麻生財政は成功するか?
自民党総裁選は、予想通り麻生太郎氏の圧勝に終わりました。本日、国会で首相に指名される予定です。
麻生首相は景気回復を最優先課題とし、その手段としては大規模な財政政策を実施する方向でしょう。
しかし当然のことながら、財政政策には財源が必要です。現状では、以下のようなものが財源として考えられます。
しかし、1.の国債を市場で発行する方法は、マンデル・フレミングの法則によって長期金利の上昇と円高を招くため、財政政策の効果が損なわれてしまうという問題があります。また4.の増税については増税そのものが財政政策の効果を相殺してしまうでしょう。従って、それ以外の3つの方法のいずれかにしないと、財政政策は十分な効果を発揮しないでしょう。
1.については、8/28の記事で示したように、小渕政権時代に大幅な円高を招いたことが良い教訓でしょう。4.については、もちろん橋本政権時代の消費税増税と社会保険料値上げの「9兆円の負担増」が教訓となります。
麻生首相はこれらの財源の中で、「埋蔵金」を財源として考えているそうです。
自民党総裁選候補の麻生太郎幹事長は12日午後、日本記者クラブでの公開討論会で、社会保障費の伸びを毎年2200億円抑制する政府方針について「現場で見ている感じでは限界に来ている」と述べ、見直す考えを示した。プライマリーバランス(基礎的財政収支)を2011年度に黒字化する政府目標に関しては「手段であって目的ではない」と述べ、財政再建より景気対策を重視する立場を強調した。
時事ドットコム:麻生氏、社会保障費抑制見直し=景気対策「埋蔵金」で−自民党総裁選
また、麻生氏は定額減税など景気対策の財源について「わたしは赤字公債発行と言ったことは一度もない。特別会計の積立金の使えるものは使うようにしてもいい」と述べ、「埋蔵金」を活用する方針を示した。これに関し、与謝野馨経済財政担当相は「楽観論を国民に与えてはいけない。使っていいお金かという問題も含め、政治が国民に説明しないといけない」と語った。(2008/09/12-18:10)
一方、麻生首相は総裁選で戦った与謝野馨氏を、副総理格の経済財政担当相として起用する方向だそうです。
自民党の麻生総裁は24日午後、同日召集される第170臨時国会で、衆参両院での首相指名選挙を経て、第92代、59人目の首相に指名される。
麻生氏は直ちに組閣作業に入り、同日夜には麻生内閣が発足する。これまでの調整で、外相は中曽根弘文・元文相(伊吹派)で固まった。総裁選で2位になった与謝野馨経済財政相(無派閥)は再任し、首相臨時代理の1位に指名して副総理格で処遇することを検討している。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080923-OYT1T00680.htm
しかし、麻生氏と与謝野氏は、「埋蔵金」を活用するか否かで意見が異なるようです。かつて「埋蔵金」の存在が高橋洋一氏によって指摘されたとき、与謝野氏はその存在を否定したことがあるので、与謝野氏が否定的なのは納得できます。*1
<埋蔵金活用で意見対立>
2009年度に基礎年金の国庫負担割合を現行の3分の1から2分の1に引き上げる政府方針については、5候補とも堅持すると明言したが、財源をめぐって違いが出た。麻生氏や石原氏が特別会計の剰余金など「霞が関埋蔵金」の活用を提案したのに対し、与謝野氏は「消費税が唯一の安定財源である」との見解を示した。基礎年金国庫負担割合の引き上げでは、「安定財源を確保」することが年金法に規定されている。引き上げには安定財源の確保が不可欠だが、麻生氏は「直ちに消費税を引き上げるのはいかがなものか。景気を著しく冷やす」と述べ、「40兆円程度あると言われる特別会計の剰余金を、消費税を上げるまでの間、使わせてもらうのも1つの方法だ」と述べた。
石破氏は「今から消費税を上げることは物理的に間に合わない。(09年度の財源として)消費税はやらないし、そもそもできない」と述べ、物理的に困難との認識を示した。ただ「安定財源として、将来、消費税を使うことはあり得べし」と語った。
与謝野氏は「(国庫負担引き上げの財源は)安定財源でなければならず、最初の候補は消費税しかない」と述べた。「ただし、今年の年末から来年の通常国会でそれができるかと言うと技術的な問題があるが、消費税がこの問題の唯一の安定財源である」とした。ただ「税制改正全体のパッケージの行方・道筋を示す責任がある」と語った。
石原氏は「あくまでも限定的なつなぎ」と前置きし、特別会計の積立金の補助率の変更や予算や政策のたな卸し、道路特定財源の一般財源化に伴う余剰分などの組み合わせで答えを出していく以外にない、と語った。
小池氏は「消費税を今上げる環境にはない」としたが、国庫負担上げの財源についての言及はなかった。
〔焦点〕自民総裁選で際立つ財源問題、「埋蔵金」めぐり麻生氏と与謝野氏が対立 | Reuters
このように考えると、「埋蔵金」を財政政策の財源とすることについては、麻生氏と与謝野氏で意見が対立すると予想されます。与謝野氏はできるだけ特別会計の余剰金を少なく見積もり、「埋蔵金」の規模を縮小しようとするでしょう。その結果、財政政策の規模が縮小したり、国債の発行を行ったりすれば、その分だけ景気は悪化することになります。
このように与謝野氏が「埋蔵金」を否定する背景には、与謝野氏の「インフレは悪魔的」という信念があるのでしょう。「埋蔵金」を財政政策の財源として市場に放出すれば、その分だけマネーサプライが増大し、インフレが進みますから。とは言っても、GDPデフレータベースで見れば、デフレが多少和らぐ程度でしょうが。
また、先に上げた財源の2.や3.についても、やはりマネーサプライの増大とインフレを招きますから、与謝野氏は阻止しようとするでしょう。
このように、麻生首相の財政政策の効果を上げようとすると、必然的に与謝野氏の「インフレは悪魔的」という信念とぶつかることになります。従って、与謝野氏をどうやって押さえるかが、麻生首相の財政政策が成功するかどうかの一つの鍵となるのでしょうね。