これが真の「日銀砲」
4/4の日銀金融政策決定会合で、黒田総裁は事前の予想を大きく超える規模の「量的・質的金融緩和」の導入を決定し、これにより市場は一気に円安・株高となりました。
「量的・質的金融緩和」の導入について
1.日本銀行は、本日の政策委員会・金融政策決定会合において、以下の決定を行った。
(1)「量的・質的金融緩和」の導入
日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する(注1)。このため、マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大し、長期国債買入れの平均残存期間を2倍以上に延長するなど、量・質ともに次元の違う金融緩和を行う。
○マネタリーベース・コントロールの採用(全員一致)
量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の操作目標を、無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更し、金融市場調節方針を以下のとおりとする。
「マネタリーベースが、年間約60〜70兆円に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。」
○長期国債買入れの拡大と年限長期化(全員一致)
イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から、長期国債の保有残高が年間約50兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。
また、長期国債の買入れ対象を40年債を含む全ゾーンの国債としたうえで、買入れの平均残存期間を、現状の3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に延長する。
○ETF、J−REITの買入れの拡大(全員一致)
資産価格のプレミアムに働きかける観点から、ETFおよびJ−REITの保有残高が、それぞれ年間約1兆円、年間約300億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。
○「量的・質的金融緩和」の継続(賛成8反対1)
「量的・質的金融緩和」は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。
(2)「量的・質的金融緩和」に伴う対応
○資産買入等の基金の廃止
資産買入等の基金は廃止する。「金融調節上の必要から行う国債買入れ」は、既存の残高を含め、上記の長期国債の買入れに吸収する。
○銀行券ルールの一時適用停止
上記の長期国債の買入れは、金融政策目的で行うものであり、財政ファイナンスではない。また、政府は、1月の「共同声明」において、「日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」としている。これらを踏まえ、いわゆ
る「銀行券ルール」6を、「量的・質的金融緩和」の実施に際し、一時停止する。
○市場参加者との対話の強化
上記のような巨額の国債買入れと極めて大規模なマネタリーベースの供給を円滑に行うためには、取引先金融機関の積極的な応札など市場参加者の協力が欠かせない。市場参加者との間で、金融市場調節や市場取引全般に関し、これまで以上に密接な意見交換を行う場を設ける。また、差し当たり、市場の国債の流動性に支障が生じないよう、国債補完供給制度(SLF)の要件を緩和する。
(3)被災地金融機関支援資金供給の延長
被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーションおよび被災地企業等にかかる担保要件の緩和措置を1年延長する。
2.わが国経済は下げ止まっており、持ち直しに向かう動きもみられている。先行きは、堅調な国内需要と海外経済の成長率の高まりを背景に、緩やかな回復経路に復していくと考えられる。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は足もと小幅のマイナスとなっているが、予想物価上昇率の上昇を示唆する指標がみられる。また、ここ数か月、グローバルな投資家のリスク回避姿勢の後退や国内の政策期待によって、金融資本市場の状況は好転している。
日本銀行は、1月の「共同声明」において、「物価安定の目標」の早期実現を明確に約束した。今回決定した「量的・質的金融緩和」は、これを裏打ちする施策として、長めの金利や資産価格などを通じた波及ルートに加え、市場や経済主体の期待を抜本的に転換させる効果が期待できる。これらは、実体経済や金融市場に表れ始めた前向きな動きを後押しするとともに、高まりつつある予想物価上昇率を上昇させ、日本経済を、15年近く続いたデフレからの脱却に導くものと考えている。
2013年4月4日 日本銀行 [量的・質的金融緩和]の導入について k130404a.pdf
なんとまあ、すごい内容です。2年でマネタリーベースを2倍にして、長期国債・ETFの平均残存期間も2倍以上にする、金融市場調節の操作目標もマネタリーベースにする、それを2%の「物価安定の目標」が安定的に持続するまで続け、資産買入等の基金は廃止、銀行券ルールも停止するというという、白川総裁時代の金融政策を完全に否定する内容になっています。これまでリフレ派が主張してきた政策の多くを、黒田総裁は採用しました。執行部以外の6名の審議委員は白川時代からの留任だったのに、よくもここまでの大転換を、ほぼ全員一致で通せたものです。総裁が「白」川から「黒」田に変わったことで、オセロゲームのようだと例える向きもありますが、まさに執行部が変わることで、他の審議委員の意見も完全にひっくり返ってしまいました。
しかも、この内容は日銀が発表するまで、全く報道されませんでした。事前にマスコミが決定内容をリークするのが普通だった白川時代の決定会合とは、情報管理も全く違っています。
また、黒田総裁の質疑応答も分かりやすい内容で、「日銀文学」と揶揄されていたこれまでとは違っています。*1
この決定は市場の予想を大きく超えるサプライズであったのか、株価も為替相場も、4/4から急速に株高、円安になっています。
○日経225
○円ドル相場
○円ユーロ相場
また、長期金利は4/4に約0.1%の大幅な低下をして0.45%まで下がった後、4/5に市場で一時混乱がありましたが、結局金利は元に戻り、0.5%を切る水準まで低下しています。*2
期待インフレ率を示す指標であるブレーク・イーブン・インフレ率も、約1.5%まで上昇しています。
黒田総裁の決定は、まず狙い通りの効果を上げたと言えるでしょう。
この決定について、ロイターは「バズーカ砲」という表現で驚きを表現しています。
[東京 4日 ロイター] 黒田日銀の「バズーカ砲」に市場も驚いた。長期国債やETFの買い入れ額は市場の予想上限さえ上回ったことで、ドル/円は2円以上円安に振れ、約200円安だった日経平均は272円高まで急反転。10年債利回りは史上最低水準を更新した。
政策目標を金利からマネタリーベースの量に変更したことは、ボルカー元FRB(米連邦準備理事会)議長がとったインフレ退治政策以来の衝撃との声もある。
<ECBのLTROに匹敵>黒田総裁就任からちょうど2週間。時間の乏しさや購入可能な資産は限られているとの見方から、今回の決定会合ではサプライズはないと高をくくっていた市場参加者も多かったが、黒田東彦日銀総裁が、就任後初の日銀決定会合で打ち出した金融緩和策は、予想されていた緩和メニューがほぼ盛り込まれ、各資産の購入額も市場予想の上限さえ超える内容となった。
長期国債の償還を考慮しないグロスの買い入れ額についての市場中心予想は月5兆円、上限でも6兆円だったが、今回の緩和では7兆円強になる見込みだ。長期国債購入の上限を定めていた銀行券ルールは一時、停止されることになった。上場投資信託(ETF)は市場規模が4.4兆円程度と小さいため、増額されても少額との予想が多かったが、これも市場予想を大きく上回り、ETF及びJ─REITの保有残高は、それぞれ年間約1兆円、年間約300億円に相当するペースで増加するよう買い入れることになった。
シティグループ証券チーフエコノミストの村嶋帰一氏は、ドラギECB総裁のLTRO(長期流動性供給オペ)に匹敵するような黒田総裁の「バズーカ砲」がさく裂したと指摘。「現時点でできるものは全て出したという印象だ。打ち止め感さえ心配されるほどだが、海外勢は日本勢以上に驚きをもって受け止めそうであり、材料出尽くしにはしばらくならないだろう」との見方を示す。
<ボルカー以来の衝撃>今回の「量的・質的金融緩和」では金融市場調節の操作目標をこれまでの無担保コール翌日物からマネタリーベースに変更し、年間60─70兆円に相当するペースで増加させる。「金利」からマネーの「量」にターゲットを変更したわけだが、市場では「政策目標がわかりやすくなり、市場とのコミュニケーションがとりやすくなる」(国内銀行)と好評だ。
三菱東京UFJ銀行シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は「1979年にボルカー元FRB議長が、米国のインフレを止めるために、マネタリーベースの量をターゲットにし、インフレを退治した。黒田総裁がデフレを止めるためにマネタリーベースの量を目標を変更したことは、それ以来のインパクトがある」と驚きを隠さない。
3月ADP全米雇用報告で民間部門雇用者数が5カ月ぶり低水準となったことで、今週末の3月雇用統計に警戒感が強まっている。米10年債利回りは1.811%に低下し、ドル/円も上値が重くなっているが、日本の10年債利回りは0.43%を割り込み、史上最低水準を更新した。「ここまで日本国債の利回りが押し下げられるとドル高/円安要因になる」(国内シンクタンク)との見方が多く、ドル/円は4日夕方時点で95円前半まで上昇。調整が続いていた日経平均も円安を好感し、一気に年初来高値を視界にとらえた。
市場も驚いた異次元緩和、黒田日銀の「バズーカ砲」炸裂 | 日銀特集 | Reuters
2004年ごろに円高を防ぐために不胎化政策(介入で市場に供給した円資金を回収する政策)を伴わない大規模な為替介入が行われ、「日銀砲」と呼ばれたことがあります。*3今回の「量的・質的金融緩和」はそれよりも遥かに強力な措置であり、これこそ日銀が持つポテンシャルを最大限に発揮した「真の日銀砲」だと言えるでしょう。
黒田執行部は、市場の期待に完全に応えるばかりか、さらにその上を行く政策を打ち出したことになります。これまでのような戦力の逐次投入ではなく、黒田総裁が言うように「必要な措置は全て採った」政策です。
これでリフレ政策が日本で実施されることは確実になりました。後はその効果がどのような形で現れていくのか、注視していきたいと思います。
*1:具体的な内容は、「総裁定例記者会見(4月4日)要旨」をご覧下さい。
*2:〔金利マーケットアイ〕国債先物に急速な買い戻し、大規模な日銀買い入れを再評価 | Reuters
*3:実際には財務省管轄下の外国為替資金特別会計が介入を指示していたので、この形容は不適切だったのですが。