことへの懸念が強い。
 税率8%への増税が決まる直前の昨年九月に実施した共同通信社の電話世論調査では、賛否がほぼ並んでいた。これと比べて再増税への反対論は広がっており、消費低迷も続く中、首相は難しい判断を迫られている。


東京新聞:消費税再増税反対72% 「12月の判断先送りを」:経済(TOKYO Web) 東京新聞:消費税再増税反対72% 「12月の判断先送りを」:経済(TOKYO Web) 東京新聞:消費税再増税反対72% 「12月の判断先送りを」:経済(TOKYO Web)



また、昨年の8%増税の時は賛成が多かった有識者*1でも、この1年で賛成派が大きく減少しています。

今日の日経新聞朝刊に、「消費税、予定通り10%」が6割 有識者アンケート と題した記事が載っています。消費税が8%に増税された4月以後、多数の経済指標が大幅悪化していますが、これは字句通りに受け取って良いのでしょうか。


アンケートの対象は、昨年8月に政府が主催した消費税増税集中点検会合のメンバー60名です。

昨年の集中点検会合では、8%への消費税増税について、メンバー中賛成が44名、条件付き賛成が5名、反対が10名、意見保留が1名でした。(図表1)

これに対し、今回の日経新聞が実施した同じメンバーへのアンケートでは、賛成が26名、どちらとも言えないが8名、反対が9名、未回答が17名です。 (図表2) 

有識者の意見も昨年8月からかなり変化した


図表1(上)昨年8月集中点検会合でのアンケート結果
図表2(下)今回の日経新聞によるアンケート結果
アンケート先は内閣府のこちらに記載。


一見しただけでも、昨年8月の集中点検会合から意見が変わった人々が少なからずいることが見て取れます。


消費税増税有識者アンケートにみる有識者らの姿 - シェイブテイル日記 消費税増税有識者アンケートにみる有識者らの姿 - シェイブテイル日記 消費税増税有識者アンケートにみる有識者らの姿 - シェイブテイル日記



さらに、アメリカのルー米財務長官からも消費税増税に懸念を示す声明が出ています。*2これまで財務省は「消費税増税国際公約」などと言ってましたが、この説明も嘘だったことはこれで明らかでしょう。

ルー米財務長官は10日、国際通貨基金IMF)の諮問機関である国際通貨金融委員会IMFC)が開かれるのを前に声明を発表した。
 日本経済については「今年と来年は弱い状態が続く」と指摘し、「財政再建のペースを慎重に調整し、成長を促す構造改革を実行する必要がある」と主張した。
 来年10月の消費税率10%への引き上げに対し、慎重に検討するよう、日本に求めたものとみられる。


財政再建ペース、日本は慎重調整を…米財務長官 : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 財政再建ペース、日本は慎重調整を…米財務長官 : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 財政再建ペース、日本は慎重調整を…米財務長官 : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)



このように、様々なところから消費税増税に対する反対や懸念の声が出ています。


消費税の8%増税だけでもこの惨状なのですから、10%に増税したら日本は再び長期不況に戻ってしまうでしょう。安倍政権は橋本政権と同じように退陣に追い込まれ、その後には自民党だろうが民主党だろうが財務省が支持する政権しか出てこないでしょう。そのような状況では消費税は15%、20%と果てしなく上がり続け、日本経済と国民生活が崩壊する中で、財務省の「歳出権」だけが強化され、財務省に尻尾を振る政治家や企業ばかりが栄える世の中になってしまうと思います。


それを避けるためには、消費税の10%増税を延期するだけではなく、最初の片岡氏の記事にあるように、各種減税や給付金などで消費税増税分を「国民に返す」政策が必要だと思います。本当は消費税を5%に戻すのが最善ですが、それが無理ならば減税や給付金で増税分を国民の手に戻し、可処分所得を元に戻す必要があります。
トリクルダウンの効果に疑問がある法人税減税や、建設業界の供給不足で十分に執行できていない公共事業では、消費税増税を相殺することはできないでしょう。消費税増税の相殺は、減税や給付金で消費税増税分を国民の手に返すことによって、始めて実現できるのだと思います。それこそが本当の景気対策でしょう。
しかし、このような政策は、消費税増税によって増えた財務省の「歳出権」を帳消しにするものですから、財務省は手下の政治家やマスコミ、エコノミストを使って妨害してくるでしょう。安倍政権が財務省と対決する覚悟をしない限り、実現できない政策だと思います。

*1:元々は消費税増税を正当化するために、財務省が賛成派の比率を多くしたメンバーです。

*2:この声明については、ニャントロ大魔神 @さんが原文と翻訳をツイートしています。「ルー米国財務長官、ついに日本のマクロ経済運営に物申す!!の巻 - Togetter

やはり消費を激減させていた消費税増税

消費税増税直前に思うこと - Baatarismの溜息通信 消費税増税直前に思うこと - Baatarismの溜息通信 消費税増税直前に思うこと - Baatarismの溜息通信



消費税増税前にも、僕はそれを懸念する記事を書きましたが、やはりその懸念は当たっていたようです。

株式市場・労働市場が比較的堅調であることから忘れられがちだけど...消費の現場に近い人ほど6月に入って景気に急速に暗雲が立ちこめてきていると言う.今月の家計調査を見るとかなり心配な結果になっているみたい.
 そこで,ちょっと前回の増税と今回の増税の違いをまとめてみた.


まずはデータから


 ここでは家計調査の家計消費水準指数を使おう.ニュースなどで見る家計支出額等だと世帯人員数や物価の変化が混在しているので(それでも以下の傾向はほぼまんま維持される),これらの調整を行った指数値の方が実態を反映していると考えるからだ.
 増税の半年前から増税後1年間の消費動向を見ると...





となっており,今次の増税の影響は過去の比を見ないものだとわかるだろう.ここまで極端な下振れを想定内だという論理が僕には分からない.


(中略)


これまでの消費増税と今回の消費増税は全然違う


 なぜこんなにも今次の増税の影響は大きいのだろう.一昨年来,それこそ政権交代前から繰り返してきたとおり,89年増税の際は物品税の廃止や所得・資産課税減税でマクロではむしろ減税が行われている.97年増税も同時に所得・住民税減税が行われ,これに社会保障給付の増大を含めると増税分と減収分はほぼ同じ.
 これに対して,今回の増税は純然たる増税! その影響は当然大きく異なる.経済学好き向けに言うと,これまでの消費増税は代替効果だけ.今回はそれに(負の)所得効果が乗っているんだ.増税の影響を前回と同じ程度にとどめるためには,デフレ脱却が達成され,一般世帯の所得上昇が明確になってからでないといけなかったはず...
 今年4月の消費増税は現時点でのデータからは失敗だとしか判断できない.7月に消費動向の急激な回復がおきる可能性は否定できないが,その可能性は薄いだろう.


消費増税後の消費動向 / 2014-06-28 - こら!たまには研究しろ!! 消費増税後の消費動向 / 2014-06-28 - こら!たまには研究しろ!! 消費増税後の消費動向 / 2014-06-28 - こら!たまには研究しろ!!


総務省が27日に発表した5月の家計調査で、ちょっとびっくりするような数字が出た。

マスコミ報道では、「1世帯当たりの消費支出(2人以上世帯)は27万1411円で、物価変動を除いた実質で前年同月比8.0%減った。減少幅は4月の4.6%から拡大した」「家計調査の実質消費は、東日本大震災があった2011年3月(8.2%減)以来の落ち込みだった」と書かれている。

ちょっと長めのデータを見てみよう。それには、家計調査にある「消費水準指数」がいい。これは、1世帯当たりの実質消費と似ているが、消費支出から世帯規模(人員)、1か月の日数及び物価水準の変動の影響を取り除いて計算した指数で、家計消費の面から世帯の生活水準をより的確に把握することができるものだ。

5月の消費水準指数の対前年同月比は▲7.8%と、たしかに東日本大震災があった2011年3月の▲8.1%以来の落ち込みなのだが、下図からわかるように、最近33年間における最悪が2011年3月なので、なんと2番目に悪い数字なのだ。

駆け込み需要の反動減が出るのはわかっていたので、4月の▲4.5%には驚かなかった。しかし、5月が4月よりこれほど悪くなるとは、驚いたわけだ。

まあ、3月が7.4%と過去33年間で最も高かったから、その反動減で悪くなったと説明できればいいのだが、以下に述べるように、そうは問屋が卸さない。


(中略)


政府は、この数字でもまだ楽観的だ。

甘利明経済財政・再生相は27日の閣議後の記者会見で「基調としては消費も回復に向かっていると判断していい」と発言している。事務方は、もう少し数字をきちんと説明したほうがいい。総務省も「想定の範囲内の動き」というが、何を想定していたのか、前に明らかにしていないので、なんとでも言える。このような言い方の時は危ないと思ったほうがいい。

まず、消費税増税の影響であるのは間違いないので、前の増税時と比べてみよう。以下の図は、筆者が講演などで消費税の影響を説明するときに使うものだ。増税は過去2回、1989年増税(創設時、つまり0%→3%の増税)、1997年増税(3%→5%)なので、その前後1年で経済指標の推移を書いたものだ。数字はGDPや消費などの前年同期比を取っているが、本コラムでは消費水準指数の前年同月比とする。


[http://gendai.ismedia.jp/mwimgs/b/9/550/img_b9d56142d933a96749ecaa8a1a3e7d3793335.jpg:image]


1989年と1997年を見ると、それぞれ4月の増税後6か月ぐらいは似たような景気動向で、消費税増税の影響はあまり現れていない。しかし、6か月を過ぎるあたりから両者の景気動向に差がつき始める。1年後になると、89年増税時と97年増税時では大きな差がついた。

この理由はまず、89年は景気が良かったこと、97年はそれほどでもなかったことだ。消費税以外の税では、89年は減税もあったこと、97年ではならしてみると、増税減税ニュートラルだったことなどで、89年は消費税増税の影響は97年より少なかった。

それが今回は、図からわかるように、増税後の2か月で89年と97年を大きく下回っているのだ。2か月だけみると、今回の下げは異常に大きい。


過去33年でワースト2!消費税増税がもたらした急激な消費落ち込みに政府は手を打てるか 過去33年でワースト2!消費税増税がもたらした急激な消費落ち込みに政府は手を打てるか 過去33年でワースト2!消費税増税がもたらした急激な消費落ち込みに政府は手を打てるか



このように飯田泰之氏も高橋洋一氏も、今回の消費税増税による消費の減少は、1997年の消費税増税以上に悪いものだという意見です。その原因についても、1997年の時は所得・住民税減税や給付の増大があったのに対し、今回はそれがない純然たる増税であることで一致しています。

この消費減少は、ある程度のタイムラグを置いて経済成長率や雇用にも影響を及ぼすでしょう。昨年の金融緩和やインフレターゲット導入によって実現したアベノミクス好況も、消費税増税によって大きなダメージを受けることは確実だと思います。
これを避けるためには、年末に決定する予定の消費税10%への増税を見送るだけではなく、1997年のような所得・住民税減税や給付金の支給で、8%への増税を相殺することも必要でしょう。しかし、安倍政権は法人税減税には積極的ですが、消費税増税による消費減少を食い止めるための所得・住民税減税、給付金支給については発言すらしていません。
このままではアベノミクスは大きな危機を迎えるでしょう。すでに集団的自衛権の問題で安倍政権の支持率は下がっていますが*1、経済政策が失敗すれば、安倍政権の支持率は底抜けしかねません。


やはり安倍総理は、財務省の歳出権を確保するための消費税増税には応じてはいけないのだと思います。そのために自民党内の親財務省派と対決する必要があるならば、衆院解散してでも彼らを押さえつけるべきでしょう。そこまでの覚悟がなければ、財務省が悲願としている消費税増税を撤回することなどできないと思います。

*1:ただ、僕自身は日本が集団的自衛権を保持することは支持しています。朝鮮半島台湾海峡南シナ海の危機が懸念される状況では、これらの地域で当事国の要請によりアメリカと共に軍事行動するオプションは確保しておくべきだと考えています。

ブラック企業の温床である「サドマネタリズム」と「サドファイナンス」

最近、労働者に長時間労働サービス残業、薄給などを強いている、いわゆる「ブラック企業」の苦境を伝えるニュースが目立ちます。

牛丼チェーン大手「すき家」の店舗が次々と閉店している、などとネットで騒ぎになっている。ツイッターや掲示板には閉店情報と閉店した店舗の写真がアップされていて、店の入り口には「従業員不足に伴い、一時的に閉店させていただきます」などといった張り紙が出ている。
どうやら従業員が2014年2月下旬以降に大量に辞めたことが原因のようで、掲示板「2ちゃんねる」のすき家クルー(従業員)専用スレには従業員と思われる人たちの「みんな辞めるなら俺も辞めたい」「まじで同時退職しようぜ」といった呼びかけが出ていた。


すき家の春の閉店祭り始まったぞw」「閉店理由がシュール」などとネットが騒がしくなったのは14年3月中旬から。ツイッターや掲示板で閉店店舗の写真が次々にアップされていった。この閉店はゼンショーの業績悪化のためとか不採算店舗、ということではないらしい。入口の張り紙には「機器のメンテナンスのため」「リニューアルのため」などと書かれていて「一時的な閉店」を強調している。特に目立っていたのが「従業員不足」という張り紙だった。
実は、14年2月下旬からネットの掲示板などに「忙しすぎてやってられない」「もう辞めたい」などといった従業員と思われる人たちの書き込みが増えていった。その理由は14年2月14日から始めた「牛すき鍋定食」といった鍋メニューの販売で、このメニューを提供するのに時間と手間がかかりすぎる、というもの。ただでさえ他の牛丼チェーンに比べメニューの多い「すき家」だから、厨房が回らなくなっているというものだ。
掲示板「2ちゃんねる」には従業員専用のスレが立っていて、一人でオペレーションする店が多すぎる、とか、深夜帯は仕事が多すぎて処理できないことがある、人手不足が深刻で当日欠勤はまず不可能、強盗が一番入りやすい店、などの問題点が書き込まれている。そうした厳しい環境なのに手間のかかる鍋メニューが加わったとして、経営者や商品開発担当に対する批判が噴出した。


牛丼「すき家」店舗が次々と『人手不足閉店』 新メニュー「鍋定食」に従業員が憤慨? ネットに「やってられん!」の声 : J-CASTニュース 牛丼「すき家」店舗が次々と『人手不足閉店』 新メニュー「鍋定食」に従業員が憤慨? ネットに「やってられん!」の声 : J-CASTニュース 牛丼「すき家」店舗が次々と『人手不足閉店』 新メニュー「鍋定食」に従業員が憤慨? ネットに「やってられん!」の声 : J-CASTニュース

 牛丼チェーン大手「すき家」が人手不足で苦しんでいる。店舗リニューアルのために3月中旬から一時閉店させていた100店以上が、店舗従業員などが集まらず開店できずにいることが、28日までに分かった。

 すき家を運営するゼンショー広報部によると、3月中旬から改装のため167店舗を随時閉店。4月下旬までにそれぞれ開店を目指していた。しかし、現在まで開店できたのは数店舗で、百数十店舗が閉店したままだ。担当者は、「5月中に開けられる店舗を調整しているところですが、5月末までに開けられない店舗も出てきそう」と話す。

 リニューアルするにあたり、強盗などに狙われやすい深夜に1人で営業する「ワンオペレーション」を解消しようと人員を増やす方向で募集をかけているが、希望者が思うように集まっていないという。担当者は、「例年、4月は求人に対して希望者が増えるのですが、今年は想定を下回っています。新卒(採用)の応募者も減っていますし」と頭を抱える。


すき屋 人手不足で新装開店できない - 社会ニュース : nikkansports.com すき屋 人手不足で新装開店できない - 社会ニュース : nikkansports.com すき屋 人手不足で新装開店できない - 社会ニュース : nikkansports.com

 ワタミ桑原豊社長は8日、決算発表の記者会見で、ことし4月に入社した新卒社員は120人で目標の半分にとどまったことを明らかにした。桑原社長は「深刻な人手不足という外的環境の変化があった。われわれの成長戦略が曲がり角に来ている」と語った。

 ワタミでは長時間労働の問題が指摘されており、採用が苦戦した一因になった可能性もある。

 ワタミが設置した有識者による業務改革検討委員会は「所定労働時間を超える長時間労働が慢性化している」と指摘した報告書をまとめた。正社員やアルバイトの確保も難しくなっており、桑原社長は「労働環境の改善を最優先で進める」と述べた。

 今後の改善策は、2014年度中に60店舗を閉鎖し、従業員を他の店に振り分けて、1店舗当たりの従業員数を増やす。営業前などに実施している会議の時間は、これまでの年間約250時間から80時間程度に減らし、拘束時間を短くするという。

 また、人手不足を解消するため、転勤がない地域限定社員として6月以降、アルバイトからの登用などで100人を確保する計画も明らかにした。


ワタミ新卒社員、目標の半分 : 社会 : スポーツ報知 ワタミ新卒社員、目標の半分 : 社会 : スポーツ報知 ワタミ新卒社員、目標の半分 : 社会 : スポーツ報知



このように「すき家」を運営するゼンショーや、ワタミなど、代表的なブラック企業と言われていたところが、相次いで人手不足に陥っており、店舗を維持できない状況に追い込まれています。
また、同じようにブラック企業との噂があったユニクロファーストリテイリング)は、従業員の正社員化を進める方針を打ち出し、人材確保のための待遇改善を目指しているようです。

 国内のユニクロ店舗に務めるパートタイマー、アルバイト約1万6000人を正社員として雇用する――。

 カジュアル衣料チェーン「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが現在、人事施策を大転換させていることが明らかになった。ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏が、本誌取材班のインタビューで打ち明けた。

 国内約850のユニクロ店舗では現在、約3万人のパートタイマーやアルバイトが勤務している。このうち、学生アルバイトなどのごく短期に務める従業員を除く、約1万6000人を正社員に転換する計画だ。

 これまでにも同社には、アルバイトやパートタイマーを正規社員として登用する仕組みはあった。かつて「パートタイマー5000人を正社員化」とぶち上げたこともある。だが従来の仕組みでは、正社員に転換した場合、フルタイムで勤務することが求められた。

 しかし今回の取り組みでは、子育てや介護といった多様な事情で、不規則な勤務時間でしか働けないような従業員に対しても正社員化の門戸を開き、多様な働き方を認めたままで待遇を正社員化する。既に今年3月初旬から正社員化に向けてパートタイマーやアルバイトの面談を始めており、今後2〜3年の間に移行を進めていく。


【特報】ユニクロ、パートとアルバイト1万6000人を正社員化:日経ビジネスオンライン 【特報】ユニクロ、パートとアルバイト1万6000人を正社員化:日経ビジネスオンライン 【特報】ユニクロ、パートとアルバイト1万6000人を正社員化:日経ビジネスオンライン



これらの記事にはなぜこのような動きが起こっているかという解説がないですが、これは明らかに安倍政権誕生や黒田日銀執行部発足以降のリフレ政策によって景気が回復し、雇用状況を改善させた結果でしょう。
高橋洋一氏がこの状況をまとめた記事を書いています。

 牛丼チェーンのすき家や居酒屋のワタミが人手不足のため一部閉店したり、ユニクロが従業員の正社員化を進めるなど、デフレ下で成長した企業で人手不足の影響が出たり、人材確保を急ぐケースが相次いでいる。

 人手不足によって生じる時給の上昇や正社員化は多くの人に良いことのはずであるが、一部メディアでは「企業が悲鳴」という形で報道されている。それらの報道では、人手不足や時給上昇の原因といえる「金融政策による景気回復」についてはほとんど触れないのも奇妙である。

 デフレ下では、モノの価格が低下していくので、名目賃金などのコストを低下させられる企業が相対的に強くなる。その場合、正規社員は賃下げをやりにくいので、非正規社員が多いほうが対応が容易だ。名目賃金のコスト低下を過度にやると、「ブラック企業」というありがたくない称号をもらうこともある。

 一方、マイルド(ゆるやかな)インフレ下では、コストの調整はそれほど難しくない。名目賃金を低下させる必要はなく、上げ幅の調整が中心となる。そして動かしにくい固定賃金ではなく、ボーナスや残業代などで柔軟に対応できるからだ。

 マイルドインフレ下で有利な企業は、正規社員が多く、社員のスキルを長期的に活用できるところだ。業績のアップは、ボーナスや残業代によって労働者にすぐ還元される。こうした現象は、かつての日本の高度成長期では当たり前の姿だった。それと全く同じことはありえないが、似たようなものだ。

 インフレ率2%になるまで、日銀は金融緩和を続けるというのであるから、人手不足は多くの業界にまで広がるはずだ。ただ、雇用は、景気に対して遅行する指標であるので、幅広い業界で人手不足を実感できるまでには少なくともあと1年を要するだろう。


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ブラック企業と呼ばれる企業は、コストダウンを進めることでデフレに適応してきた企業です。特に外食や小売りといった業種では、人件費をカットすることでコストダウンを進める企業が、デフレ下で有利に競争を進めることができました。ゼンショーすき家)、ワタミファーストリテイリングユニクロ)などは、その代表と言って良いでしょう。
しかし、そのような企業はあまりにデフレに適応していたため、リフレ政策によってデフレ脱却が確実になると、生存の基盤を失います。今、すき家ワタミに起こっているのはまさにその状況でしょう。またブランド力のあるユニクロは、まだ余力のあるうちにいち早くインフレに適応しようとして、正社員化を進めているのでしょう。
このように、ブラック企業がはびこる温床となっていたのはデフレであり、そのデフレをもたらしていたのは、白川執行部までのかつての日銀でした。かつての日銀こそが「ブラック企業の元凶」だったと言っても良いでしょう。


さて、最近、ポール・クルーグマン氏が、デフレを招いたスウェーデン中銀の金融政策を「サドマネタリズム」と批判し、それに対してスウェーデン中銀は「日本とは違う」と反論しているそうです。

サドマネタリズム


スウェーデンがデフレにはまり込んだ件からは,よそ者のぼくらにも関連する教訓がいくつか得られる.

第一に,サドマネタリズムの力を実物で見せてくれてる.サドマネタリズムってのは,多くの金融当局が金利を上げたがってる欲求のことだ.上げる理由? なぜなら――エエからとにかく上げるんじゃい.2010年,スウェーデンの失業率はきわめて高くて,インフレ率は低かった〔参考〕.基本的なマクロ経済学でいけば,「いまは金利を上げるようなときじゃない」ってなったはずだ.ところが,スウェーデン国立銀行は先走って金利を上げた.なんで?

いま当局が言うには,金融の安定のためだったとか,高すぎる住宅価格と借り入れの恐れがあったためだったとかだそうだ.でも,当時言われてたのは,それとちがってたじゃんよ! スウェーデン国立銀行総裁ステファン・イングベスは,2010年12月に同銀行のウェブサイトでオンラインチャットをやった.そこで彼はこう発言してる――金利を上げるのは,インフレの問題なんだって:「金利をいま上げなかったら,この先,高すぎるインフレが生じるリスクを冒すことになります.それは,経済にとっていいことではありません.我々の最重要課題は,インフレ率2パーセント目標を達成することにあります」

奇妙な言い分だ.インフレ率が目標を下回りはじめたときにも,スウェーデン国立銀行金利を上げ続けて,その後,正当化を金融の安定に切り替えた.


ポール・クルーグマン「スウェーデン国立銀行のおかげでスウェーデンは罠にはまった」 ― 経済学101 ポール・クルーグマン「スウェーデン国立銀行のおかげでスウェーデンは罠にはまった」 ― 経済学101 ポール・クルーグマン「スウェーデン国立銀行のおかげでスウェーデンは罠にはまった」 ― 経済学101

  4月24日(ブルームバーグ):スウェーデン人はポール・クルーグマン氏にノーベル経済学賞を授与したことを悔やんでいるかもしれない。きっかけは、プリンストン大学教授(経済学)で、米紙ニューヨーク・タイムズのコラムニストでもあるクルーグマン氏の21日付のコラム記事。
クルーグマン氏はその中で、スウェーデン中央銀行による2010年と11年の利上げが、日本経済をまひさせたようなデフレ・スパイラルを招いたと批判。低インフレ、高失業率の中でも低金利や金融緩和を直感的に嫌悪するものだとして、同中銀の金融政策運営を「サドマネタリズム」と断じた。
これにかみついたのがスウェーデン中銀当局者だ。セシリア・スキングスレー副総裁は23日、同国南部ハルムスタッドでクルーグマン氏の指摘について、「日本との比較には驚いた」と述べるとともに、「日本とは類似点よりも相違点の方がずっと大きい」と反論した。


クルーグマン氏にかみつくスウェーデン中銀-「日本とは違う」 - Bloomberg クルーグマン氏にかみつくスウェーデン中銀-「日本とは違う」 - Bloomberg クルーグマン氏にかみつくスウェーデン中銀-「日本とは違う」 - Bloomberg


このように対立している両者ですが、かつての(白川執行部までの)日銀の金融政策が「サドマネタリズム」であるということについては、共通の了解が得られているようです。日本で言われている「シバキ主義」と同様の意味なのでしょう。
先に述べたブラック企業の行動は、従業員に対する嗜虐(サディズム)とも解釈できますから、その元凶であるかつての日銀を「サドマネタリズム」と呼ぶことも、間違いでないと思います。デフレの間は、従業員をシバく企業ほど、競争を優位に進めることができた訳ですから。


ただ、ここでブラック企業の隆盛が終わったと判断するのは、まだ甘いと思います。なぜなら「サドマネタリズム」であったかつての日銀には、増税で国民をシバく財務省という、いわば「サドファイナンス」とも呼ぶべき協力者がいたからです。その財務省財政再建社会保障を名目にしながら、自らの「歳出権」を確保するための消費税増税を強行しました。

 ではなぜ、財務省増税を指向するのか。それは、予算での「歳出権」の最大化を求めているからだ。予算上、増税は歳入を増やし結果として歳出を増やす。さらに、歳入は見積もりであるが、歳出権は国会の議決で決めるのが重要だ。実際の税収が予算を下回ったとしても、国債発行額が増えるだけで、歳出権が減ることはない。この歳出権は各省に配分されるが、それが大きければ大きいほど財務省の権益は大きくなる。このため、財務省が歳出権の最大化を求めるのは官僚機構として当然となる。


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まだ消費税増税後の経済指標は出ていませんが、もし消費税増税で景気が悪化するようだと、最初に述べたような人手不足によるブラック企業の苦境も消えてしまうでしょう。そしてまたブラック企業がはびこり、若者や女性などの非正規労働者が苦しむ社会に逆戻りするでしょう。
また、日銀法を改正してインフレターゲットを義務づけない限り、今後の日銀執行部がまた「サドマネタリズム」に逆戻りしてしまう可能性も大きいでしょう。
このような「サドマネタリズム」や「サドファイナンス」を阻止して、ブラック企業がはびこらないようにするために、これからも日銀や財務省を監視し、警戒していく必要があるでしょう。そしてそのような状況に逆戻りするようならば、その元凶である日銀や財務省を批判していかなけばなりません。

画期的なビットコイン採掘法が発表される

4月1日、米ゴールドラッシュ大学のリーバイス教授は、ビットコインの「採掘」を飛躍的に効率化する新たなアルゴリズムを開発したと発表した。
このアルゴリズムは、19世紀に金の精錬に技術革新をもたらした青化製錬法にちなんで、「シアン・アルゴリズム」と名付けられている。
ビットコインの「採掘」とは、ビットコインの取引を承認する作業であり、ブロックチェーンと呼ばれるビットコインの取引記録に新たな取引のブロックを繋げて追加していく作業である。ブロックを取引記録の末尾に正しくつなぐためには、繋ぐためのキーとなる値を見つけないといけないが、そのためにはランダムな値に対してハッシュ関数を何度も計算して、偶然キーとなる値が得られるまで繰り返すしかなかった。
今回のアルゴリズムは、このキーを探索する過程を効率化して、ハッシュ関数計算の回数を大幅に削減するものである。詳細については特許申請中ということで説明されなかったが、すでに単純な繰り返しに比べて100倍以上の効率化が達成されており、今後アルゴリズムの改良によって1万倍の効率化も目処がついているとのことであった。


リーバイス教授はすでにこのアルゴリズムを商業化するための企業を設立しており、今後はこの技術を使ったビットコイン採掘ソフトの販売や、クラウドサービスの提供を行う予定である。
リーバイス教授は「かつてのカリフォルニアのゴールドラッシュでは、金を採掘する人よりも、ジーンズを発明して彼らに売った人の方が、富を築いたと言われている。私もビットコインの採掘人にジーンズを売っていきたい。」と語り、会場の笑いを誘っていた。

このアルゴリズムが実用化されると、従来の方法によるビットコイン採掘者は、新アルゴリズムを導入した採掘者に太刀打ち出来ないのは明らかである。そのためこの発表に対してビットコイン支持者達は反発しており、「リーバイス教授は「シアン・アルゴリズム」をオープンソースとして公開すべきだ」という声が相次いでいる。


画期的なビットコイン採掘法が明らかに - Tired.com


ちょっと疑問に思ったのですが、ビットコインブロックチェーンを繋ぐためのキーの探索は、アルゴリズム次第で効率化可能なのか、それとも効率化は数学的に不可能であると証明されているのか、どちらなんでしょうね?ハッシュ関数を逆計算することはできないようですが。