Baatarismの溜息通信

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安倍総理は財務省の「歳出権」の前に屈するのか?

消費税増税を巡って、先週、マスコミが奇妙な「誤報」を出しました。

読売新聞は、9月12日付朝刊1面トップで、安倍晋三首相が消費税を来年4月に8%に予定どおり引き上げる意向を固め、増税による腰折れ対策として5兆円規模の経済対策を実施する考えだと報じました。共同通信毎日新聞なども同様に報じました。これに対し、菅義偉官房長官は12日午前の会見で、安倍首相が増税について「決断をしたという事実はありません」と否定。5兆円規模の経済対策についても「具体的な数字は全く出ておりません」としています。

官房長官は、10日の閣僚懇談会で安倍首相が経済政策のとりまとめを指示したことは認めていますが、増税するかどうかの最終判断は「10月上旬」になるとし、「全く固めたということは事実と違う」と述べています。

他方、12日付朝日新聞夕刊や12月付NHKは、安倍政権内で増税を想定して5兆円規模の経済対策を検討していると報じる一方で、安倍首相は経済対策を見極めた上で最終判断すると伝えており、まだ最終判断には至っていないことを示唆しています。


来年の消費増税 「首相の決断事実ない」と官房長官 | GoHoo 来年の消費増税 「首相の決断事実ない」と官房長官 | GoHoo 来年の消費増税 「首相の決断事実ない」と官房長官 | GoHoo



マスコミの憶測記事や「飛ばし」記事はよくあることですが、この「安倍総理が消費税増税決定」記事は、菅官房長官が記者会見で否定した後も、流され続けました。

関連記事を時系列で並べると、このようになります。


安倍晋三首相は9日、来年4月に消費税率を8%に引き上げるための経済指標面での環境は整った、と判断した。内閣府がこの日発表した4〜6月期の国内総生産(GDP)の2次速報値が大幅に上方修正されたためだ。安倍政権は増税した場合に景気が腰折れするのを防ぐため、経済対策の本格検討に入る。首相は好調な指標に自信を深めており、経済対策の規模や中身を見極めたうえで、10月1日にも増税の可否を最終判断する方針だ。

(2013/9/10 06:20 朝日新聞


朝日新聞デジタル:安倍首相、増税指標クリアと判断 GDP上方修正で - 政治 朝日新聞デジタル:安倍首相、増税指標クリアと判断 GDP上方修正で - 政治 朝日新聞デジタル:安倍首相、増税指標クリアと判断 GDP上方修正で - 政治

安倍晋三首相は10日、10月上旬に行う消費税率引き上げの最終判断を前に、9月中に経済政策パッケージを取りまとめるよう、関係閣僚に指示した。

消費税率を予定通り引き上げる場合は十分な対策が必要との判断で、あらかじめ経済対策をとりまとめて、増税を予定通り行う場合には、十分な景気腰折れ対策と一体で実行する。

<9月中に政策パッケージ、消費増税最終判断の材料>

安倍首相は、現在は15年続いたデフレから脱却する最後のチャンスと位置付けており、消費増税によってこの機会を逃すことは避けたい思いが強い。この日も、経済政策パッケージ取りまとめを指示した際、消費増税について10月上旬に判断するとしたうえで「デフレ脱却、経済再生と財政再建への道筋が確かなものかをしっかり見極め、判断したい」と発言。「消費税を引き上げる場合には十分な対応策が必要だ。景気を腰折れさせてはならない」と語った。

ただ、官邸サイドはこの政策パッケージについて「成長の果実を全国津々浦々まで届けるためのものだ。消費税の判断とは分けて考えてもらわないといけない」(世耕弘成官房副長官)と位置付ける。消費増税ありきで政策をまとめるわけではないという認識だ。

一方、甘利明経済再生担当相は、経済対策パッケージは消費増税の最終判断の材料になると指摘。麻生太郎財務相消費税法には3%と2%の引き上げが明記されており、対策はその方向で考えることになるとの認識を示した。

(2013/9/10 17:18 朝日新聞


安倍首相が経済政策とりまとめ指示、消費増税判断の材料 | ビジネスニュース | Reuters 安倍首相が経済政策とりまとめ指示、消費増税判断の材料 | ビジネスニュース | Reuters 安倍首相が経済政策とりまとめ指示、消費増税判断の材料 | ビジネスニュース | Reuters

 安倍首相は11日、消費税率を来年4月に現行の5%から8%に予定通り引き上げる意向を固めた。

 増税が上向いてきた景気の腰折れにつながることを防ぐため、3%の増税分のうち約2%分に相当する5兆円規模の経済対策を合わせて実施する考えだ。経済対策は、2013年度補正予算案と14年度予算案の一体的な編成や、減税を柱とする税制改正で対応する。

 首相は、10月1日に日本銀行が発表する9月の企業短期経済観測調査(短観)を分析した上で最終判断し、直後に記者会見を行い、増税に踏みきる理由や経済対策などを表明する方向で調整している。

 消費税は、1%の税率引き上げで2・7兆円の税収増となると見込まれる。複数の政府筋によると、首相は、3%の引き上げで約8兆円の負担を国民に求めた場合、回復基調にある景気が失速しかねないと懸念している。このため約2%分を経済対策で国民に事実上還元することで、景気への影響を1%引き上げと同程度に抑えることにした。

(2013/09/12 04:05 読売新聞)


消費税率、来年4月に8%…首相が意向固める : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 消費税率、来年4月に8%…首相が意向固める : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞) 消費税率、来年4月に8%…首相が意向固める : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 安倍晋三首相が、来年4月に消費税率を5%から8%へ予定通り引き上げる方針を固めたことが12日分かった。政府は、増税による景気腰折れを防ぐため、税率上げ幅3%のうち2%分に当たる5兆円規模の経済対策をまとめる方向で本格検討に入った。首相は10月1日に増税方針と経済対策を表明し、財政再建とデフレ脱却を両立させる姿勢を示す構えだ。

(2013/09/12 09:34 共同通信


消費税率、来年4月8%に 首相、10月1日表明へ - 47NEWS(よんななニュース) 消費税率、来年4月8%に 首相、10月1日表明へ - 47NEWS(よんななニュース) 消費税率、来年4月8%に 首相、10月1日表明へ - 47NEWS(よんななニュース)

安倍晋三首相は12日、現行5%の消費税率を、消費増税関連法に沿って2014年4月に8%に引き上げる意向を固めた。各種経済指標が堅調なことから、増税の環境は整ったと判断した。増税による景気の失速を避けるため、5兆円規模の経済対策を合わせて実施する方針だ。

増税の是非を判断するに当たり、首相は4〜6月期の国内総生産(GDP)改定値を最重視していた。9日発表のGDP改定値は、名目で年率換算3.7%増、実質で3.8%増となり、消費増税関連法付則18条に増税の目安として明記された経済成長率(名目3%、実質2%)を上回った。
 11日発表の7〜9月期の大企業全産業の景況判断指数や、8月の国内企業物価指数も改善。首相は10月1日に発表される完全失業率や日銀の企業短期経済観測調査(短観)の内容を確認した上で、同日中にも記者会見して増税を表明する。
(2013/09/12 10:08 時事通信


時事ドットコム:消費税、来年4月に8%=経済対策5兆円で下支え−安倍首相、来月1日にも表明 時事ドットコム:消費税、来年4月に8%=経済対策5兆円で下支え−安倍首相、来月1日にも表明 時事ドットコム:消費税、来年4月に8%=経済対策5兆円で下支え−安倍首相、来月1日にも表明


Q.消費税についてお伺いします。一部報道で、安倍総理が来年4月から8%に引き上げる方針を固めたと報じられています。長官の所見と事実関係をお願いします。
A.総理が消費税を引き上げるというですね、決断をしたという事実はありません。総理は種々の経済指標をしっかりと見きわめて、総理自身が来月上旬に判断をされるということであります。ただ、先般の閣僚懇でですね、消費税を引き上げる場合には経済への影響もあるため、十分な対応策が必要であり、そうした意味合いも含めて経済政策パッケージをまとめるように、総理から10日の閣僚懇で指示があったところであります。規模や中身については、これから甘利大臣と麻生大臣を中心に詰めていく、そこはそうした事実です。
Q.10日の閣僚懇でそうした指示があったということは、素直に受け取れば、消費税引き上げとセットで経済対策のパッケージもという受けとめもできると思うんですが、そうではないんですか。
A.私も実は総理との会談に同席をしました。さまざまな状況を考えた中で、総理は10月上旬に、私が責任を持って判断しますと、そういうことでしたから、全く固めたということは事実と違うと思います。
Q.同じ読売の報道で、経済対策の規模なんですが、5兆円規模で総理が指示を出したということなんですが、これは大体5兆円という指示なんでしょうか。
A.具体的な数字は全く出ておりません。
Q.数字というのも、じゃ、これから……。
A.今申し上げましたように、経済政策、パッケージ取りまとめるようにですね、総理がこういうことを指示したわけですから、それに基づいて、規模や中身については、今申し上げましたように、麻生大臣と甘利大臣との間で詰めていくということになるだろうと思います。ただ、そうしたもの全体を総理自身が掌握した上で、最終的に判断するということですから、まだ判断はしてません。


平成25年9月12日(木)午前 | 平成25年 | 官房長官記者会見 | 記者会見 | 首相官邸ホームページ 平成25年9月12日(木)午前 | 平成25年 | 官房長官記者会見 | 記者会見 | 首相官邸ホームページ 平成25年9月12日(木)午前 | 平成25年 | 官房長官記者会見 | 記者会見 | 首相官邸ホームページ

Q.午前中、消費増税の決断したという事実はないということだったんですが、その後も一斉に報道が続いて、株も為替も金利も非常に落ち着いているんですけれども、その辺はどうごらんになっていらっしゃいますか。
A.午前中、申し上げたとおりでありまして、それがすべてであります。
Q.報道にもかかわらず、市場全般が落ち着いていたということに関しては、いかがでしょうか。
A.それは、私は、あまりよくそこはわかりません。マーケットというのは報道で動くのかどうか、そこを承知してません。


平成25年9月12日(木)午後 | 平成25年 | 官房長官記者会見 | 記者会見 | 首相官邸ホームページ 平成25年9月12日(木)午後 | 平成25年 | 官房長官記者会見 | 記者会見 | 首相官邸ホームページ 平成25年9月12日(木)午後 | 平成25年 | 官房長官記者会見 | 記者会見 | 首相官邸ホームページ


 安倍晋三首相は十二日、二○一四年四月から予定通り消費税率を5%から8%に引き上げる方針を決めた。最近の各種経済指標が堅調だとして、増税の環境はほぼ整ったと判断した。増税に伴う景気の落ち込みを避けるため、五兆円規模の経済対策を合わせて実施する方向。ただ、五兆円は消費税2%分に相当し、社会保障に充てるはずの増税の目的が大きく損なわれる。

(2013年9月12日 夕刊 東京新聞


東京新聞:消費税 来年4月8% 首相決断 社会保障目的どこへ:政治(TOKYO Web) 東京新聞:消費税 来年4月8% 首相決断 社会保障目的どこへ:政治(TOKYO Web) 東京新聞:消費税 来年4月8% 首相決断 社会保障目的どこへ:政治(TOKYO Web)

政府は、来年4月に消費税率を現行の5%から8%へ予定通りに3%分引き上げる方針を固めた。デフレ脱却の芽を摘むことがないよう、2%の増税分に相当する5兆円規模の経済対策を検討することが浮上している。関係筋が12日明らかにした。

安倍晋三首相は10月1日に日本銀行が発表する企業短期経済観測調査(短観)などを踏まえ最終判断する。

(2013/09/12 19:09 ロイター)


UPDATE 3-政府、来年4月消費税3%引き上げ方針固める 2%分の経済対策も | Reuters UPDATE 3-政府、来年4月消費税3%引き上げ方針固める 2%分の経済対策も | Reuters UPDATE 3-政府、来年4月消費税3%引き上げ方針固める 2%分の経済対策も | Reuters

政府は、今月末をめどに取りまとめる新たな経済対策について、法律どおり消費税率を来年4月から8%に引き上げることを想定し、少なくとも5兆円規模とする方向で調整に入りました。
安倍総理大臣は、経済対策の内容も見極め、景気の腰折れがないと判断できれば、来月1日にも法律どおりの消費税率引き上げを決断することにしています。
(2013/09/12 19:23 NHK


新たな経済対策 5兆円規模で調整 NHKニュース 新たな経済対策 5兆円規模で調整 NHKニュース 新たな経済対策 5兆円規模で調整 NHKニュース



このうち、9/10の朝日新聞の記事については、朝日新聞の予想による記事であると、朝日新聞自身が回答したという情報があります。

 ただいま、朝日新聞社の「お客様センター 記事問い合わせ」に確認しました。
電話対応は「×××さん」とおっしゃる担当者でした。


 当方質問
「安倍首相、増税指標クリアと判断 GDP上方修正で」の記事について、文章上は安倍首相が主体的に増税指標クリアしたと判断したと捉えることができる。
 御社がこの記事を書くにあたって一次資料となる会見やインタビューはいつどこで行われたものか教えていただきたい。


 繰り返します。
 御社がこの記事を書くにあたって一次資料となる会見やインタビューはいつどこで行われたものか教えていただきたい。


 お答え。


 ×××さんには記事及び担当部署に確認を頂き、次の回答を頂きました。この記事については、安倍首相がこのような発言をしたものではなく、朝日新聞の記者が、GDPの上方修正や米倉経団連会長が増税を求めているなどの外部環境を総合的に鑑みた上で、このような記事を作成いたしました。


 さらにmercury55さん(この電話をした方)のツッコミ。


 こちらより、つまりこれは朝日新聞社自体の予想に基づく記事ということですねと念押しをしたところそうですと言われました。
 この記事の記述ではあたかも安倍首相が発言したように取られる、朝日新聞社の意見であることを明示するべきと意見はしました。


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ただし、9/12の記事については、官房長官が明確に否定した後も、「増税決定」報道が流れ続けています。特にNHKは午後7時のニュースのトップでこの報道をしたそうです。
通常の「飛ばし」ならば、当事者が報道を否定すればそれで収まるのですが、今回はそうなってはいません。恐らくマスコミは、マスコミ自身が官房長官会見よりも信憑性があると考えているニュースソースから、情報を得ているのでしょう。それもほぼ全てのマスコミが。
だから官房長官が否定した後も、それを無視するかのように報道が流れ続けたのでしょう。


ただ、このニュースが根も葉もないものかというと、そうでもなさそうです。
高橋洋一氏はこの件について、次のような推測をしています。

来年4月から消費税率を5%から8%へ引き上げるのは、各マスコミでも既成事実のように報道している。筆者は、意見としては「上げるべきでない」という消費税増税の反対論者であるが、客観的に先週の動きをみれば、「増税になる可能性が高まりつつある」のは否めない。

筆者は並のキャリア官僚では経験できない官邸勤務が長い。各紙が報じる首相動静などを見ていれば、大体のところは見当がつく。


10日の4者会談+11日のナベツネとの会食


筆者が注目したのは、10日(火)と11日(水)の首相動静だ。10日は、

「午後0時55分から同2時2分まで、麻生太郎副総理兼財務相甘利明経済再生担当相、菅義偉官房長官。」

「同4分、閣議開始。午後2時23分、閣議終了。」

「午後6時同38分、東京・丸の内のパレスホテル東京着。同ホテル内の日本料理店「和田倉」で渡辺恒雄読売新聞グループ本社会長らと会食。午後9時15分、同ホテル発。」


11日は、

「午後3時54分から同4時42分まで、自民党高村正彦副総裁、野田毅税制調査会長。」


これから推測できるのは、10日の安倍、麻生、甘利、菅氏の4者会談の結果、増税の方向となって、閣議後の閣僚懇談会で安倍首相が経済対策を今月末をめどにまとめるよう指示をした。

その夜に、渡辺恒雄氏との会食では、明言はないものの、その日の雰囲気が伝わった可能性はある。

渡辺恒雄氏は、8月上旬政治家らへの手紙を書いて、来年4月の消費税増税を見送り、軽減税率の整備とともに再来年の消費税増税を主張していた。この手紙は、新聞業界への軽減税率の適用なしでの消費税増税に反対しただけで、ひょっとしたら増税を見越したアリバイ作りかもしれない。筆者も手紙を某政治関係者からみせてもらって拍子抜けだったが、永田町界隈ではかなり話題になっていた。

翌11日、自民党への説明というの「要路」を踏まえている。ここまで来れば、情報は事実上公開である。マスコミも、党の関係者からウラをとれたはずだ。

そして、12日(木)の読売朝刊に、安倍首相は消費税増税の方針と報じられた。しかも、同日付けの読売のスポーツ報知が、読売を補完するように10日の政府内の動きを報じていた。

一方、12日、菅官房長官は「あの総理が、消費税を引き上げるというですね、決断をした事実はありません。総理は、経済指標をしっかり見極めて、総理が来月上旬に判断されるということであります。」と記者会見で語ったが、これは、10日と11日の官邸の動きと矛盾しない。


ナベツネの手紙はアリバイ!?元官邸勤務者として10日、11日の首相動静から消費税増税を読み解く  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] ナベツネの手紙はアリバイ!?元官邸勤務者として10日、11日の首相動静から消費税増税を読み解く  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] ナベツネの手紙はアリバイ!?元官邸勤務者として10日、11日の首相動静から消費税増税を読み解く  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]



さて、これが本当ならなぜ安倍総理増税実施へと傾いたのでしょうか。
一つの要因として、9日に公表された4〜6月期四半期別GDP速報 (2次速報値)で、実質GDPが前期比0.9%増(年率換算3.8%増)だったことがあるでしょう。ただ、高橋洋一氏はそのうち3分の1が10兆円の景気対策の結果であり、今回の景気対策はその半分であるため、消費税増税のマイナス圧力には十分でないと論じています。

さて、報じられている経済対策であるが、5兆円規模といわれている。あるべき論をいえば、消費税増税で景気失速の懸念があるなら、消費税増税を見送ればいいという簡単な話が出来ないのが痛い。

また、消費税増税は恒久的案措置なので、それへの対策も恒久的な措置にしないと消費税増税のマイナス効果のほうが上まわるということになる。ただし、今、検討されているのが経済対策なので、一回限りの5兆円ということであるので、今回の消費税増税3%は年間8兆円なので、今後5年間だけを考えても、一回限りの5兆円では一時的なもののはずで、5/40=6%しか還元しておらず、話にならない。

新聞では、1年だけを見て、年間8兆円のうち5兆円を還すので、実質1%の消費税増税と同じという解説もあるが、恒久措置と一時措置を混同しており誤りだ。なので、経済対策5兆円では3%の消費税増税に対して雀の涙だ。

なお、9日に公表された4〜6月期四半期別GDP速報 (2次速報値)では、実質GDPが前期比0.9%増(年率換算3.8%増)だった。これを国内民間需要、国内公的需要、国外民間需要の寄与度に分けると、それぞれ0.4%、0.3%、0.2%となる。公的需要が0.3%と三分の一なのは、今年1月にやった10兆円の景気対策の賜だ。今回の経済対策はその半分しかないことも留意すると、消費税増税のマイナス圧力には十分でない。


ナベツネの手紙はアリバイ!?元官邸勤務者として10日、11日の首相動静から消費税増税を読み解く  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] ナベツネの手紙はアリバイ!?元官邸勤務者として10日、11日の首相動静から消費税増税を読み解く  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社] ナベツネの手紙はアリバイ!?元官邸勤務者として10日、11日の首相動静から消費税増税を読み解く  | 高橋洋一「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]



このように、今回のGDP成長率は景気対策でかさ上げされた数字です。これを除けば、まだ今回の消費税増税の目安とされる名目3%成長には達しないでしょう。実質2%成長には達していますが、まだ実質成長率(年率換算3.8%)が名目成長率(年率換算3.7%)を上回っている状況なので、デフレを脱却しているとは言えません。


そのような状況なのに、なぜ安倍総理増税へと傾いているのか、その理由と考えられる記事がありました。

 自民党税制調査会野田毅会長)は9日、来年4月の消費増税を巡り、全議員対象の会合を党本部で開いた。2020年夏季五輪の東京開催決定や4〜6月期の国内総生産(GDP)の上方修正など好材料が続く中、予定通り8%への引き上げを求める意見一色となった。税調は増税そのものの議論は今回限りとし、臨時国会に向けて成長戦略の検討を加速する方針だ。

 野田氏はあいさつで「わが党がどういう公約をし、選挙を戦い、今日に至ったか確認したい」と発言。「先送り」などの意見が出れば好材料を打ち消しかねず、増税は既定路線とくぎを刺した。

 これに対し、出席者は「増税は3党合意で決めたこと。きちんとやるべきだ」「五輪開催が決まり、景気先折れの懸念はなくなった」など、いずれも予定通りの実施を求めた。首相と金融緩和策で歩調を合わせる山本幸三衆院議員も「デフレ脱却と消費税は関係ない。10月まで延ばさず早く決めるべきだ」と首相の早期の決断を求めた。


消費増税:自民、8%への引き上げ論一色に 全議員会合で− 毎日jp(毎日新聞) 消費増税:自民、8%への引き上げ論一色に 全議員会合で− 毎日jp(毎日新聞) 消費増税:自民、8%への引き上げ論一色に 全議員会合で− 毎日jp(毎日新聞)



このように、自民党内部が消費税増税賛成一色では、安倍総理もその声を無視するのは難しいでしょう。
かつて、小泉総理は、自民党内部が郵政民営化反対一色の状況で、あえて郵政民営化を公約にして解散総選挙を行い、反対派を離党させて「刺客」候補を立てて追い詰め、その結果大勝しました。安倍総理が消費税増税反対を貫くのであれば、同じ事をやる覚悟が必要になるでしょう。
ただ、今は野党がボロボロの状況ですし、世論調査では消費税を8%に上げることについては反対の方が多いですから、そこまでやっても安倍総理は勝てるでしょう。ただ、その覚悟が安倍総理にはないのでしょう。
だから総理は増税実施に傾いているのだと思います。


さて、自民党内部が消費税増税賛成一色になってしまったのは、なぜでしょうか。
昨年9月に書いた記事で、僕は特定の支持団体に支えられた政治家は、税金によって集めた予算を特定の企業や団体、業界に分配することで支持や票を得るため、増税によって自分たちの財布を膨らませることに魅力を感じると言いました。

一方、政治家は選挙によって選ばれる存在ですから、一番関心があるのは票です。税金によって集めた予算を特定の企業や団体、業界に分配することは同じでも、得られる利権は最終的には団体・業界の支持を得たり、政治活動で票を獲得するために使われます。このような政治家は、増税によって自分たちの財布を膨らませることにも魅力を感じるでしょう。
ただし、政治家が票を得る手段はこのような利権によるものだけではありません。幅広く大衆の支持を得て(悪く言えばポピュリズム的な方法によって)票を獲得することも可能です。このような方法で票を獲得できる政治家は、予算を特定の企業や団体、業界に分配する必要はありませんから、増税によって自分たちの財布を膨らませることには、大きな魅力は感じないでしょう。


消費税増税を主導したのは誰なのか? - Baatarismの溜息通信 消費税増税を主導したのは誰なのか? - Baatarismの溜息通信 消費税増税を主導したのは誰なのか? - Baatarismの溜息通信



また、前回の記事で、財務省が消費税増税にこだわる理由は、「歳出権」の最大化であると言いました。
(この記事はタイトルを間違えていて、「歳出権」を「裁量権」としていました。すいませんでした。)

しかし財務省の視点から見ると、消費税増税による税収を景気対策名目で補正予算として配分することで、財務省の権力が増します。財務省シンパの政治家にとっても同様でしょう。
このように、消費税増税はマクロ経済の視点で見れば無意味ですが、財務省など増税派の利権確保という視点で見れば、大きな意味があります。
高橋洋一氏は、財務省増税を志向するのは予算での「歳出権」の最大化を求めているからだと言っています。


(中略)


僕もこれが財務省の本音であり、財政再建社会保障はそれをカモフラージュするための名目にすぎないと思います。


「歳出権」のための消費税増税 - Baatarismの溜息通信 「歳出権」のための消費税増税 - Baatarismの溜息通信 「歳出権」のための消費税増税 - Baatarismの溜息通信



自民党議員の多くは、特定の支持団体の支援で当選してきた議員です。そのような議員は自分の支持団体に予算を分配したいため、予算での「歳出権」を握る財務省に従いやすい傾向があるでしょう。また、消費税増税そのものにも賛成しやすい傾向があります。
そのような議員が多くを占める自民党を、消費税増税一色にするのは、財務省にとっては容易なことだったでしょう。その工作によって、安倍総理は「外堀を埋められた」のだと思います。


ただ、今回消費税増税を決定すれば、それはアベノミクスの「終わりの始まり」になると思います。
先ほども述べたように、今回の決定の根拠となった4〜6月期四半期別GDP速報は、景気対策でかさ上げされた数字です。消費税増税は「マイナスの景気対策」ですから、マイナス8兆円の景気対策になります。それに加えて景気対策が10兆円から5兆円に減らされるわけですから、マイナス13兆円の景気対策になります。そしてこの景気対策も1年限りですから、その次の年はマイナス18兆円の景気対策となってしまいます。(もしこの5兆円が複数年度の金額なら、来年のマイナス幅はもっと大きくなるでしょう)
今年、10兆円の景気対策が成長率の3分の1を占めている状況を考えれば、マイナス10兆円を超える「マイナスの景気対策」が景気に与える影響は大きいでしょう。そこに消費税増税の駆け込み需要の反動や、懸念されているユーロ圏や中国などの経済危機が加われば、2014年度はマイナス成長の可能性もあるでしょう。そうなると、1997年の消費税増税の失敗の二の舞となりかねません。
もっとも、当時は円高を志向する速水日銀総裁の時代だったのに対して、今はデフレ脱却を目指す黒田日銀総裁の時代です。だから金融政策はあの頃ほど緊縮的にはならないと期待できます。しかし、財政政策が足を引っ張る状況では、2015年のインフレ目標2%達成は困難となるでしょう。その結果、期待インフレ率は上がらず、リフレ政策の効果が上がらないということも考えられます。リフレ政策はインフレ期待に働きかける政策ですから。
このようにしてアベノミクスが失敗すれば、安倍政権の支持率も下がり、安倍総理の地位も危うくなるでしょう。


それを避けたければ、安倍総理は党内の反対を押し切って、消費税増税を延期するか、少なくとも増税幅を1%に押さえるべきだと思います。
安倍総理財務省の「歳出権」に屈して消費税増税を受け入れるのか、それともそれに逆らって消費税増税を見直すのか、それはアベノミクスや安倍政権の命運を左右することになると思います。安倍総理には、今回の決定がそれだけの重みがあることを、理解してもらいたいと思います。