Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

インフレアレルギーが増税を招く

 ―― 改めて埋蔵金の存在を否定してから増税路線を推し進めようということですよね。


 高橋 財政再建のために増税が必要か否か、というのは、増税の前にやるべきことをいくつ終わらせるかの問題です。私は、政府の特別会計などに貯まっている資産があるのだから、まずそれを検証して財源にする方策を検討した方がいいという立場です。増税派の主張は、埋蔵金はそもそも存在しないのだから議論すべきことの1つではない、まず増税が先だというものです。


 でも、財政再建には、実は、デフレーションから脱却するのが一番簡単なのです。今、日本はインフレーションになっていると皆がすぐに言うのだけど、はっきり言ってインフレになんかなっていませんよ。一部の物価だけが高くなってもインフレとは言いません。インフレになるには総合指数が高くならなければいけないのですが、1%程度ですから、インフレとは到底呼べません。


 こうした状況下では、金融緩和政策が一番良いに決まっています。日本銀行は、ハイパワードマネー日本銀行が直接コントロールできる市中の資金額)を増やし、経済活動を支えなければいけないのです。私が『さらば財務省!』(講談社)にも書いたように、大学入試センター試験にも出るような、実に基本的な政策ですよ。


(中略)
 ―― 今の官には経済成長について危機感を持っている人はいないのでしょうか。オリックス宮内義彦会長が、「最近、日本では成長について議論しなくなった」という趣旨をNBオンラインに述べました。


 高橋 実は僕も不思議でした。中には、もうあきらめに似た境地の人もいる。ある経済学者からは、「日本は9回の裏、ツーアウトだから、あきらめろ」なんて言われたこともある。


 成長しないのが当たり前という認識になっている。私がかつて世界の標準的な名目成長率(4%=実質成長率2%+インフレ率2%)を提示した際に、与謝野馨さんからは「悪魔的インフレ政策だ」と言われました(笑)。名目成長率には、物価上昇が含まれますからね。


 名目成長率2%でも低すぎますよ。自民党の中川(秀直)さんに、日本はOECD経済協力開発機構)加盟30カ国の中で1人当たりの名目 GDP国内総生産)が2位から18位まで下がってあまりにひどいですよって言って、データを見せたのです。そうしたら「えーっ、こんなになっているのか」って、本当に驚いた。2005年は15位、2006年は18位、とどんどん下がっていますから。


 名目GDP成長率が年率5%か6%の国と、頑張っても1%か2%そこそこの国がそのままの状態で10年経ったら、今後ももっと差が開くのは当たり前でしょう。みんな全然ピンときていませんでした。


 世界の状況を見ないで日々を過ごしている人は、日本はまだ底力がある、と信じているでしょう。世の中には、外の世界を見たくない人もいますからね。世界を意識している人なら、普通は今のままではまずいと思う。

増税論議の前に、金融政策の目標:日経ビジネスオンライン



最近は「埋蔵金男」としてすっかり有名になってしまった高橋洋一氏ですが、日本経済の発展や財政再建のために最も必要な政策は金融緩和によるデフレからの脱却であるという主張は、昔からずっと変わっていません。


このような「上げ潮派」の主張に対抗しているのが与謝野馨氏を中心とした「財政再建派(本人達の呼び方)」もしくは「増税派(批判者からの呼び方)」と呼ばれる人たちですが、その与謝野氏の主張はこのようなものです。

インフレ政策は庶民の富を奪う


ならば財政再建の手段は何だろうか。世間では、経済成長を推し進めてその再建を図る「上げ潮派」と、増税してでも事を成そうとする「増税派」の対立がある、といわれている。私は自民党の財政改革研究会の会長を務めており、「増税派」の頭目のように見られている。


しかし、そもそも私は「上げ潮派」だ。増税だけではなく、経済成長もまた財政再建にとって車の両輪、という考えなのである。そもそも経済成長しなければ、財源を確保することはできない。


経済成長だけを唱える人たちの問題点は2つある。まず、彼らは日本の経済成長を高めに見積もりすぎている。われわれは実質で日本の経済成長率を2%くらいに見積もっているが、彼らはおおよそ4%成長が可能だという。ではその2%はどこからくるか、と聞くと、「物価上昇」と答える。いわば小規模なインフレを毎年繰り返すわけである。


しかし、そもそもそのようなインフレ政策を意図的に行なってよいのだろうか。国や企業にとってインフレは都合がよいが、一般の国民にとっては迷惑極まりない。デフレ状況に慣れきっている国民にとって、2%のインフレは生活に劇的な変化をもたらすだろう。


そして、2%のインフレが5年続けば、物価は10%上がる。インフレ政策による増税回避を主張する人は、実質的にはインフレ率を通じた増税を唱えているにすぎない。真面目にコツコツ働いて貯蓄をしている人たちの富を目減りさせ、収奪しようとしているのだ。


さらにいえば「上げ潮派」の人たちは、どうやって名目成長率を上げるのか、という回答を示していない。本質的にいえば、彼らの議論は「いずれ神風が吹く」というレベルにすぎないのである。


そもそも2%の経済成長ですら、日本のように経済が成熟している社会でこれを達成するのは容易ではない。技術革新は必須だし、日本人1人ひとりの人間力の向上も重要だ。通商政策にも手を抜けない。そうやってトータルの絵が描けたうえで、ようやく2%というラインが見えてくる。


愚直だが、なるべく物価上昇をもたらさないかたちで、全力を挙げて実質成長2%を実現する。架空の経済成長率で架空の計算をしても、日本の借金財政は好転しない。先の例でいえば、お父さんの稼ぎで毎月の支出が補えるようにすべきなのだ。80万円の収人があって、初めて80万円の生活ができるのである。


(中略)


「消費税」を「社会保障税」に


結局、「率直にいってお金が足りません。もう少し皆、割り勘で負担してください」というしかない。そもそも国家とは、国民が割り勘でお金を出し合い、必要なことを行なう組織である。それが行き詰まったときは、国民に負担をお願いしなければならない。


自民党財政改革研究会の試算によれば、仮に現状から消費税を5%程度上げれば、2020年代の初頭に債務残高の累増が止まる。いわゆる財政収支の均衡を成すことができる。2011年には基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化が可能になる。


そもそも、増税はひどく選挙に影響するから、それを言い出す政治の側も辛い。財政改革研究会では「消費税」を人件費や事務費等の官の肥大化に充てることなく、国民に対する杜会保障給付のための財源と位置づけ、その趣旨を明確にすべく、名称を「杜会保障税」に改称することを提案した。少しでも、財政に対する国民の理解が進めばよいと思う。ずるずる現状を引きずっていくのは、もはや限界である。


重い病気に罹っているのだから、きちんとした薬を飲み、手術する必要があるのだ。キノコを食べれば治る、お祈りしてもらえばよくなる、という怪しげな民間療法では、寿命を縮めるだけである。私はまだまだ、日本の経済は「一流」だと思う。しかし一流でありつづけるため、いまどのような努力をすべきなのか。その岐路に日木は差し掛かっている。

「消費税10%こそ救国の策」:VOICE 平成20年5月号



この2つの主張を比べると、高橋氏も与謝野氏も、2%の実質成長率を目指すべきだという点では一致しています。そして、高橋氏はそれに2%のインフレ率を加えて4%の名目成長率を目指すべきだという主張何に対して、与謝野氏は2%のインフレ率を「一般の国民にとっては迷惑極まりない」と批判して、実質名目成長率を2%とし、その結果税収が不足するため、消費税を10%に上げることを主張しています。


つまり、2%の小規模なインフレを否定した結果、5%の消費税増税が必要だと言うことになります。


しかし、2%程度のインフレは、日本以外の先進国では一般的に見られる水準ですし、日本においてもデフレ不況に陥る前は当たり前の水準でした。だから「デフレ状況に慣れきっている国民」というのが、世界的に見ても歴史的に見ても異常なのであり、そこから抜け出すことが「一般の国民にとっては迷惑極まりない」と考えるのはおかしいと思います。
また、「一般の国民にとっては迷惑極まりない」とは言っても、2%程度のインフレで困るのはすでに資産を持っている富裕層や高齢者層であり、資産がほとんどなかったり負債を抱えていることが多い貧困層や若年層は、生活に必要な所得が得られる雇用さえあれば、大して困らないでしょう。
そのような雇用を確保するために必要な景気に対しては、2%程度のインフレは現在のデフレに比べて良い影響を与え、5%の消費税増税は悪影響を与えます。
つまり、与謝野氏の主張する政策は富裕層や高齢者層に有利で貧困層や若年層には不利な政策であり、高橋氏の主張する政策は逆に貧困層や若年層には有利で富裕層や高齢者層には不利な政策である、ということになります。そのような政策を「一般の国民にとっては迷惑極まりない」と言うのは、おかしな言い方だと思います。


与謝野氏の主張が「率直にいってお金が足りません。もう少し皆、割り勘で負担してください」という話を、消費税という形で主張しているのであれば、高橋氏の主張は「率直にいってお金が足りません。お金を持っている人はたくさん負担してください」という話を、インフレ税という形で主張していることになります。消費税という逆進的な形で国民負担を求めるのか、インフレ税という資産に比例した形で国民負担を求めるのか、それが与謝野氏のような「増税派」の主張を支持するのか、高橋氏のような「上げ潮派」の主張を支持するのかを判断するポイントになるでしょう。


これは個人的な考えですが、小規模なインフレを「一般の国民にとっては迷惑極まりない」、「悪魔的」などと批判する論拠として、このような一方的な偏った考え方しか提示できず、与謝野氏自身もその偏りに気づかずに納得してしまっているのは、与謝野氏自身が理屈以前にインフレアレルギーになってしまっているせいではないかと疑ってしまいますね。