Baatarismの溜息通信

政治や経済を中心にいろんなことを場当たり的に論じるブログ。

財務省は弱体化しているのか?

あけましておめでとうございます。
このブログの更新をしないでいたら、いつの間にか年が明けてしまいましたw
せっかくの新年なので、最近気になっていることを書いてみたいと思います。


去年の後半、政府、与党、財務省はずっと軽減税率の問題で対立していました。

軽減税率そのものは、どの品目に軽減税率を適用するか、まともな基準を定めることができず、どのような線引きをしてもバカバカしい矛盾が生まれるという問題があります。例えば今回の軽減税率論議では食品が軽減税率の対象になりましたが、加工食品を含めるかどうかでずっと対立が続き、最後は安倍総理の裁定で含めることに決まりました。また外食は対象外になりましたが、コンビニのイートインやショッピングモールのフードコートのようにどちらにするのか曖昧な領域もあります。
また、軽減税率が特定の業界に対する利権分配として使われる恐れもあります。今回、論議の最後で新聞にも軽減税率を適用する話が急に出てきましたが、これは明らかにマスコミの反対を抑えるための利権分配でしょう。普段、安倍政権を支持してしている新聞も、批判している新聞も、この利権は同じように受け入れてますから、彼らが本当に国家権力と対峙する気があるのか、疑問に思ってしまいます。
さらに大きな問題としては、軽減税率が必ずしも低所得者の救済につながらないという問題もあります。軽減税率品目は低所得者高所得者も購入するため、低所得者救済としては効率的とはいえません。低所得者に払った消費税を払い戻す給付付き税額控除の方が良い政策だというのが、経済学者の間ではコンセンサスとなっています。


さらに言えば、今回の軽減税率論議は来年に消費税を10%に増税することが前提ですが、昨年の8%への消費税増税は未だに景気に悪影響を与えており、日銀の大規模な金融緩和や原油価格の低下にもかかわらず景気が回復しないのは、消費税増税のせいだと言ってよいでしょう。そんな時にさらに増税するのは大きな間違いであり、消費税増税は景気が過熱するまで凍結すべきでしょう。むしろ今の経済状況を考えれば、本当は税率を5%に戻すのが正しいでしょう。


ただ、この軽減税率問題における財務省の行動を見ていると、彼らが以前よりも稚拙な行動をとるようになっており、特に政策立案能力が低下してるように思います。
当初、財務省はマインバーを使って消費税を払い戻す「日本型軽減税率制度」を提案しましたが、この案は手続きが非常に煩雑な上、マイナンバーの漏えいというセキュリティ問題の存在や、データセンターの構築に数千億円という巨額の予算が必要になるなど、およそ現実的とは言えないものでした。

案の定、この制度は政府や与党から反対の集中砲火にあって撤回されてしましました。*1「この案は財務省も本気で出した案ではなく、本命は他にある」という観測*2もありました。

しかし、その後状況は財務省に不利な形になっていきました。まずこの反対の責任を取らされる形で、自民党内でも最大の財務省派であった野田税制調査会長が交代させられ*3、かつては独立王国とも言われた自民党税調は安倍政権の影響下に置かれました。
財務省は谷垣幹事長など残る財務省派議員を使って軽減税率の範囲を狭めようとしましたが、結局生鮮食料品に加えて加工食品も対象とする公明党の主張が通り、最後は逆に財務省固執していたはずの「財源論」を無視する財源の拡大までやったが、それも政府・与党にはねつけられ、全く影響力を与えることができませんでした。


以下の長谷川幸洋氏の記事は、財務省の凋落ぶりを手厳しく指摘しています。

消費税の増税に伴う軽減税率問題が決着した。最大のポイントは税率の中身もさることながら、政治的に首相官邸が党内の増税派と財務省に圧勝した点だ。これで安倍晋三首相は2017年4月に10%に引き上げるかどうか、完全にフリーハンドを握った形になる。

約3ヵ月にわたった攻防で、財務省は終始一貫して読み違いをした。

間違いの始まりは、唐突にぶちあげた増税分の一部を後で家計に戻す「還付金案」だった。これは理屈の上では低所得者対策として正しかったが、まだ始まってもいないマイナンバー制度を活用する問題点や根回し不足もあって、あっという間に消えてしまった。

財務省はその後も迷走を続けた。4000億円の財源枠にこだわるあまり、与党である公明党の政治的重さを測りかねて首相官邸の怒りを買ってしまう。最後は適用食品の線引きの難しさから財源を一挙に1兆3000億円まで拡大したものの、自分たち自身の大臣である麻生太郎財務相公明党の反対に遭って、これまた蹴飛ばされてしまった。

霞が関を仕切る財務省がこれほど無様な姿をさらしたのは、ほとんど記憶がない。あえて言えば、1994年の細川護熙政権で当時の大蔵省が小沢一郎新生党代表幹事(当時)と組んで導入を目論んだ「国民福祉税構想」の失敗に匹敵するのではないか。

情報収集力と要路(政府や与党幹部)に対する根回しの周到さにかけては霞が関、いや日本随一の財務省も「ここまで落ちぶれたか」と感慨深いものがある。

財務省がこの体たらくだから、自民党税制調査会の権威が地に落ちたのも無理はない。自民党税調は財務官僚が陰に陽に知恵袋、かつ手足となって動いていたからこそ、表舞台で権勢を誇ることができた。

ところが「裏舞台の司令塔」である財務省が肝心の政策立案で失敗した挙げ句、政治的パワーバランスを読み切れず、議論に説得力もないとなったら、党税調が力を失うのは当然である。どうして、こうまで失敗したか。遠因は昨年秋の増税先送り・解散総選挙にある。


財務省はなぜここまで落ちぶれたか 〜政策立案・根回しに失敗、議論も説得力がない 軽減税率をめぐって「大迷走」 | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 財務省はなぜここまで落ちぶれたか 〜政策立案・根回しに失敗、議論も説得力がない 軽減税率をめぐって「大迷走」 | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] 財務省はなぜここまで落ちぶれたか 〜政策立案・根回しに失敗、議論も説得力がない 軽減税率をめぐって「大迷走」 | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]


結局、昨年の消費税増税先送りで安倍政権に完敗した財務省は、その力の源泉であった政策立案能力もおかしくなり、「日本型軽減税率制度」のような実現性の見込みすらない案を出すようになってしまったのでしょう。財務省がこれだけの権力を握っていた理由は、政治家の代わりに政策や法案を作っていて、税制や予算に内閣よりも大きな影響力を及ぼすことができたからでした。その能力が落ちていることが明らかになった結果、これまで財務省に依存・協力してきた政治家たちの力も大きく落ちてしまったのでしょう。


これまで日本の緊縮政策の総本山であった財務省の弱体化が明らかになったことは、これからの日本の政治に大きな影響を及ぼすでしょう。これまで財務省がいつも持ち出していた「財源論」も、今回の軽減税率で無視されてしまいました。このことは、日本の財政政策を緊縮路線から転換させるきっかけになるかもしれません。その試金石となるのが、来年の消費税増税のさらなる先送りや凍結を行うことができるかという問題でしょう。
現在、日銀の大規模金融緩和の効果が、消費税増税によって大きく削がれていることを考えれば、緊縮財政の停止はデフレ脱却や景気回復にも大きな影響を与えることは間違いありません。ひいては、今後の日本経済がまともに経済成長するかどうかを左右する問題だと言えるでしょう。


だから、僕は今年も財務省の「弱体化」が今後も続くのかについて、注目していきたいと思います。財務省が力を失い緊縮政策が停止されることが、日本の未来を大きく開くことにつながると思うので。