Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

リフレ政策が試されるとき

僕は長年、日本の不況を解決する方法としてリフレ政策を主張しているのですが、アメリカは金融危機をきっかけにした今回の大不況に対処するため、とうとうリフレ政策に踏み出したようです。
経済学者の田中秀臣(韓リフ)さんのブログで、そのことがはっきり指摘されています。

 バーナンキFRB、戦後世界経済で(ある意味で不幸であることには違いないが、それでも長期停滞に陥る日本にとっては最善のエールともいえる)はじめてのリフレ政策(ゼロ金利FRBのバランスシートの拡張維持へのコミット、長期国債の買いオペの考慮=ほぼ実施予告など)始まる。


http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/monetary/20081216b.htm


 それとこれは時事通信などがhttp://charge.biz.yahoo.co.jp/vip/news/jij/081217/081217_mbiz011.html
 報道しているような長期国債購入枠をがっちりはめた、日本銀行のバランスシートの膨張を過度に忌避していた過去の日本の歪んだ「量的緩和」とはまったく発想が異なるもの。


 物価安定(現状ではインフレリスク事実上ゼロなのでむしろデフレ懸念が払拭されるまで)プラス経済成長率が安定的になるまで、中央銀行のバランスシートを事実上無責任に(これは政策責任を負わないという意味ではない。日本みたいに阿呆な責任=不況なのに増税、を負ったり、あるいは利下げによる預金利子率の消失の責任にコミットするなどのクレージーなものに無責任になるという意味)膨張させていくもの。


 その手法の中に、長期実質金利抑制を睨んだ長期国債買いオペとなればこれはもう日本流の「量的緩和」という表現は妥当ではない。むしろ日銀やこの時事通信の記事のように無理解・無知なマスコミの一部の書き手によって徒な混乱を日本国民に招くだけであろう。


 ともあれリフレ政策の本格的な始動が始まった。オバマ政権になればさらに強力な再分配や財政政策も行われるだろう。この効果がどうなるか。予測される効果をあげることができるのか。私はもちろんそうなることを支持している。これからリフレ政策の真偽が問われると同時に、それは世界経済の行方をも問うことになるに違いない。

Economics Lovers Live - リフレ政策ついに始まる



今回のFRBの政策については、伊藤洋一氏のブログYCASTER 2.0に詳しい説明があります。
FRBゼロ金利政策を実施するだけではなく、量的金融緩和や証券・長期国債の買い入れを徹底的に行う方針のようです。これは長年日本で主張されていたリフレ政策の内容そのものと言えるでしょう。*1

 (05:23)正直、最初にFOMC声明を読んだときには驚きました。いつものFF金利誘導目標がレンジになっていたからです。表現としては「a target range」。ここでまず目が止まった。こんなのは見たことがない。


 次にそのレンジの「0 to 1/4 percent」というところでまた目が止まって、また驚いた。つまり目標レンジは「0〜0.25」%というのである。このレンジの上限は、「FOMCは0.75%の利下げをする可能性がある」と見ていた市場の新FF金利誘導目標である。しかしそれが上限なのだ。


 つまりこれは、FOMCが従来1.0%だったFF金利の誘導目標を、0.75%〜1.0%引き下げた、というに等しい。これはある意味で凄まじい利下げであり、この結果アメリカの政策金利は、日本の0.30%を下回った。この結果、今週末に開かれる日本の金融政策決定会合でも利下げの可能性が極めて高くなった、と言える。


 下限の「0」というのは、日本がバブル崩壊後にしばらくやっていたゼロ金利政策に等しい。つまり「金融政策がデフレ対応になった」ということだ。この発表を受けてまずドルが売られたのは自然だろう。一方、ニューヨークの株式市場では発表前に100ドル高前後だったダウ平均が300ドルを超える上昇となっている。FOMC声明が指摘するように経済情勢は厳しいが、「FOMCの決意を評価した」ということだろう。


 更に読み進むと、「The focus of the Committee's policy 」で始まるパラグラフは、要するに「物価の安定を保ち、景気の落ち込み、雇用市場の悪化を防ぐ」ためにはFRBは何でもしますよ、と書いているように見える。FRBのバランスシートを膨らまして金融市場機能を保ち、景気を刺激するために既に行っている「量的金融緩和」を徹底的にやると言うことでしょうし、「will purchase large quantities of agency debt and mortgage-backed securities to provide support to the mortgage and housing markets,」と言えば、住宅市場復活のためには関連の証券を大量に買う、と言っていると取れる。


 またさらに「he Committee is also evaluating the potential benefits of purchasing longer-term Treasury securities」と述べて、政府債務(長期国債)を買い取るメリットについても分析する、と述べている。禁じ手に手を染めるかも知れない、と言っているのである。


 FOMCの支援は、金融市場や金融機関、それに政府にとどまらない。「Early next year, the Federal Reserve will also implement the Term Asset-Backed Securities Loan Facility to facilitate the extension of credit to households and small businesses. The Federal Reserve will continue to consider ways of using its balance sheet to further support credit markets and economic activity.」ということは、FRBが直接家計や中小企業に信用を供与すると言っていると思える。FRBのバランスシートが著しく膨張し、かつ劣化しても、という覚悟が見て取れる。


 しかも重要なのは、この重要な決定が「反対者なし」で下されたことである。下を見れば反対者はいない。つまり満場一致ということだ。このFOMC決定の歴史的な意味は、今後いろいろな形で議論されるでしょう。しかしその議論の前に、FRBは未踏の領域に踏み出した印象がする。問題は効果が出るかどうかだ。

2008年12月17日(水曜日) 二つのビッグな驚き /YCASTER 2.0:伊藤洋一公式サイト



残念ながら日本ではまだリフレ政策は採用されていませんが、危機的状況にあるアメリカでリフレ政策の実施が始まったことは、長年この政策を支持してきた人間として、身が引き締まる思いです。いよいよ、長年主張してきたことの真価が問われるのですから。もちろん、僕はリフレ政策が見事にアメリカ経済や世界経済を救うことを信じています。

*1:日本にはリフレ政策をインフレ目標に矮小化して批判している経済学者もいるようですが、本当の意味でのリフレ政策はこのようなreflation(通貨再膨張)政策です。