トンデモ情報から始まった韓国の混乱
今年2月に発足した李明博(イミョンバク)政権が暗礁に乗り上げている。
http://diamond.jp/series/closeup/06_28_001/
そもそもの発端は、後述する米国産牛肉の輸入再開に市民が猛反発したことだが、その抗議行動は1ヵ月以上も続いている。当初は「牛肉輸入反対」「対米再交渉」だったスローガンが、日を追うごとに「李明博政権は退陣せよ」「大統領を弾劾せよ」とエスカレート。大統領の支持率も20%を割り込んだ。 6月10日には、韓昇洙(ハンスンス)首相ら、全閣僚16人が辞意を表明する事態にまでなった。
それでも混乱は収まらない。6月13日には、貨物連帯労組がコンテナなどの運送料30%値上げを要求してストを決行し、物流をまひさせた。このストで、1日にして6億ドルの輸出がストップした。ダンプカーなどの建設機械労組も16日からストに突入。あらゆる労働組合が夏季闘争と李政権の退陣要求の準備を始めている。
韓国経済にも暗雲が立ち込めている。原油価格の急騰と食料や原材料など輸入品の値上がり、さらには通貨安、マネーサプライの増大と相まってインフレに火がついた。4月の消費者物価は前年同月比4.1%、5月は同4.9%のプラスに急騰した。消費者物価指数も109.7、ここ10年で最悪の数字だ。
輸入物価は、ウォン安も手伝って激しい勢いで上昇。実際、5月の原材料輸入価格は、前年同月比83%増となっている。うち、38%はウォン安によるものだ。
政治混乱による投資先送りなどもあって、市中のカネがだぶつき、4月のM2(広義の通貨量)は前年同月比14.9%増えた。
カネは余っても庶民の暮らし向きはよくならない。昨年の自営業者の総所得は82兆ウォンと前年比0.9%増にとどまった。また、全国1700万世帯の家計負債総額は対前年比で10%増え640兆ウォンとなった。
マンションの売れ残りも13万戸を超し建設業者の倒産が続出している。今年第1四半期の企業の機械設備投資も前年同期比2.8%のマイナスに転じた。
経常収支も5ヵ月連続の赤字で累積赤字は68億ドルに達している。今年度の経常赤字が100億ドルに達するとの推定もある。
対外債務の動向も気がかりだ。3月末の債務は4124億ドルと、この3ヵ月で303億ドル増えた。他方、純対外債権は149億ドルしかなく、“純対外債務国”に転落するのは確実である。
韓国の外貨保有高は5月末で2582億ドルあるが、1年以内に償還しなければならない外債残高が2155億ドルと、じつに8割以上に達している。このような数字は、“1997年の通貨危機”の悪夢を彷彿とさせる。
韓国は今、米国産牛肉の輸入問題に揺れていて、全閣僚が辞任するという事態に発展しているわけですが、その原因となったのは、米国産牛肉がBSEに感染しているのではないかという不安です。
ただ、そもそもこの不安は、科学的根拠のないデマによって増幅された側面が大きいようです。
id:uumin3さんのブログで、その経緯が詳しく述べられています。
米国産牛肉輸入問題 - uumin3の日記
ろうそくデモ - uumin3の日記
その経緯を自分なりにまとめると、こんな風になるでしょう。(一部、uumin3さんのブログ以外の情報も入っています)
盧武鉉政権がアメリカとの韓米自由貿易協定(FTA)交渉を妥結。
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李明博大統領が就任。
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李明博政権が米国がFTAの前提条件に掲げていた米国産牛肉の全面開放を決定する。
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韓国MBCが、『PD手帳』「米国産牛肉は果たして安全なのか」を放映。その内容は「韓国人の94%が狂牛病の発病を誘発する遺伝子を持っており、感染する可能性は英国人や米国人の2倍から3倍に達する」という非科学的なものだった。
↓
ネットでBSEに関するデマが飛び交い、それに煽られた中高生が中心となって「ろうそくデモ」が始まる。*1
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「ろうそくデモ」に、李明博政権に反対する左派・野党勢力が加わり、反政府デモへと発展。
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李明博政権への支持率が急降下。米国との再交渉が開始される。
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韓昇洙(ハンスンス)首相ら、全閣僚16人が辞任。
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野党の審議拒否によって国会空転。後任閣僚も決まらず政治空白となる。←今ココ
このように、今回の韓国の混乱は、マスコミやネットで流布された非科学的なデマ情報が若者を煽り、それに便乗した左派・野党勢力が政争にしてしまったと言えるでしょう。
本来、政治的立場がどうであれ、明らかに間違った情報で若者が混乱しているのであれば、それを正すのが大人の行動だと思うのですが、むしろそれを煽って利用するような行動をする勢力がいるのは、やはり問題なのでしょう。
そしてダイヤモンドの記事にあるように、原油高とサブプライム問題を原因とするインフレや経常収支の悪化が進み、通貨危機の可能性すら取りざたされる状況にも関わらず、米牛肉輸入問題で国政が完全にストップしてしまっている有様では、韓国はこの先どうなってしまうのか、不安になってきますね。
6/27追加
「ろうそくデモ」については、今日の日経ビジネスオンラインに詳しい記事が載ってました。
これによると、李明博大統領がデモに対して反対勢力のしわざと決めつけてしまったことが、問題を悪化させてしまった面もあるようです。
この「ろうそくデモ」のノリは、むしろ日本のネットでも時々巻き起こる抗議行動(一例としては、先の北京五輪聖火リレーの時のチベット支持の行動)に似たノリを感じます。
ただ、そのような行動に労働組合や野党がストや審議拒否という形で呼応してるという話も、昨日のダイヤモンドの記事には書かれてますし、デモや集会にも参加しているでしょうから、この運動には、ネットを利用した市民運動という側面と、旧来の左右の対立という側面の、両方があるのでしょうね。ただ、市民運動の方も根本的には非科学的なデマに煽られた運動ですから、やはり評価はできないです。
騒ぎが拡大したのは、某放送局が遺伝子的に韓国民はBSEにかかりやすいという趣旨の発言を紹介し、国民の不安を増長させたこと。それがネットに飛び火、大げさに不安をかきたてた。例えば、BSEはキスによっても感染し、水道水や化粧品でも感染するという流言飛語が飛び交った。これに反応して人々は街に飛び出し、自分の将来や子どもたちの将来のために米産牛肉の輸入に反対すると主張し始めた。
韓国、長期化するろうそく集会のなぜ:日経ビジネスオンライン
ネットの流言飛語を読むと、化粧品からの感染なんてウソっぽいと思いながらもやはり気持ち悪くなる。BSEの特効薬がないかぎり、やはり気持ちは落ち着かない。報道を見ると、確かに「絶対米産牛肉なんて食べられない」と感じさせる。
政府は、今回のろうそく集会のきっかけとなった番組を告訴し、ネットの流言飛語に関しては、「10の流言飛語に関しての反駁」という発表をした。しかし、既に国民の感情は興奮状態になっており、ろうそくの火を消すことはできなかった。
李大統領が政治手腕の未熟さを見せてしまったのは、例えば、このデモは誰か背後勢力がいるだろうとにらんで、そうした輩を逮捕する、とすごんでみせたことだ。しかし、それがかえって、騒ぎを長続きさせる原因になってしまった。高校生や会社員など一般の市民が次々と自首してきたのだ。彼らは誰かに扇動されているわけではなく、自発的に参加している人々で、こうした行動は、政府の対応をあざ笑うものだ。
一般市民がこうした行動に出るのも、今回のろうそく集会がパフォーマンス満載で人々の関心を集めやすいこともある。集会では連日のようにアイドルやスターが誕生している。
モデル並みのスタイル抜群の女性やはっきりと自分の主張をする女子学生、アイドル顔負けの男の子など、ビジュアル系が軒を並べる。もちろんそんな人たちばかりではなく、乳母車を押すママさんたちや会社帰りのサラリーマン、制服を着た中高生など、様々な年代の人たちがいる。
このデモのそばで保守派の「ろうそく反対デモ」が始まった。彼らの顔触れを見ると、60代以上の人たちばかりで、さらに言うことをいったら「おまえら、ろくに勉強もできないやつらがやっと大学入って、揚げ句の果てにデモにしか能がない」といった差別的発言をする。
こうなるとどう見ても、ろうそく集会参加者の発言が支持を集めてしまう。ネットでは、保守派のデモ隊に対して「反対デモの参加者はこれから30年も生きないからどうでもいいのだろうが、これから長く生きる若い我々には重要な問題だ」という趣旨の書き込みもあった。
*1:主なデマの内容については、http://www.chosunonline.com/article/20080506000035が詳しいです