Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

与謝野馨は本当に反民主党か?

すでに報道されている通り、平沼赳夫氏と与謝野馨氏が中心となって新党「たちあがれ日本」が結成されました。
与謝野氏については、これまでもこのブログでも何度も取り上げてきましたが、財務省をバックにした政治家で、消費税増税による財政再建にこだわっている政治家だというのが、僕の認識です。
しかし、与謝野氏は小泉政権以降ずっと自民党政権の中枢に関わってきた政治家でした。当然政治家としての力量も大きなものがあります。そのような与謝野氏が、なぜ自民党離党という選択を行ったのでしょうか?


そんなことを考えていたところ、id:kibashiriさんが与謝野氏について面白い指摘をしていました。

 政治家としての彼の行動原理は何なのでしょうか。

 私は彼を根っからの趣味人、それも札付き(失礼)の理論派ギャンブラーだと見切っています。

 私は一人の男としては与謝野氏は好きなタイプです。

 彼はギャンブルやゲームが大好きでありなおかつ好奇心の固まりであり、一緒に遊ぶならとても魅力的な男だろうからです。

 最近はしないようですがマージャンもめっぽう強いようですし、小沢氏とたまに打つ囲碁の腕はアマ七段と素人としてはかなりのレベルと聞いております、写真を撮らせればプロ級の腕前であるとも聞いています。

 それに驚いたことに彼はIT情報通でもありPCのパワーユーザーでもあります。

 彼の事務所のパソコンは、彼自らパーツをアキバで購入し自作したものがゴロゴロあるそうです。

 失礼ながら70歳を越えた年齢から考えるとこれはものすごいパワーです、尊敬すらしてしまいます。

 趣味の分野でこれほど多彩な能力を発揮できる人というのは、好きなことに対してものすごい集中力を発揮するタイプが多いのですよね、おそらく与謝野さんもこのタイプの趣味人だと思われます。

 余談ですが不肖・木走もマージャンも打ちますしゲームも大好きです、囲碁は打ちませんが将棋はよくさします、PCも趣味で自作してます(私の場合ITは本職ですので自慢にもなりませんが(苦笑))、能力はさておきタイプとして与謝野氏に近いと自覚してます。

 ギャンブル好きの私は、若い頃よく後楽園の場外馬券売場でモニター見ながら馬券を買っていましたが、私が見るところギャンブラーには2タイプがあります、情念派と理論派です。

 情念派は気合いと根性で博打を打つタイプです、このタイプは自己破滅型でもあります、例えば3万円握りしめて馬券を買ったが最終レースを前に1万円増えて4万円になっていたとき、ときにこのタイプは驚くことに4万円全額を最終レースに掛けてしまいます、気合いと根性で。

 当然ながら大勝ちすることもありましょうが、帰りの電車賃も事欠くスッテンテン状態にもままなってしまうのです。

 一方理論派は理屈と計画で博打を打つタイプです、このタイプはマージャンも強い人が多いのですが、馬券の買い方などでも理論と計画性を重視します、先ほどの最終レースを前に1万円増えて4万円になっていたケースならば、多くの理論派はその日の「負けなかったこと」を確定するために、最終レースには1万円以内しか掛けないでしょう。

 大勝ちもしないけれど大負けも避ける戦略を取ります。

 与謝野氏は知る人ぞ知る財政再建論者でもありますが、これは私にはとてもよく納得できます、理論派ギャンブラーの鉄則のひとつが「収支の決定的悪化を避ける」つまり「大負けをしない」ことだからです。

 どっちがよいとかではないのですが、与謝野さんは間違いなくゲーム好き・ギャンブル好きであり、でギャンブラーとしては間違いなく理論派なのだと私は独断します。

 では理論派ギャンブラーの最大の欠点は何か。

 場の空気を読んだり場に順応することが苦手なことです。

 なぜか。

 運やカンに頼らず己の理屈を信じるがゆえに、「天の時」「地の利」「人の和」を軽視しがちな傾向にあるからです。

 つまり「空気が読めない」、いや読もうとしない傾向が強いのです。


与謝野氏の最大の欠点は「天の時」「地の利」「人の和」を生かしきれないこと - 木走日記 与謝野氏の最大の欠点は「天の時」「地の利」「人の和」を生かしきれないこと - 木走日記



なるほど、与謝野氏は理論派ギャンブラーですか。ということは、今回の新党結成というギャンブルについても、大負けをしないための保険をかけているのでしょう。
僕が見る所、その保険は彼の後ろ盾である財務省だと思います。財務省の後ろ盾さえ失わなければ、政界では大きな影響力を維持できるでしょう。
ただ、そのためには財務省の悲願である消費税増税に対して、与謝野氏が影響力を行使できることが必要であると思います。財務省も何の力もない政治家を支持するほど甘くはないでしょうから。


しかし、消費税増税のような大きな政治テーマを実現するためには、政権に直接影響力を行使できる立場にいることが不可欠でしょう。自民党政権時代の与謝野氏はそのような立場にいましたが、民主党政権となり、自民党の政権復帰の見込みが全く立たない現状では、与謝野氏はそのような立場を失いつつあります。与謝野氏が政策面では共通する考え方のはずである谷垣総裁を厳しく批判している背景は、そのような現状に対する不満があるのでしょう。


また、最近の自民党では与謝野氏と対立する上げ潮派復権が始まっているのではないかという気がします。
現在、自民党で最も人気のある政治家は舛添要一氏でしょう。*1
ところがこの舛添氏は、次の記事にもあるように、法人税減税と併せて、金融緩和によるデフレ対策、円高対策(つまりリフレ政策)を主張しています。このような考え方は上げ潮派のものですから、「インフレは悪魔的」と主張する与謝野氏とは相容れないでしょう。*2

 経営者たちが述べた第二の懸念材料は、円高である。技術者たちは、1円のコストを削減するために、血のにじむような努力を重ねている。そのような努力の中から世界最新の技術が生まれたのである。

 しかし、為替相場が一気に4〜5円も変化すれば、原価を1円下げたところで、まさに焼け石に水ということになってしまう。為替相場の安定のために何ができるのか、G8の場でも先進国の蔵相や中央銀行総裁が議論をしている。変動相場制度を前提にしたうえでも、為替の安定化策をさらに強化すべきであろう。

 円高が有利に働くか不利になるかは、業種や企業によっても異なるが、企業の努力とはかけ離れたところで自らの国際競争力が決められることは正常ではない。そのような認識を世界の指導者が持つべきである。

 第三は、デフレである。日本ほどデフレからの脱却に時間がかかっている国はない。日銀は、さらに一層の金融緩和を行って、この泥沼のデフレを収束させるべきである。この金融緩和は、円高の進行を阻止するのにも役に立つ。政府と日銀は、政策を調和させて、日本企業の努力を支援すべきであろう。


法人税減税、規制緩和で企業の海外移転を食い止めよ 日本企業の経営努力をバックアップ | 舛添レポート | 現代ビジネス [講談社] 法人税減税、規制緩和で企業の海外移転を食い止めよ 日本企業の経営努力をバックアップ | 舛添レポート | 現代ビジネス [講談社]



今後、自民党が支持を取り戻すためには、国民的人気の高い舛添氏を総裁や幹事長にして、党の顔とする必要があるでしょう。そうなると、金融緩和によるデフレ・円高対策を採用することになりますが、与謝野氏はこんなことは絶対に受け入れられないでしょう。


また、自民党公務員制度改革でも、みんなの党と共同で踏み込んだ内容の法案を提出しています。みんなの党は小泉・安倍政権時代の改革派の流れを組んでいますし、自民党側も安部政権時代の官房長官であった塩崎氏が関わっているようなので、やはり当時の改革派が深く関わっているのでしょう。*3
安倍政権の改革派のメンバーは上げ潮派とかなり重なっていますので、これも上げ潮派復権を示す一つの兆候ではないかと思います。


これらのことを考え合わせると、自民党が野党のままでは消費税増税を行うことができず、与謝野氏もそれに関わることができない、かといって政権を取り戻すためにはリフレ政策を主張する舛添氏や上げ潮派復権するしかないということになります。与謝野氏にとってはどちらも受け入れられない話なので、だったら離党するしかないという結論になってもおかしくないでしょう。


ただ、現在の民主党は当面の消費税増税は否定していますし、子ども手当のような大規模な財政出動を行って予算を膨張させています。このような政策は与謝野氏とは相容れないので、与謝野氏も民主党を厳しく批判してます。与謝野氏がいきなりこのような民主党に擦り寄っても大義面分が立ちませんし、支持者もついてこないでしょう。
だから新党結成と言う結論になったのでしょう。ただ、そのためには人数が必要ですから、消費税増税による財政再建を受け入れると言う条件で、平沼氏と組んだのだと思います。与謝野氏にとって、消費税増税財政再建に比べれば、マスコミで指摘されている郵政民営化をめぐる意見の相違や平沼氏の保守的な政治姿勢は重要ではなく、妥協することができたのでしょうね。


ただ、民主党には財政再建を重視する政治家も少なくないですし、与謝野氏や行動をともにした園田氏には民主党とのパイプもあります。だから、もし民主党が消費税増税による財政再建を打ち出せば、与謝野氏は政権に直接影響力を行使できる立場を求めて、民主党との連携に走ると思います。その時、平沼氏などを説得して新党ごと連立することになるのか、新党を割って与謝野氏と園田氏だけで民主党に合流するのか、そこまでは分かりませんが。


このように考えると、現在、この新党がいくら反民主党自民党への協力を掲げていても、それを素直に信じることはなかなかできません。もっとも平沼氏については、これまで民主党に組みしてこなかった経緯を考えると、本当にそう考えているのかもしれませんが。


この新党については、高橋洋一氏も、「大きな政府」と言う点で自民党よりも民主党に近く、自民党票を食って民主党を側面支援するのではないかと指摘しています。現在自民党を支持する人は、この新党を支持するかどうか、よく考えてみた方が良いのではないでしょうか?

 こうしてみると、与謝野・平沼新党は、言葉上では、今度の参議院選挙での「民主党単独過半数阻止」といいながら、政策面では大きな政府指向であり、民主党と同じ方向である。

 そこで、選挙になると、大きな政府を支持する者は、自民党支持者にも民主党支持者にも一定割合いるので、与謝野・平沼新党自民党票を喰うことになって、民主党を側方支援することになるだろう。さらに、場合によっては、大きな政府指向を背景として、与謝野・園田ラインの民主党パイプを生かして連立ということも考えられる。

 これは、2007年11月に自民党民主党間で話し合われた大連立構想の一部復活である。

 いずれにしても、小さな政府指向でよほどの政治的な動きがないかぎり、参議院選挙後には、民主党を主軸とする大きな政府の動きが加速するだろう。そうなるとどうなるのか。郵政民営化の見直しの結果を具体例として指摘しておこう。


「大きな政府」で一致する 与謝野・平沼新党と民主党 郵政民営化見直しで進む 「財政投融資の復古」とも連動 | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 「大きな政府」で一致する 与謝野・平沼新党と民主党 郵政民営化見直しで進む 「財政投融資の復古」とも連動 | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]

4/24補足

すでに報道されているとおり、その後桝添氏は自民党を離党してしまいましたね。
この記事で桝添氏に関するところについては、僕の読みが外れてしまいました。(苦笑)
新党改革」でも、引き続きデフレ克服を掲げるようですね。

 舛添要一厚生労働相(61)ら参院議員6人は23日午後、都内で新党結成の記者会見を行う。新党名は「新党改革」と決まった。(1)デフレ克服(2)カネにきれいな政治(3)国際競争力強化−を掲げ、経済成長戦略の重視や政治家への企業・団体献金の全廃も政策に盛り込むことになった。


舛添新党、その名は「新党改革」 自民に離党届提出 - MSN産経ニュース 舛添新党、その名は「新党改革」 自民に離党届提出 - MSN産経ニュース 舛添新党、その名は「新党改革」 自民に離党届提出 - MSN産経ニュース

*1:共同通信や読売新聞の調査では「首相に最もふさわしいと思う国会議員」は舛添氏がダントツの一位でした。http://www.j-cast.com/2010/03/09061895.html http://www.j-cast.com/2010/04/05063829.html

*2:この発言については、かつてこのブログでも取り上げました。 http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20070908

*3:参考記事 http://diamond.jp/articles/-/7845