中国食品の経済学
中国のいわゆる「毒餃子」事件については、僕も取り上げましたし、世間でも話題になっています。中国側では中国国内における混入を否定する説もありますが、日本国内では中国国内で混入されたという説が圧倒的です。
この問題に限らず、中国における食品や医薬品の安全性の低さは世界的によく知られています。中国から食品や医薬品を輸出された国も様々な被害を被ってますが、その最大の被害者は他ならぬ中国国民自身でしょう。
しかし、何故中国ではこのように安全性の低い食品や医薬品が出回っているのでしょう。その理由は、経済学における「逆選抜(逆選択)」の理論で説明できると思います。
Wikipedeiaの「逆選抜」の項目を見ると、次のような説明があります。
経済学において、逆選抜 (adverse selection) とは、情報の非対称性が存在する(売り手と買い手が保持している情報量に格差がある)状況において発生する現象である。逆選択とも呼ばれる。
逆選抜 - Wikipedia
概要
情報の非対称性が存在する状況では、情報優位者(保持している情報量が多い取引主体)は情報劣位者(保持している情報量が少ない取引主体)の無知につけ込み、劣悪な財やサービスを良質な財やサービスと称して提供したり、都合の悪い情報を隠してサービスなどの提供を受けようととするインセンティブが働く。
そのため、情報劣位者は良質な財やサービス、契約相手などを選択しようとするのであるが、結果的にはその逆の選択が行われているかのような状況に陥ってしまうことがある。このような、取引前に行われる機会主義的行動(モラルに制約されない利己的な行動)が、逆選抜である。
(中略)
中古車市場における逆選抜
中古車市場では、売り手は車の品質をよく理解しているが、買い手は車を購入するまで車の品質を詳しく調査できない場合が多い。そのため情報優位者である売り手は情報劣位者である買い手の無知につけ込んで、良質な車は手元に置いておき、劣悪な車を売りつけようとする。したがって中古車市場には劣悪な車ばかりが出回る結果になり、買い手が良質な車を選択しようとしても、結果的にはその逆の選択が行われてしまう。
中古車市場における中古車の品質などの情報は、売り手のみが知りうる情報であり、買い手には知りえない情報であるため、「隠された情報」と呼ばれている。
この「中古車市場における逆選抜」が、中国における食品や医薬品の安全性の問題でも適用できると思います。
中国では、売り手(生産者)は食品や医薬品の安全性情報はよく理解してますが、買い手は食品に農薬が入っていることや、医薬品の原料に問題があることを知ることができません。そのため生産者は買い手の無知につけ込んで、安全性の低い食品や医薬品を売りつけるようになり、市場には安全性の低い食品や医薬品が出回るようになります。
一度このような状況が生まれると、仮に良心的な生産者がいて安全性の高い食品や医薬品を生産していても、買い手は市場にあるのは安全性の低い食品や医薬品ばかりだと考えますから、その生産者を信用せずに低い価格をつけるでしょう。安全性の高い食品や医薬品は生産コストも高いですから、高い価格で買ってもらえない良心的な生産者は利益を得られず、市場で負けてしまうことになります。
このような理由で、中国では安全性の低い食品や医薬品ばかり出回るわけです。
このような逆選抜を解消するための方法について、Wikipediaでは次のような説明があります。
逆選抜への対策
逆選抜 - Wikipedia
売り手の所持する情報量が多い場合
売り手の所持する情報量が、買い手の所持する情報量よりも多い場合に発生する逆選抜の問題を回避する方法の一つに、国や地方公共団体・消費者団体などの第三者機関の介入が挙げられる。売り手が提供している財やサービスの品質について、第三者機関が審査・検定を行い、買い手に対して財やサービスの品質を保証する方法である。
劣悪な財やサービスを提供する売り手に対して罰則を課す法や条例を制定したり、良質な財やサービスを提供する売り手に対して税制面の優遇を与える法や条例を制定したりする方法を併せて行うと、財やサービスの品質の確保はより確実になる。
ただし、財やサービスの品質維持に対するインセンティブが売り手にある場合、第三者機関が品質保証に介入する必要はない。例として、信用やブランドなどが売り手の利益に大きく影響する場合が挙げられる。買い手が何度も繰り返し来たり、大量の顧客が企業の名前を信用の基準としている場合、その企業自身に財やサービスと値段の関係を正常に維持するインセンティブがもたらされるため、売り手と買い手との間に信用が形成され、第三者機関が品質保証に介入する必要はなくなる。
もちろん中国政府もこのような介入や法の制定は行っているのでしょうが、残念ながら「上に政策あれば下に対策あり」の言葉が示しているように、そのような政策は地方政府のレベルで骨抜きにされてしまうのでしょう。
また、「信用やブランドなどが売り手の利益に大きく影響する場合」というのも、中国では長期的な信用よりも短期的な利益の方が重視されるため、あまり当てはまらないのでしょう。
結局、中国においては「信用」というものが重視されていないために、安全性の低い食品や医薬品が出回るのでしょうね。