Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

デフレを議論すれば実体経済が悪化する?

 日銀は29日、昨年12月1日の臨時金融政策決定会合の議事要旨を公表した。それによると、政府が11月20日にデフレ宣言したことなどを踏まえ、「デフレをめぐる議論の広がりが、家計や企業のマインド面に悪影響を及ぼし、実体経済に対する下押し圧力が強まる可能性も懸念される」との指摘があったほか、多くの委員が11月下旬のドバイショックや急激な円高で新たなリスクが生じたとの認識を示した。
 同会合では、固定金利で資金供給する新型オペレーション(公開市場操作)に関して「金融面から景気回復を支援する最も効果的な手段」との見解で一致し、導入を決定。同オペについては「政府の取り組みとも相まって企業・家計のマインド安定効果も期待される」との指摘もあった。


http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2010012900368

委員は、最近の金融市場の動向やそれが実体経済に及ぼす影響について検討を行った。多くの委員は、わが国経済は持ち直しているものの、来年度の半ば頃までは回復ペースが緩やかなものに止まると見込まれる中で、このところの国際金融面の動きや為替市場の不安定な動きが企業マインド等を通じて実体経済活動に悪影響を及ぼすリスクが加わってきているとの認識を示した。ある委員は、最近のデフレを巡る議論の拡がりが、家計や企業のマインド面に悪影響を及ぼし、実体経済に対する下押し圧力が強まる可能性も懸念されると付け加えた。*1

日本銀行 政策委員会 金融政策決定会合 議事要旨 (2009年12月1日開催分)



12/1の臨時金融政策決定会合と言えば、「10兆円を資金供給」とかマスコミで報道された会合でしたが、この会合では、デフレをめぐる議論の広がりが実体経済に悪影響を及ぼすという発言があったそうです。
この議事要旨では発言者は明らかにされていないのですが、以前に須田美矢子審議委員が同様の発言をしていますので、彼女がこの発言を行った可能性が高いと思います。

 須田委員は日銀が新しい資金供給手段を打ち出した背景について「国際金融市場をめぐる問題、為替の問題、それから皆でデフレについて議論することが、家計や企業のマインドに影響を与え、実体経済に影響を与えるリスクが少し出てきた」と指摘。マインドに働き掛けるために「今回決めた政策が最適だと判断した」と語った。


ブルームバーグ - 世界の最新経済情報/金融ニュース – Bloomberg.co.jp



でも、もしこの考え方が正しいのなら、実体経済に最も大きな影響を与えた「議論」は、他ならぬ日銀の「3年連続で物価下落」という見通しになってしまうと思うのですが。w
この手の議論で最も大きな影響力を持っているのは、中央銀行たる日銀ですからねえ。

 日銀は30日の金融政策決定会合で2011年度の見通しを初めて示す「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」をまとめた。11年度の全国消費者物価指数の前年度比上昇率はマイナス0・4%と3年連続で物価下落が続くと予想する一方、国内総生産(GDP)の実質成長率は11年度には2・1%まで回復すると展望した。

http://www.47news.jp/CN/200910/CN2009103001000728.html



もちろん、デフレを巡る議論が家計や企業のマインド、ひいては実体経済に全く影響を与えないとは言えないでしょう。ただ、それよりもはるかに大きな影響を与えるのは、家計ならば所得やその将来の見通し、企業ならば業績やその将来の見通しでしょう。従って、日銀がやるべき事はいかにしてデフレを脱却して景気を回復させ、家計所得や企業業績を改善させるかであって、デフレについて議論することを槍玉にあげることではないでしょう。
また、デフレを脱却するためにはデフレについて議論することが不可欠ですから、その議論を槍玉にあげることはデフレ脱却を妨げ、実体経済に影響を与えるリスクがあるという考え方も成り立つでしょうね。w


さらに、もしデフレを巡る議論が実体経済に大きな影響を与えるのならば、インフレを巡る議論もやはり大きな影響を与えることになります。ということは、もし日銀がインフレターゲットを掲げれば、それだけで家計や企業のマインドは影響を受けてインフレ期待を生み、日本はデフレを脱却するという理屈になってしまいます。*2
もちろんこんな理屈は成り立ちません。インフレターゲットに対する(誤解した)批判の一つに、インフレターゲットを掲げるだけでインフレになるはずがないという意見があります。もちろんインフレターゲットを主張する論者もそんなことは分かっていて、中央銀行インフレターゲットを責任持って実現するために、徹底的な金融緩和をしなければならないと言っているわけですが、今回の発言は、そのような間違った理屈が正しいということになってしまいます。


というわけで、この発言については考えれば考えるほどおかしなことになってくるわけですが、何故日銀はこんな話をわざわざ議事要旨に載せたのでしょうねえ。日銀の批判者やリフレ派でなくても、普通に考えられる人であればこの部分はおかしいとすぐ気づくと思うのですが。こんな発言こそ日銀への信頼を疑わせると思います。

*1:この議事要旨については、id:tanakahidetomiさんが日銀の現状認識の問題点という観点から論じています。こちらも大きな問題ですね。http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20100129#p3

*2:この考え方はid:ryozo18さんのツイートで教えていただきました。ありがとうございます。http://twitter.com/ryozo18/status/8361231289